平和文化の特徴と文明間の対話

ウガンダ国連大使 セマクラ・キワヌカ

 

1.はじめに

 人類は数千年にわたって真なる平和の世界を希求してきた。今や新世紀を迎え、我々が直面する課題は平和の世紀をいかに建設するかである。そしてそこに向かう道のりは既に示されており、さらに発展の出来事がはっきりと見えている。

 その一つとして、国家間のレベルのものがある。例えば、1899年のハーグ平和会議、1919年の国際連盟、1945年の国際連合とユネスコ、そして1989年に初めて「平和文化」を定式化させた平和に関するヤモウスクロ会議などである。その他の画期的事件としては、国内レベルのものがある。例えば、南アフリカ共和国におけるアパルトヘイト政策から人種差別のない立憲主義的政治制度への移行がある。この出来事はアフリカ大陸全体に相当なインパクトを与え、更には世界に向けて一つの先例を示すこととなった。

 他にもそのような出来事がある。例えば、1986年のフィリピンにおける非暴力的民主革命である。その革命に際しては、非暴力の訓練を受けていた数百万の非武装の民衆は、政府勢力と対決し、最終的には政府に実際の選挙結果を認めさせたのである。近年成長してきた草の根組織主導の運動の伸張は、草の根組織の相互協力を生みだし、更には地球規模の運動へと発展している。それらの多くは、自然環境の保護・回復や文化的な多様性の維持を目的とした平和文化と非暴力主導の運動となっている。

2.「平和文化」

(1)特徴と原則
 平和文化の特徴として、以下のものが挙げられる。

1)紛争解決のために、武力衝突に訴えるよりは、対話と法的手段による解決の道を優先させること
2)文化的多様性に対する寛容さと尊重の心
3)基本的人権と基本的な自由の尊重と保護
4)法の支配を遵守すること
5)言論の自由の保護と報道の自由の保障
6)認知された組織に対する尊重
7)宗教、人種に基づく差別をしないこと
8)民主主義的統治と多元主義に対する尊重

 平和文化は次のような諸原則に基づいている。即ち、国連憲章に規定された諸原則、基本的人権、民主主義と寛容、発展の促進、平和のための教育、規制を受けない情報通信、暴力を回避するための統合的アプローチとして諸民族の広範な参加などである。

(2)国連の役割
 また、コフィー・アナン国連事務総長は、次のように分析している。
 「戦争という悪から次世代を救う」という国連憲章の中の注目すべき言葉は、国連の使命であるが、国連憲章が採択された1945年当時と同じように今日においても有効かつ妥当性のあるものである。国連にとって、武力紛争を回避すること以上の崇高な目標、深いコミットメント、大きな大望はない。しかしこの半世紀の間に世界が大きく変化し、戦争の廃絶ということは複雑な課題となっている。

 国際社会は、生命、平等、表現の自由寛容、男女平等、国家・民族・宗教間の深い相互理解などを推進しなければならない。これらの課題は、国連総会が「平和文化に向けて」というアジェンダを考慮し始めたときに提示されたものである。

 平和文化の推進という課題はかなり広範囲で遠大な問題であるために、それが国連のシステム全体の最優先事項とならないと成就されることはないであろう。これに関して教育の貢献が、強調されすぎるということはない。広義の教育は行動を促す指導的様相を持っているが、それはまた社会正義や持続可能な人間の発達と関連されるべきである。これに関して国連は、既にいくつかの貢献をなしており、それらは次のような国際会議の結果とその後の効果に示されているとおりである。即ち、人権を謳ったウイーン会議、持続可能な人間開発を謳ったリオデジャネイロ及びコペンハーゲン会議、女性の平等を謳った北京会議などである。それゆえ、ユネスコの平和文化プログラムの枠組みの中で、教育内容に関する世界の中心としての国際教育会議は、1990年代を通じて人権、民主主義、国際理解などにずっと関心を寄せてきたのである。それはユネスコが平和文化のカリキュラムの枠組みとして『INNOVATION』に示した役割と一致している。

 ユネスコの「平和への道」には、次のように述べている。
 価値の学校、態度の学校、とりわけ実践的行動の学校となるようにしなさい。なぜなら、非暴力によって正義が実現できることを私たちは学ぶことができるし、人権が人間各人にとって身近なものであることを確証できるからである。

 国連に代表された国際社会は、刷新されたコミットメントを採択するように突きつけられており、将来の世代を戦争と言う悪から救うという基本的課題にも取り組まなければならない。この取り組みは、世界あり方や戦争の発生を改革していくのみならず、それらの奥にある文化的な根っこである「暴力や戦争の文化」というものを「平和文化」に転換していくことが要請されている。それゆえ、国連総会が第51回総会101決議において、ユネスコ活動に関するリポートのみならず、仮宣言の草案の基本事項および平和文化に関する行動プログラムを求めてきたのも当然のなりゆきといえる。

 「戦争の文化」から「平和文化」への移行は、人類にとっては大きな課題であり、それはまた、教育によって非暴力の原則と地球家族の意識に世界の人々全体が目覚めた社会を意味するものなのである。「平和文化」は、持てる国と持たざる国との間の対立を深めてきた政策をやめるということも意味しており、知識と安全への希求を反映したものでなければならない。

 「戦争の文化」から「平和文化」への移行という問題はまた、ユネスコによって優先的に取り組まれてきたし、21世紀に向ってさまざまな段階でそれは既に促進されつつある。平和文化は、社会各層の交流と参加を反映し誘発させる一つの価値観、態度、行動に立脚しており、それらは自由、正義、民主主義、寛容、連帯、暴力の放棄、それらの根本と向き合って紛争を解決しようとする努力などの原則を基礎とするものである。また、対話と交渉によって問題を解決しようという決意であり、それによって自分の置かれた社会の発展のために完全に与するために、全ての権利と手段を行使するのに必要な保証が与えられるのである。

3.実践行動への戦略

 コフィ・アナン国連事務総長は、次のようにも言っている。
 武力衝突が終結して平和建設の時がきたときにそれに関与することよりは、そうした暴力の根本原因をまず第一に訴えてそのような暴力行為を防止することのほうが、むしろ人道的であり有効である。これこそ「平和文化」の本質である。国家のレベルにおいては、正義、民主的社会参加、国民の発展段階において広範囲な人々を包括することなどに基礎をおく統治を意味する。

 実際上、多くの人々は、日常的にそれぞれの地域において権利と社会正義のための非暴力団体に与している。彼らの行動は大体において人目につく派手なものではないが、彼らの活動への参加は民主主義文化の発展につながっているのである。なぜなら、彼らの行動は、暴力行為とは違って、テレビの報道や映画で派手に描かれるものではないからである。我々の周囲には、我々がもう一度認識を新たにして再発見すべき殊勝な人々が眠っていると思う。彼らこそ、それぞれの地域において未来を担う世代の人々に対する模範となるべき人々で、我々はそのような人々を見つけ出して彼らからよいものを学び取っていかなければいけない。

 ここで、ウガンダにおける実践に向けた戦略を紹介しよう。
1)非暴力を推進し、人権を保護する行動
2)民主的社会参加や持続的な人間の発達を促進する行動
3)男女間の平等を保障する行動
4)自由な交流参加と情報・知識の自由な流れとその共有をサポートする行動
5)さまざまな民族・文化間における相互理解、寛容さ、連帯を高める行動
6)平和文化を促進する行動に向けた協力とその普及活動

 「平和文化の国際年」(2000年)を、世界の学校や生涯学習の課程の中に組み込んでいこうではないか。正しい価値観、態度と行動を伴った学校にすれば、我々は非暴力によって正義を得ることができるし、人権というものがすべての人にとって身近なものとなることを保障できるのである。

(この論文は、2000年2月12日、韓国・ソウルにおいて開催されたIIFWP国際会議において発表されたものである)