第3分科会:結婚と家庭

鹿児島純心女子大学講師 河野 恒心

 

 まず発表論文の概要を報告した上で、分科会の内容を紹介したい。
これまで社会にとって重要な機能を果たしてきた家族は、現在その機能を失ないつつある。家族崩壊の原因として社会変動と思想的影響が考えられる。その対策として、思想的影響に対抗するための思想運動と、家族連合運動による共同体の再構築が必要である。

家族の問題の諸相

 日本の離婚率は着実に上昇している。1990年の1.3%であったものが、2000年には2.1%になっている。また実質的に結婚は破綻しているものの様々な理由から離婚はしないという「潜在離婚」が、離婚の数倍に達していると推測される。

 近年、DV(夫婦間の暴力)は離婚の大きな原因のひとつとして注目されている。子どもに対する身体的・心理的・性的虐待、およびネグレクトなどの報告例はここ数年で倍加しており、母親によるものが目立つ。また家庭内暴力や不登校および引きこもり、などの現象に見られるように、家族の中で温かく快適な生活を送れない子どもたちが増えている。

 夫婦、親子の関係が情緒的に安定しないと家族の成員同士の連帯感が希薄になり、家族外に満足を求めようとする。こうした家族の問題が主要因となって、婚外の男女の結びつき、婚外の出産、少年の非行や犯罪、いじめ問題、青少年の性的問題行動、ホームレス、自殺、ギャンブルによる経済破綻、などの問題が現れる。

 青少年の性的問題行動は激増している。日本では青年期の男女交際についての伝統的文化が崩壊しているためマスメディアによる性情報の強い影響を受けていると考えられる。実際、援助交際や同棲といった逸脱行動に対する抵抗感が薄らいでいる。1997年ベネッセ教育研究所が行った調査では5.9パーセントの生徒が援助交際をしていたと報告されている。結婚前の性交渉経験者数がここ10年で倍化しており、大学生では、男子で6割、女子でも5割を超えるようになった。この結果10代の人工妊娠中絶が急増しているといわれ、また不特定多数の相手と性交渉を持つ人が増えてきたことによる性感染症の蔓延が指摘されている。

社会変動と家族の変動

 近代化および産業化といわれる社会変動にともない、日本でも高度経済成長期を迎えた1960年代以降、核家族(1組の夫婦と未婚の子だけからなる家族)が主流となった。かつて家族は生活の基盤であり基礎的な欲求を充足するものであったが、今日多くの人が家族に求めるものはやすらぎや情緒的安定である。

 一方、家族内の成員には2つの役割が期待される。1つは集団的機能で、収入を得る役割、家事をする役割など家族が成立し存続していくための欠かせない働きである。これとは別に関係的役割として夫、妻、父母、父親、母親などのように互いに相手に期待する役割がある。

 しかし産業化や都市化という社会変動の中で集団的役割のみが重要視され、関係的役割が忘れられてしまいがちである。共同生活や相互理解ができない、連帯性や調停機能の喪失、などが離婚の原因としてあげられるが、それは関係的役割の脆弱性を示している。またずいぶん前から家庭における父親不在ということも議論されている。

 このように家族の機能は情緒的なものへと変質しているのも関わらず、関係的役割の後退によって家族の成員相互の結びつきは希薄化している。このことが家族の問題の根底にあると考えられる。

結婚観と家族観の変化

 様々な欲求が家族の外で充足されるようになるにつれて、家族がともに過ごす時間が減少し、成員の価値観が拡散する。家族は全体としてのまとまりがなくなり、集団の維持よりも個人の自己実現や行動の自由が重視されるようになる。互いに干渉しない関係がいいと考えるような個人主義に対する誤解があり、家族の成員間のコミュニケーションがきわめて少なくなっている。家計から個計、共食から個食、家電から個電といわれるように家族の成員同士が個人化する現象がみられる。また子どもの権利を過度に認め、十分成熟していない子どもに多くの判断をゆだねてしまうことによって家族教育をゆがめている。人間的な思いやりや基本的なコミュニケーション能力を欠いたまま、競争社会を生き抜くこと、受験戦争に生き残ることばかり強調して拝金主義を助長している。

 一部フェミニズム運動は既存の主婦役割、母親役割や妻役割よりも、キャリアを持った働く女性の方が価値があるかのような主張したため、女性たち意識が家事労働から家庭の外へと向かう傾向が現れている。

 結婚観は多様化し個人重視の傾向がある。結婚したら家庭のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だと考える人は、1992年から1997年の5年間に50%から35%へ減っている。男女観にも変化が見られ、特に結婚前の男女であっても愛情があるなら性交渉を持ってもよいと考える人は同期間に55%から70%へ増加している。また若い世代では同棲ということがあまり抵抗がなくなってきていて、恋愛の一つの形態と考えられるようになった。

解決のための対策・方策

 これらの課題を解決するには、まず結婚および家族、男女間のあり方に対する思想的問題を明らかし、結婚・家庭の価値・倫理観を回復してゆかねばならない。それは、個人主義的家族観、退廃的・無秩序な性文化をはっきりと否定できる説得性のある内容を持ち、家族の崩壊の原因を明らかにするものでなければならない。

 同時に家族内や家族間の人々の紐帯を再生すべく、家庭間の結びつきを強化することによって、人々の生活を変えていくことが必要である。この連合は従来の伝統的家族のつながりでは克服できない近代化の問題に対処できるよう集団的役割と対人的役割をバランスよく果たすものでなければならない。また伝統的な家族のような血縁・地縁に代わる結合の核心を持つ必要がある。

報告論文に対する討議

 上記論文の中で指摘された家族の問題は、他の東アジアの国々でも同様に社会問題となっているという指摘があった。また論文では取り上げられなかったが、貧困が離婚や家庭崩壊の重要な原因になっていることを留意すべきだという主張があった。さらに戦後の日本の憲法および教育基本法の欠点が家族の崩壊のみならず学校教育の荒廃などにも重大な影響を与えたという指摘がされた。

 また韓国においても、日本と同様に近代化に伴い家族が大きく変動しており、離婚率の上昇を始めさまざまな困難に直面している。韓国では教会によるmarriage saversの運動が模範となるカップルを教育するという形での家族問題に対する取り組みがなされており比較的成功しているという報告がなされた。それに対し具体的な教育内容について質問があった。

 最後に分科会議長が分科会の趣旨に即して書かれた論文をまとめて報告した上で、双方の論文がともに核家族や近代化について取り上げていることを指摘し、現代の家族が直面している問題は、日本、韓国だけでなく各国で共通しているという点を指摘した。
(2002年12月22日受理)