平和に向けたイスラム文明の役割

イスラム会議機構・国連常任大使 モクフタール・ラマニ

 

1. イスラム文明

 家庭、普遍的価値、世界平和を目指した文明間の対話というテーマについて論議するために、我々は友好的協力精神を基礎としてこの会議に参加したものである。ここで皆さんと共に、簡単ではあるが「対話」がもつ意味・概念について、すこしく考えてみたい。このような「対話」は、多様な道徳的価値観や倫理観を認める点に基礎をおいている。それは、人類共通の願いである平和、安全、繁栄、正義に対する未来の目標を実現するために、国家間の建設的な相互理解と協力の土台となる広範な枠組みを提示してくれるものである。

 歴史上多くの文明が現れては消えてきたものの、世界のどこにおいても通用することのできる普遍的な倫理・道徳観を発展させ、世界問題を論じるに際して、文明はなくてはならない枠組みを提供し、重要な役割を果たしてきた。特に歴史は、イスラム文明がいかに燦然と輝く光を発しながら、科学、文学、芸術、建築、哲学などを始めとするさまざまな知識学術分野において、人類に対して大きな寄与をしてきたのか証明している。

 イスラム文明は、信仰と正義、創造性、勤勉性を根底にもつ文明であり、すべての人間の尊厳性と平等性の発展を支持してきた文明であった。そして多様なさまざまな文化を受容しながら相互交流する中から、ギリシア科学であれ、ペルシア知恵文学に関連することであれ、各地において価値を発揮することのできるものを内包してきた。イスラム文化が追求してきた他の文明との相互交流の精神は、時代的な年輪と共にアフリカ、アジア、ヨーロッパなどを問わずあらゆる地域の人々に豊かな実りをもたらしてくれ、時空を超えて人類の統合と調和の徳目を繰り返し確認してきたのである。

2. イスラム世界と他文明との対話

 国連がこれまで二つのセッションを通して文明間の対話のための決議文を採択してきたが、イスラムにおいてはそれはさほど驚くほどのことではない。それは、皮膚の色、人種、民族、言語、文化、宗教の違いを超えて、すべての人々と国家が平等であり、人間は皆同一の運命共同体であることに対する、我々の信念と確信を反映しているためである。イスラム会議機構は、「人類のもつ文化と文明の多様性こそが、人類の繁栄と発展のために効果的な手段になってきた」との信条を繰り返し確認してきた。

 そしてどのような文明圏から胎動した固有の原理や倫理的価値概念でも、そのことに対する全般的に尊重の姿勢を表示してきた。このような内容は、人間と国家の間において建設的な協力の土台を構築することのできる強固な基盤になり、新しいミレニアム時代における国際的な関係と交流を強固になすことのできる効果的な道徳的枠組みを形成してくれるのである。

 国連総会の決議案に盛り込まれた精神に立脚し、更に第8回イスラム国家サミット会議議長団の主導によって、1999年5月イラン・テヘランにおいて「イスラム・シンポジウム」が開催された。この会議は、イスラム世界と他の文明間との対話を導くための手段・方法論を探求する会議となった。そしてそれぞれの文明間の建設的な協力関係を図ることのできる共通分母を見出すことができ、それを裏付けてくれる共通の普遍的倫理・徳目を究明しようという会議であった。

 そのシンポジウムでは、文明間の対話に関する宣言文を採択したが、そこにはそのような対話を実践に移すために必要ないくつかの共通原則を盛り込んでいる。それはすなわち、人間の尊厳性と平等に関する相互尊重、文化的多様性の受容、互いの寛容性、知的根源の多様性に対する認定、そして正義、平和、公正さに対する原則を確実に保障することのできる共通の土台構築などである。この宣言文は、対話の方向性を人権保護のための方法の開発と固有の文化的アイデンティティーと伝統を保護することに、焦点を当てている。

 イスラム外相会議は、この宣言文を公式的に承認し、その会議参加の各国と国連、ユネスコなどとも協力しつつ、現存する文明間の対話のため普遍的な宣言内容を中心として共に推進することができるよう促している。このようなプロセスを通して、共通の倫理原則と価値は、新しい世紀に必要な国際的行動綱領の有用な枠組みになるに違いない。

3. 平和共存と調和のための対話

 我々がより明るい未来にむけてこのような努力を継続するときに、忘れてはならないことは、歴史を通して展開される文明間の相互交流は、安定的成果が得られる場合もあるが、その反対の結果を生むこともあり得るということなのである。しかし人類は、悠久な歴史を経ながらも今日のように人類自体の存在が脅かされるほどの深刻な危機に直面したことはなかった。もちろん、今日までいかなる時代であれ、いかなるところであれ、戦争の禍から逃れられることができたことは一度もなかった。つまり、国内の戦争、植民地戦争、宗教戦争などによる大量破壊と人命の被害が一つもない時代も場所もなかった。

 更に今日では、核兵器を始めとする大量破壊兵器の備蓄などの深刻な危機が山のように目前に立ちはだかっている。そのような科学兵器は、地球上のすべての生命をその痕跡すら残さぬほどに消し去ることも可能なのである。一方、通信分野においては驚くほど急速な発展がなされ、その技術的な恵沢が広範に及んでいっているが、まさに平和共存のための強固な土台が構築され、国家間の理解がより進むようには残念ながら寄与しているとは言い難い状況である。今や我々は新しいミレニアム時代に入って生きているが、本当に心から願うことがあるとすれば、人類がより明るい明日と豊かな未来世界のために必要な内容を現実化させることだと思う。

 イスラム会議機構は、いくつかの確固たる基盤に基礎置き、多様な文化的違いを認め合いながらも平和共存と調和のための対話を支持しながら、推進している。例を挙げてみれば、1999年10月、第54回国連総会を活用してニューヨーク・メトロポリタン芸術博物館の後援の下、他の文明に対する理解と認識の幅を広げて行こうという趣旨で、イスラム文化を紹介する展示会を開催した。また、今日この意義深い国際会議において皆様と共に、家庭、普遍的価値、世界平和についてともに分かち合う機会を持てたことを深く感謝している。

 イスラム会議機構は、人類すべてが渇望する崇高な目標を実現するために、文明間の対話と関連したあらゆる活動が成功に導かれるように、総力をあげて協力することの用意があることを改めて申し上げたい。