南米南部共同市場(メルコスール)の現状と今後の展望

パラグアイ・アスンシオン国立大学正教授/パラグアイ中央銀行・国家会計市場局長
カルロス・ロドリゲス・バエス

 

1.メルコスールとは

 メルコスール(Mercosur)は共同市場創設を目的とした関税同盟の一種であり、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイが加盟国になっている。このほかに準加盟国としてチリとボリビアがある。そしてこれらの国は貿易上の協定を結んでおり、将来的には完全な統合を目指している。加盟国の国内総生産(GDP)を順にみてみると、アルゼンチン2981億ドル、ブラジル8998億ドル、パラグアイ86億ドル、ウルグアイ225億ドル、チリ730億ドル、ボリビア80億ドルという規模である(1998年、但しボリビアのみ97年値)。

 メルコスールは社会的正義と公正を大前提とし、各国の経済発展の加速化を目的としている。南米における貧困を解決することもその目的の一つである。この目的は段階的に中・長期的に達成されると予想される。この各加盟国共通の目的を達成するためには、各国のマクロ経済政策の調整、各分野の互換性が考慮されなければならない。さらに資源の有効活用、環境問題解決も含めて物理的に統合の状況を好転させることが狙いである。

2.メルコスールの成果

(1)組織とその経緯
 次にメルコスールの組織を分類してみる。組織は意思決定機関とその他の機関の二つに大きく分けられる。意思決定機関として、共同市場審議会があり、共同市場グループが前者が決定した決定案を承認する。その他にメルコスール貿易委員会があり、ここからさまざまな指示が出されるようになっている。その他の機関としては、代議員機関、諮問機関、補助機関などがあり、組織内の名称としては第一に総合委員会、経済社会諮問委員会、メルコスール事務局というようになっている。また、紛争の解決手段としては、すべてブラジリア議定書にもとづき紛争処理がなされることになる。それから上述のメルコスール貿易委員会の指針にもかけられ処理される。

 これまで、ラテンアメリカの統合は非常に緩慢な速度でなされてきたのであるが、それは政治的に常に不安定な要因が多かったことが原因である。しかし、1996年にメルコスールの統合を妨げてきた政治的問題について諮問、その結果、協議をおこなうメカニズムができたのである。その際、統合は民主的体制を基本前提とするという原則が確認された。そして、また非常に重要なことは、98年パラグアイにおいて開催された会合により、加盟国は民主的活動を遵守することが決定された。この決定によってメルコスール加盟国における政治の不安定性の課題が解消されたのである。

(2)貿易自由化のプログラム
 さらに、貿易の自由化プログラムが決定された。具体的な内容としては関税を段階的かつ自動的に引き下げるというものであり、このような形で加盟国に存在する貿易上のさまざまな障壁の排除を試みたのである。手始めに、各国が関税のレベルを47%まで下げ、次に6カ月毎に7%ずつ下げ、1994年の末までに関税をゼロにするという計画であった。アスンシオン条約が91年に調印され、それによってメルコスールが創設されたのである。この条約は24章と5つの付属文書からなっているが、その付属文書第5において作業部会が創設された。この政策の作業部会は、マクロ経済政策を調整することにより統合を促進しようとしたのである。

 私がかかわってきた作業部会第4は、投資の保護、促進に関する部会であり、これはメルコスール域内外からの資本を出来るだけ域内にとどめるようにすることを目的としている。さらにまた加盟4カ国は農牧国であり、当然この分野は各国にとって優先度の高いものとなる。また農牧国ということから派生して第1次産品、あるいは大規模農産業の重要性も課題となる。

 そして作業部会第8は、特に農牧業に関する部会であるが、仕事においては特に次の点に重点がおかれた。@農牧業、大規模農産業の技術政策の調整、A構造改革転換、B農業政策の調整、Cメルコスールにおける競争力のチェック、D農牧産品の無秩序な取引を除去するための提案の作成、E農牧部門における中小の事業者をこのプロセスに組み入れ、F農牧部門における環境の保護、G農薬の毒性による汚染の規制などである。

 対外的にも共通の関係を調整するということで、0%から20%の間を年間2ポイントずつ下げていく方法を考えたのである。ただそれには例外もあり、資本財、情報、電気通信、各国が例外として提出した産品のリストにあるものに関しては共通の関税を適用しないよう決められている。同様に域内においては、そのための関税の引き下げを行い、貿易の自由化を図り統合に向けてのマクロ経済調整政策がとられたのである。但し、砂糖と自動車は例外になっている。

(3)為替政策の調整
 このマクロ経済の調整に関して最も問題となったものは、各国の為替政策の相違である。しかしながらこれに関しても過去数カ月間において大きな進歩があった。米州自由貿易圏(FTAA)の交渉の進捗、WTOの2000年会議の失敗、アルゼンチンとウルグアイにおける新しい政権の誕生、このような出来事を機に、現存するさまざまな不平等、不均衡を克服し、新しい基盤を築き新しいダイナミックスをこの統合のプロセスに与えるべきだという機運が高まったのである。

 その機運の中で、最近、ブエノスアイレスで行われた会合において科学技術計画が合意された。そしてこれは7つの戦略的な分野における統合的な共同プロジェクトを推進する試みを提案している。その内訳としては、農業関連産業、メルコスール統合エネルギーシステムなどである。この中で達成されたものの一つとしては、加盟国がマクロ経済に関する比較、統計データを作成し、それを発表していこうという試みがある。

 経済のデータとはインフレ、財政赤字、公的債務などの指標をさす。そして2001年の3月までにどのようなレベルまで到達するかという目標の数値が決定できた。それはマクロ経済を調整する目的、目標値であり、それらをもとにマクロ経済政策の調整を図るということである。例えば具体的には財政赤字をどの程度まで認め、いつまでに調整を達成するのかといった時期なども決められるのである。そのためにモニタリングするグループが組織され、さまざまなフオローの活動をすることになっている。そのメンバーは各国中央銀行、経済庁から選ばれることになっている。

 そして最終的目標は、メルコスール加盟国の政府が「小型マーストリヒト条約」を調印することであり、そのためにさまざまな活動がなされている。その活動をするのは前述のモニタリンググループのことであるが、その他には各国が参加する広報委員会があり、それが各国の債務、累積債務、消費者物価指数などをモニタリングすることになっている。

 しかしながら、メルコスールの中で経済的に影響力が大きいアルゼンチンとブラジルの2国が、メルコスール統合の動きを鈍らせている。貿易上の軋轢や紛争が起こった1999年は、この地域にとって非常に困難な時期であった。それを機にメルコスールは今後の方向性を再確認、最決定しなければならない時期に入った。具体的には、これまでの流れに沿って統合を進めるのか、あるいは自由貿易地域をつくるのか、共同市場の形成に向かっていくのかということを決めなければならないのである。

3.今後への課題

(1)組織強化策
 メルコスールが今後の方向性などを再確認するようになったのは最近のことである。それは新しい方向付けをして、強化するというものである。そうすることにより、今まで浪費した時間を取り戻し、統合を加速していくようになった。そのために主に次の点に力がそそがれている。

 第一に、メルコスールの結束力を強化するための議定書に調印し、これを今年中に発効できるようにしなければならない。次に、加盟国は通商上の保護基準を2000年末までに調整しなければならない。また、各国の大学教育のカリキュラムにおいて、特に工学、医学、農学に関する修了証書をメルコスール加盟国と準加盟国、ボリビアにおいてお互いに認めあうこと。そして来年にむけて共通のパスポートの準備が急務である。

 経済政策の観点からは、加盟国と準加盟国の計6カ国が共通の測定基準にもとづいてマクロ経済の統計を発表すること。また政府調達は2000年に合意が予定されている。さらにアルゼンチンとブラジルは防衛政策についてパラグアイ、ウルグアイと常に協議しつつすすめることなども大きな課題である。

 このような目的を達成するためにメルコスールにおいて、結束力を維持・強化するための委員会が結成された。その委員会は価格協定やカルテルの形成、加盟国の特定企業に対するアクセスの妨害などの問題解決を担当し、不法行為は処罰されることになる。不当競争の問題、サービスの売買に関する条件の義務付け、技術と開発について制限を加える行為などは不当なものとみなされる。特に、原材料の供給権を平等にわけるということも含まれる。この新しい委員会は政府間で代表者の派遣により形成されているため、各国の機関とは直接交渉を行わないと決められている。

 各加盟国の中には保護主義的な色合いの事例も存在する。例えば、アルゼンチンはブラジルが提案する自由貿易地域でつくられた製品に輸入税を掛けないことに対して全面的に拒否している。一方ブラジルは、自由貿易地域においてつくられた製品には輸入税はかけられるべきでないと主張しているが、現在のところはメルコスール域外からの製品と同じく35%の関税がかけられている。実際問題、アルゼンチンはブラジルの保税地域に進出した会社が生産した製品を多く輸入しており、1990年度だけをみてもアルゼンチンのそれらの輸入額は7000万ドルに上る。

(2)教育、環境、交流の共通化
 次に、メルコスール域内における学位認証を認め合うことに関しての現状は、18大学の中で、認証を受けることができたのは2つの大学であり、その中で3つの学部のみが認証の対象として選ばれた。この作業に4年の歳月がかかっている。つまり、時間を掛けた割に実際に認証された大学は限定されたものであった。

 大学の認証に関しては、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、ボリビアの各大学は、教育の質を計るパラメータを対象としての認証を受けることになり、その認証は「メルコスール・シール」と呼ばれ、2001年1月から受けるようになる。メルコスール・シールにより、大学の修了証書は域内すべてにおいて自動的に有効なものになるわけである。このような形で修了証書の合意が行われると、各国大学卒業生の域内の移動が活発化されると予想されると同時に、彼らの課程の質が保証されることにもなる。ただし、この課程は現段階では医学、農学、工学に限定されている。今後、メルコスール・シールはこの域内における新しい教育計画の一環をなす計画もあり、2001年に発効されることになる。その中で卒業試験のほかにも加盟国の政府は小学校において、ポルトガル語、スペイン語の教育を行うことを決定した。

 しかしこの6カ国が教育に関する合意に調印しても、国の外交関係が正常になるわけではない。例えばボリビアは、所有していた太平洋側への出口地域をチリが奪ったことを未だに非難しているし、そのような中でカリキュラムに関していかに共通見解を見出すかが課題である。さらに深刻な問題としては、近年のラテンアメリカにおける軍事独裁制の歴史が加盟国と準加盟国の間に不毛な衝突を起こしてきた事実がある。

 さらに環境問題も統合にとって大変重要な課題となっている。現在、環境基準の共通の枠組みを作成中であり、このことは統合の将来に大きな影響を及ぼすものである。複雑な問題も多く、例えば遺伝子操作をした種子の問題にしても非常に難しい問題である。複雑な現状からみると、環境問題の議定書の内容も有名無実になる可能性が懸念されるため、生物の多様性やさまざまなテーマを扱う必要がある。例えば、環境に対する影響についての調整法、さまざまな生態の環境に対する認証、天然資源の持続性を考慮した有効利用、環境保護の方法などが懸案事項は多い。

 2001年に発効される共通のパスポートにより域内の人々は大きな便宜を受けることになる。それは単にパスポートの色が統一されるだけではなくて、データを読み取るシステムが統一されたり、そこに掲載されるデータが統一されたりするようになることになっている。しかしこれに対しては出入国に関して新しい規則を採択しなければならないという大きな障害がある。また共通パスポートに対して小国のパラグアイ、ウルグアイ政府はこれらの人口の動きに懸念している。両国の人口をあわせても1000万人であり、それに対してブラジルは2億人。このシステムを導入するには非常に公正かつ明確な規則が必要とされるだけでなく、第三国に対しての入国規則も調整する必要もあると考えられる。

 欧州連合はこのような規則を80年代の半ばに施行しており、それによりヨーロッパの人々は域内を自由に通過することが出来たのである。つまりこの共通パスポートは単にそれが統合のシンボルとして発行されるだけではなく、実質的に何らかのメリットをもたらさねばならない。

(3)経済分野における統合の動き
 現在、政府調達合意に達するための活動がなされており、加盟各国の外務省は政府調達の大きな枠組みを決定するための活動をすすめている。この政府調達の枠組合意の目的は、この域内の会社が平等に参加できるようにする点にある。この域内における政府調達の市場は300億ドルに上る。

 正しい関税法についても討論されており、これは同様の手順で内容を承認し、この域内の各国が国内法制化するという次のステップに向かうことになる。そしてこのことにより加盟国間は恒常的かつ共通の原則に沿った関税の操作、手続がなされるようになる。しかし、ここで派生する大きな問題は、国の主権にかかわる問題である。まず、お互いが持つ施設を他の国の為に提供しなければ始められないプロジェクトだからである。一国の機械をほかの国の場所へすえつけ、関税に関するデータを得る必要がある。そのような形で情報システムを構築していく。そのほかの問題としては、関税に関しての問題が生じた場合、その処分をどうするかということである。

 最近は自動車分野でも合意がなされている。このことにより、他の産業分野も活性化されると予測されている。特にブラジルとアルゼンチンを主としたメルコスールの自動車部門が貿易に占める比重は非常に高く、統合のプロセスにおいて重要な役割を果たすことが期待されている。現時点におけるメルコスールの貿易全体の中で自動車部門が占める割合は35%である。

 メルコスールで再び重要な点として浮上してきたのは、貿易関税法の計画である。それは統合の試みの中で失われた時間を取り戻そうとしている分野でもある。従ってこの分野で早急に行なうべきことは、国際信用保証に関しての諮問のメカニズムを再び機能させることにある。このメカニズムは既に3年前に創設されたのだが、現在までのところ利用されたことはなかった。また共通の課題としては、情報の共有と南米における防衛上の問題を検討すること、そして共同の行動をとり、調整を行なうことも含まれている。ただこの共同の行動は古典的な意味における軍事同盟を意味するものではなく、単にお互いが理解し、調整していけるように理解の土台を作るということであり、また共通の利害にかかわる解決策を模索するということである。

(4)エネルギー共同市場構想
 メルコスールはラテンアメリカ全体のエネルギー共同市場構想での大きな踏み台になるものである。つい最近、ラテンアメリカにおいてエネルギーを共同で用いることに関して、規則の監査に関する協力の合意がなされている。そしてその中で想定されている分野は、水力発電、天然ガス産業、石油産業、石油精製品産業である。そしてまたこの中にはさまざまな協力活動も含まれるのであるが、その内容としては情報、規制に対しての経験・情報の交換、科学、技術、環境保全に関するものがあげられる。

 この構想を裏付けるような理想的な形で、エネルギーに関する統合の成果がすでに現れてきている。具体例としてブラジルとアルゼンチンの間においては、アルゼンチンのアラビー、ウシーナ地区の発電所を通じて、ブラジルに1000メガワットの電力を供給する取決めがなされている。このプランはブラジル南部のエネルギーにとっては非常に重要な供給システムになるものであり、そのコストは2億5千万ドルに上る。また同時にパラグアイも世界最大の水力発電所を通じて5千メガワットの電力をブラジルに販売出来るようになるという。このためにブラジルはパラグアイと共同で270億ドル投資した。

 そしてその他に技術協力に関しても、さまざまな検討が加えられ、7つの重要な分野がすでに特定されている。これは戦略的な連携、戦略的な形での社会開発の重要な分野ということであり、原子力、情報、バイオテクノロジー、人材開発、宇宙、法制度の共通化、農業関連産業というものが挙げられる。その有効性は米国クリントン大統領がインドとパキスタンを訪問した時に、メルコスールの域内においてブラジルとアルゼンチンが原子力の分野でも協力関係を持続していることを話の引き合いに出したほどである。このようなモデルはアジアの紛争国インドとパキスタンの間における紛争解決手段の糸口になる可能性もある。
 
(5)貿易相手国の多角化
 調査結果によると、1980年に、後にメルコスールを形成する加盟国の主要10品目は域外に向けての総輸出の中で39.3%を占めていたのであるが、1990年には32.3%に下がり、そして1999年にはさらに24%にまで下がった。また輸出品目の構成が非常に多様化しているという特徴もある。特に付加価値の高い商品の占める比率が伸びてきている。これは一次産品よりも多くなっているのである。

 メルコスールは重要な戦略の一つとして新しい加盟国、貿易の相手国を探しており、欧州連合やFTAAとも交渉している。さらにアンデス諸国、ペルー、エクアドル、ベネズエラ、コロンビア、メキシコ、南アフリカとも重要な話し合いが持たれている。特にアンデスグループ諸国との交渉は優先度の高いものであり、この二つのブロックのリンクは南米における広大な自由貿易市場が作り出されることを意味しており、非常に重要な懸案である。

 またWTOのシアトルにおける閣僚会議の失敗から5カ月余経過しているが、いまだに多国籍間の交渉の先行きが不透明な状況にあることから、メルコスールは国際的貿易の中で何に優先度を与えるか早急に決定しなければならない状況にある。従って今年はEU,FTAAとの交渉がある重要な年になる。この二つのケースにおいてメルコスールの関心は保護主義の打破である。そして相互理解の強化により、それぞれの地域に対して製品が入りやすくするという点にある。特にヨーロッパ市場、米国市場にメルコスールの産品、食料加工品が入りやすくする点である。つまり自由貿易の方向性をもっているということである。

 パラグアイの主な輸出先を輸出額の多い順に見てみると、まず@ラテンアメリカ統合連合[ALADI](ラテンアメリカのなかでも最初の統合グループになったところ)、Aメルコスール、B欧州連合、CNAFTA、Dラテンアメリカ統合連合その他の国、Eアジア諸国(日本を含む)、FEFTAなどとなっている。1998年の数字を見てみると、例えばパラグアイの総輸出額は10億1400万ドルに到達したのであるが、この輸出総額の中で対日輸出は非常に少ない。また1999年の数字を見ると対メルコスール輸出は70%近くを占めていることがわかる。それ以外が他の世界に対する輸出額になるのである。 

 次にパラグアイの輸入先もやはりメルコスールの占める割合が高い。域内からの輸入はパラグアイにとって非常に重要なのである。過去7年間の推移を見てみると1991年の総輸入額の12億7500万ドルから98年には24億7000万ドルにまで伸びている。

 パラグアイの貿易においてアジア地域は重要である。アジア諸国全体からの輸入比較において日本は4番目であり、日本の占める割合も非常に高いのであるが、パラグアイの対日貿易は大幅な赤字になっている。原因はパラグアイが日本に供給できるものが少ない点にある。日本へは農産品、牧畜産品、林産品が輸出されている。パラグアイの輸入先を大別すれば「メルコスール域内」と「域外」に分けられるが、1996年以降、域内輸入が域外輸入より増加していることがわかる。域内でも特に、チリとブラジルからの輸入が増えている。同様に輸出面においても1990年から1993年までは域外への輸出量が多かったのであるが、1994年以降は輸出先として,メルコスールの比重が高まったわけである。特に対ブラジル輸出が増えているのである。

4.メルコスールの展望

 以上のような内容を踏まえた上で、今後、南米共同市場、自由貿易地域というものを考慮した場合、ビジョンと基本的構造を明確にすることが急務である。そして基本的な構造の基礎として5つの分野が考えられる。即ち、貿易、生産構造、規制、技術、政治の分野である。

(1)貿易と生産構造
 まず貿易について。メルコスールは域外に向けても基盤を固める必要がある。従ってWTOにおける農業に関しての合意などは常に評価されなければならないということになり、そこにおいて定められた義務、約束は常に達成されなければならない。特に保護主義的な政策の強い国はこれを守るべきである。

 次に生産構造について。特に重要なのは企業の効率性である。中小企業、特に食品業は社会の統一を考えた場合も含め、教育、技術、企業経営に関連して大きな役割を果たしている。その中でパラグアイは日本からの協力対象国として、三つの主要国の一つとして技術協力を受けている。日本からさまざまな形で技術移転が行なわれており、主要な農産物、特にマカダミアナッツなどに関しての技術移転はパラグアイにとって大変重要なことであり、大学関係者を含め、指導者たちは日本に対して深い感謝の念を抱いている。

 日本はまたパラグアイの生産構造改善計画を作成し、メルコスールにおけるパラグアイを大いに支援しようとしている。そのために中小企業を基盤としたプラスカーと呼ばれる持続的な経済社会開発モデルを作成しており、その発展を促進するために日本は10名の専門家を派遣している。このプロジェクトを通じてパラグアイが比較優位を持つ分野を特定しようとしているのである。

(2)規制と技術分野
 次に規制の分野においては、さまざまな国の種種雑多な規則、法的な枠組みを調整しようというものであり、メルコスール内におけるさまざまな決定あるいは合意を有効にしようという試みである。また技術分野においても、さまざまな機関、政策の調整が必要である。技術開発を促進して公的機関、民間からの投資を引き出さねばならない。そして今後、域内においては農業分野における知的所有権に関する問題が数多く浮上することが予想されるので、これに対処するためにも技術面の調整が必要になっている。

(3)政治分野
 今まで殆ど検討されてこなかった分野が政治面である。これはブロックを単位とした政治的な交渉は行なわれていなかったことを意味する。リオデジャネイロでの大統領会議において、どのようなルールを基準にしてこの件を進めていくのかということが明確になった。それは「メルコスールは他の南米諸国と共存・協調できる」、「共に統一を図る」、「共にさまざまな活動を行う」ということが明確に謳われた。

 以上の3点を踏まえ、自由競争にもとづいた形で、より広範囲な経済、社会のグローバル化を模索すると言う点で一致したのである。

 世界でも有数の工業国であり、その成長率の高い日本こそ南米に目をむける必要があると私は考えている。今後の南米におけるさまざまな統合劇の中で、私は一人の大学人として、日本の有識者と対話を通し日本と南米を近づけることができるであろうし、メルコスールの今後の発展の基礎を築いていけると確信する。また日本を含めたアジア諸国は市場拡大の必然性からは逃れられない。そういった意味においても南米と日本、アジアとの距離を短めることは両者の潜在的ニーズに合っていると考えるのである。
(2000年9月19日発表、文責編集部)

注:メルコスール(MERCOSUR, Mercado Comun del Como Sur)
 アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの南米4カ国が参加し、財、サービス、労働の域内自由市場創設を目指す共同市場。1991年11月にアスンシオン条約によって合意され、95年1月に発足。この地域の経済成長も相まって、域内の貿易と直接投資は急増した。域内製品に「メイド・イン・メルコスール」という統一ブランドを利用する案も検討されている。事務局はウルグアイの首都モンテビデオ。域内総人口は2億人。GDPの総計約1兆1000億ドル、貿易額は約150億ドル(96年)。[「イミダス2001」等より引用]