第1分科会:文明間の対話と協力

早稲田大学教授 林 正寿

 

 第28回世界平和に関する国際会議が2002年11月14日から17日までSun Moon Universityで開催された。全体のテーマは「新しい千年間に対するアジアの新しいVision」であり、分科会Iのテーマは「文明間の対話:多様な文化と文明を有する諸国民間の理解と協力の必要性」、分科会Uのテーマは「環境変化と人類の未来」、分科会Vのテーマは「結婚と家庭」であった。

 筆者は、分科会Tのトピック3「国家間および国籍間の文化交流:アジアと世界の諸国民の連帯手段」の司会であったが、会議の最後の分科会報告においては、トピック1「アジアにおける対話か衝突か:地政学的視点」とトピック2「アジアにおける新しい文明パラダイムの緊急課題:分裂していれば破滅し、団結していれば勝利し繁栄する」も担当した。この報告においては分科会Iの3トピックスについて報告するが、手元には報告者の提出論文しかないので、報告者の論点にのみ限定する。

 トピック1の報告者は台湾の国立政治大学のDr. G.W.Tsaiであり、「アジア・太平洋地域における米国の戦略とその当該地域の安全保障に与える諸影響」という視点からの報告であった。論文の節の題名が氏の論理展開を明確にするが、それらは「アジア・太平洋地域における基本的状況と米国による認識」、「アジア・太平洋地域に対する米国の政策」、「アジア諸国の反応」、「台湾海峡をはさむ関係に対する影響と係わり合い」である。アジア・太平洋地域における米国の戦略と、それに対する中国、台湾、日本、韓国をはじめとするアジア・太平洋諸国の反応が、さまざまのシナリオのもとで展開されており興味深い。Tsai氏によれば、米国のこの地域における戦略は政治的安定と経済的繁栄の維持と米国の優越性を脅かす覇権国家の台頭の阻止である。しかし中国は単なる地域大国の地位には甘んずることなく、将来には世界の大国の地位を目指しているから、米国との競争と闘争が予測される。台湾にとっては覇権的中国も分裂し弱体化した中国も望ましくなく、中国の民主化は容易ではないであろうから、台湾の利益に適うかさえも疑問である。誤算と誤解が衝突の主な原因であるから、すべてのアジア・太平洋諸国は従来の固定観念を変えて、包括的、協力的、平和的安全保障を追求すべきである。

 第2トピックスの報告者はDr. Felipe B. Cacholaであり、題名は「アジアにおける新しい文明パラダイムの緊急課題:分裂は破滅をもたらし、団結は勝利と繁栄をもたらす」であった。軍事的手段による解決は長期的には事態を悪化させるだけであり、教育と文化を通した世界平和こそ追求さるべきであるとCachola氏は主張する。ハンチントン教授により分析された「文明の衝突」の考え方は、イスラムや儒教文明の脅威に対抗するために利用されかねず、それに代わるモデルは文鮮明氏の提唱する統一運動であり、愛を基礎として他人のためにいきることを原理とする新しい戦略的同盟のアジア地域パラダイムを構築が必要である。具体的には、EUに類似のアジア連合の構築、新しい時代に適した教育原理の確立、シンクタンクの創設やPTA連合等が提唱される。

 第3トピックスの報告者はDr. Rahmah Bujang氏であり「国家間および国籍間の文化交流:アジアと世界の諸国民の連帯手段」が報告の題名であった。諸国間では大使館、国連、APEC等の公開討論の場合があり、諸組織の間では都市間や大学間姉妹関係、経済的支援関係がある。氏の提唱するのはボランタリー組織間の協力関係の構築である。個人にしても国家にしても、混合文化に接しているものは相互理解も高く差異に対する寛容度も大きい。異民族間の結婚も文化変容と同化の有効は手段である。

 9月11日のテロ後の世界情勢は流動化しており、大規模な紛争や戦争の危険をはらんでいる。平和の達成と維持のために、さまざまの分野における着実で忍耐強い努力が求められており、今回の世界平和会議もその一環として重要である。
(2002年12月24日受理)