ネットワークとグローバル化
―台湾の大学の場合―

台湾・淡江大学国際研究学部長 李本京

 

1.台湾の教育制度

 台湾には様々なタイプの高等教育機関がある。学生が中学校(Junior High School)から直接入学する5年制の高等専門学校(Junior College)に加え、3年制の短期大学、専門大学(Technical College)などの単科大学(College)、そして総合大学(University)がある。ほとんどの大学課程は4年制だが、特筆すべき例外として法律や医学分野の課程は一般に5〜7年制である。

 学生は高等学校(Senior High School)または職業系高等学校(Senior Vocational School)から、これらの高等教育機関の入学試験を受けて入学することができる。さらに短期大学を修了した学生は再びJUEEを受験して単科大学や総合大学の1年生として入学したり、あるいは入学を希望する大学の学部が実施する試験に合格して2年生または3年生として編入したりすることも可能である。私立の医科大学も合同入学試験による編入を認めている。

2.大学の現状

 台湾の大学には様々な修士および博士課程があり、学生は競争試験によって入学する。学生は大学から直接これらの課程に入学することもできる。1998年度において、台湾地域には合計137の単科大学および総合大学があり、総学生数は91万5921人であった。

 1998年度に91万5921人の学生が総合大学、単科大学、短期大学で学んでいたが、このうち53,870人が大学院課程の学生であり(43,025人が修士課程、10,845人が博士課程)409,705人が学部生、452,346人が短大生(197,855人が5年制課程、254,427人が2年生課程、64人が3年生課程)であった。これらの学生のうち、268,211人が工学、208,839人が経営学、89,546人が医学、67,769人が数学・コンピューター科学、62,867人が人文学、34,211人が教育学、28,804人が経済学・社会科学・心理学、24,404人が農学、21,152人が自然科学、12,484人がマスコミュニケーション、17,035人が芸術、26,845人が家政学、14,919人が建築、9,819人が交通・通信、11,538人が観光、1,548人が工芸、6,683人がその他の専攻であった。

図1.総合大学・単科大学・短期大学の学生の割合

3.教育改革と教員問題

 1994年にユエン長官は教育改革委員会を発足し、李遠哲博士を議長に任命した。2年間の懸命な努力の末、委員会は改革案の詳細とともに報告書を首相に提出した。その提案は以下のような点を含んでいた。(1)単科大学、総合大学、高等学校の数を増加させる。(2)中等学校(Middle School)と高等学校(High School)における(教師の)授業負担を軽減する。(3)全てのレベルの教育機関において1学級あたりの人数を減らす。

 その結果、教育改革の実施により教育支出が着実に増加した。政府と民間機関の共同の努力により教育支出は増加を続け、1998年に5545億台湾ドル、またはGNPの6.51%に達した。また同年の公立学校教育支出は77.7%であり、私学教育支出は総教育支出の22.3%に達した。1998年、政府および地方自治体における文教関連予算は予算全体の18.5%を占めた。中央政府においては、教育、科学、文化関連の支出は中央政府予算の15.27%を占めた。

 ここで触れるべき重要な要素は、高等教育機関における入学者数の増加率が極めて大きい点である。例えば高等教育機関の総数は1997年に67校であったが、1998年に78校、1999年には84校と増加している。機関の数は今後数年間緩やかに増加を続けるとみられる。逆の見方をすれば、これはある難しい問題を生んでいる。広く指摘されているのが教授と学生両方の質の低下である。

 さらに高等教育レベルにおける入学者数の急速な増加は、十分な施設や有能な教職員の確保を困難にしている。この問題は、海外で研究をしていた多くの学者たちが研究終了後もそのまま海外に留まることによりさらに悪化している。いわゆる台湾における「頭脳流出(brain drain)」問題である。政府は海外の学者にとって魅力的な契約内容を提示し、教職員不足を解消しようとしてきた。

 研究に従事する大学教員には、教育部から学術研究手当が支払われる。国立長期科学発展プログラムも研究者に特別資金を提供している。教授は7年間勤務すれば、その後研究に専念するために長期休暇を与えられる。

 台湾では学生は高等教育機関における意思決定に参加しない。中華学友会のような組織は活発に学生活動をしているものの、正式な全国的学生組織はない。各大学には学生サークル連合があり、大学の方針に対して提言をすることが許されている。

4.今後の課題と展望

 教育を一層多様化するため、学生たちが恐れる大学入試は2002年に廃止される。教育改革は重要な長期目標である。しかしながら社会は過剰な心配をしており、パニック状態に陥ったかのように改革を実行しているようだ。過去5年間に規制が緩和され、推薦入試や面接の導入、自己学習プログラム、A−F式評価方法などが採りいれられた。次々と出てくる新しい教育条件の中で、教師や学生、父兄たちは最新の改革措置に適応する間もなく、次の改革に直面するよう迫られている。もともと、1年生から9年生(中学校3年生)にまたがる統合カリキュラムは来年実施される予定だった。

 全般的な方向は明確である。即ち、より柔軟で多様、国際的な方向である。世界的競争に学生たちがよりよく適応できるよう、来年から英語教育は5年次に開始される。

 情報時代の知識に基づく競争に直面する台湾にとって、教育改革は絶好の時機に訪れたと言える。現在台湾には130以上の単科大学と総合大学があるが、これは10年前の2倍以上である。同じ期間に、大学の合同入学試験の実施割合は一気に30%から60%に増えた。さらに驚くべきことに、昨年大学院課程に対して60,000人の学生の入学申請があったが、これは昨年の大学卒業者の数に等しい!

 これはほとんどの学生がもはや学部教育だけでは満足ないことを示している。学生たちはさらに次の教育レベルに進みたいと願っている。

 いわゆる「過剰な人文系卒業者」と「大学卒業者の失業」を防ぐため、過去10年にわたり様々な大学が文学や歴史、哲学などの学科を削減または廃止した。台湾の大学の530,000人の学部生および大学院生のうち、230,000人がコンピューター科学、化学工学または他の工学科目を専攻している。36,000人のみが人文系――文学、哲学、歴史など――の専攻である。台湾の教育システムにおける人文系科目の軽視は、この社会の実用・実利主義的性格の顕れといえる。

 (この論文は、1999年11月22日〜26日、フィリピン・マニラにて開催された第一回アジア大学連合年次総会において発表されたものである)