短大の未来
―教養教育の充実と地域貢献―

三重短期大学長  雨宮 照雄

1.ユニバーサル・アクセスの時代

 戦後50年以上が経過して,大学・短大への進学率が50%を超え,高等教育は今日「ユニバーサル・アクセス」の時代を迎えている。それとともに市民社会の成熟度も高まってきたように思う。例えば,以前の市民運動といえば,個別の利害要求を行政に突きつける陳情要求型が多かったが,最近ではそういう段階に留まるものではなく,市民たちも行政とともに問題を共有しながら,自分たちとしてどのようにそれを解決していけばよいのかを考えるようになった。そのような思考ができる市民グループ(NGO,NPOなど)が育ってきており,行政と市民(運動)とが協働してよき社会を築いていくことができる環境が整いつつある。

 18歳人口のほぼ半数が大学・短大に進学する高等教育のユニバーサル・アクセスの時代,分権社会のなかで市民の自己決定能力が求められる時代においては,市民の実践的な教養を培うことがますます重要になってきている。というのは教育の本来的な意義は,すべての人が自分の能力を発達させ,政治・経済・生活・地域社会などのさまざまな領域で自分たちの生活を自己統治していく能力,言い換えれば市民の実践的な教養を身につけるところにあると考えるからである。その意味では大学などの高等教育機関の果たすべき役割は相対的に大きくなってきている。大学は「知」の創造・継承・発展の場として,これまで社会に有為な人材の育成,知識・技術の提供の役割を担ってきたが,今後は市民の実践的能力,実践的教養を培うことがその中核的役割となるのではないか。大学は,自ら考え,学び,行動しようとする市民が,日頃感じている疑問を提起し,学習や討論を通じて客観的に問題を分析する中で,主体的な課題解決能力を形成する場所でなければならず,市民が実践的な問題解決能力を養うサロンであることが求められている。

 従来大学は,18歳-22歳の学齢期の青年を対象としていたが,その基本的流れは変わらないにしても,今後は市民も身近に集まれる地域に開かれた教育機関,知的拠点としての役割が高まっていくだろう。それがまさに,今日いわれる「生涯学習社会」の意味である。

2.短大をめぐる現況

 短期大学を巡る環境の変化で最も顕著であるのは高学歴化である。
女子の進学率について四年制大学と短大を比べてみると,従来は短大の方が高かった。戦後における女子の高等教育の担い手は短大が担ってきたのである。ところが,96年にそれが逆転しその後はその差が拡大しつつあり,2003年のデータでは,短大14%,大学34%となっている。この傾向は今後も続くと考えられ,再び逆転することはないであろう。さらに,女子の進学率は男子の進学率を追い越して,女子の高学歴志向が顕著になっている。

 その背景について考えてみよう。

 まず親たちの意識の変化が挙げられる。今から20年ほど前の親は,「女子の標準的教養としては短大教育で十分である」と考える人が多かった。しかし,現在では子どもが四年制大学に行きたいといえば「短大でなくても,大学に行ってもいい」と考える親が多くなった。日本経済の成熟化,女子の社会的進出などを背景に,短大よりは四年制大学を志向する風潮が一般的になってきている。

 次に,企業など採用サイドの考え方の変化を見てみよう。

 以前は,四年制大学女子よりも短大女子の方が就職率が高かった。結婚退社・出産退社が一般的傾向であったので,短大卒の方が少なくとも2年だけ多く会社に勤めることができるという短大卒のメリットもあった。ところが,現在では女性が職場で自分の能力を発揮し,育児・家事と両立でき長期に働ける職場環境づくりが求められている。また,企業ではOA化が進み,一般事務職のニーズが減少しており,今日では,事務作業,営業,メインテナンス,設計など総合的な仕事をする職務へのニーズが高くなってきている。このことを反映して一般事務職に短大枠を設けるという企業は減少してきている。その典型例として地元の銀行における女子職員の採用の例を挙げよう。従来,銀行窓口業務は短大卒女子が主流であった。ピーク時には,本学から毎年30-40人が一つの銀行に就職した時期もあった。ところが銀行の窓口業務には,再雇用者を充てる傾向が近年生じている。つまり一旦銀行を退社した女性を再雇用して窓口業務に充て,新規採用者は総合職として採用するという傾向である。その結果,短大卒という採用枠がなくなってしまい,短大生も四大生と同じ立場で競争しなければならなくなった。

 以前は「短大卒にもいい人材がいる」というのが一般的な企業認識であったが,短大の四年制化に伴い短大自体がマイナーな社会的制度になってくると,「短大卒から良い人材は採れない」という見方をする企業が増えてきている。このようにして就職に強い短大生というメリットがなくなっていった。

 このような女性の高学歴志向,就職市場の変化に対する対応として,短期大学から四年制大学へという改組の流れが出てくる。

 われわれ短大で教える側からしても,2年間という期間は本当に短い。短大の場合は,1年生の後期になるともう就職活動のオリエンテーションが始まる。1年生の3月になるとエントリーシートを書いて,2年生の春にはリクルートスーツを着て会社訪問を開始する。これではじっくり勉強をする暇もない。四年制大学であれば,3年次の半ばくらいまではしっかり勉強に取り組むことが可能である。本学にも勉学意欲や資質の高い学生が来ているのだが,2年間という短い期間では思うように十分な教育ができないというわれわれにとっても大きな悩みがある。その意味で,われわれとしても四年制大学への改組は大きな夢となっている。

3.短大改革の展望

 短期大学の将来については,いくつかの方向性が考えられる。
先ず,既に指摘したように短大から四年制大学への改組の動きである。実際,全国の短大では,1980年代半ばごろから四年制大学への改組の動きが活発化した。公立短大の数を見ても,以前68校あったものが,現在では41校となり,あと数年後には28校程度になるといわれている。これらはほとんどが四年制大学への改組に伴う短大の廃止である。実際,大半の公立短大では四年制改組の検討を行っている。本学においても助役を会長とする研究会を設けて四年制改組について検討し,2000年に報告書をまとめている。しかし公立大学の場合は,設置者(地方自治体首長)の理解と応援なしでは進めない。

 また,四年制大学になったからといって,すべての問題が解決するわけではない。四年制大学自体が非常に熾烈な競争状態にあるので,特色を現して教育内容を充実させていかないと生き残っていくことは難しい。ただ,公立の場合は学費の安さ,地域との結びつき,それまでの実績などの利点もあるので,それらを生かすことは可能であろう。
第二には,現代社会は資格重視社会であり,現在の高校生など若者たちも資格取得に関心が高いことから,短大としても資格取得に重点を置いた教育をするという方向性である。例えば,公立短大では,看護,幼児教育,栄養士,福祉,情報などの学科が主流となっているが,これらの学科では資格や免許が取得できるという利点から志願倍率は高い。本学でも食物栄養学専攻科では,栄養士の資格が取得できるので志願倍率が高い。

 それに対し,国文・英文・教養などの人文系,社会科学系,生活科学系などでは,志願者が減ってきている。そこで,資格取得を中心とする教育に特化して生き残っていこうという戦略が出てくる。社会の高度化に伴い資格自体が高度化しており,短大で取得できる資格も制限されていることを考えると,資格重視路線にも一定の限界はあるが,幅広い教養教育のうえに資格取得をめざす点で専門学校との差別化を図ることにより,この戦略は一定の有効性を持っていると思う。

 第三には,四年制大学への編入学のバイパスとしての役割である(注1)。

 本学でも毎年夏に,高校生に向けてオープンキャンパスを実施しているが,そのときに高校生に次のように訴えている。「大学進学を控えた高校生の皆さんは,大学や短大の学部や学科を選択しなければなりません。しかし,高校の段階では,本当に自分が学びたいものが何か,はっきりと分かっている人の方が少ないことでしょう。近年では,短大での学習を通じて自分の学びたいテーマを見つけたのち,四年制大学の学部に編入学して,それを極めるという途をとる学生も増えてきています。」短大から四年制大学への編入学という途は高騰する教育費を考えると,その方が経済的にも合理的であるという見方も成り立つ。たとえば本学の場合は,地元から通学できる上に,授業料その他の費用を含めて2年間で約100万円程度で済ますことができる利点がある。

 編入学試験にはいくつかの種類ある。まず,従来からある,試験を受けて編入する「一般編入学」である。これは定員に「空き」があればほとんどの大学で実施している。次には「推薦編入学」である。本学では複数の私立大学と推薦協定を結んでいるが,この場合は推薦枠の範囲内で,本学から推薦すればほぼ自動的に編入学できる。本学が持つ推薦枠は全体で,50校,100名程度に達している。もう一つは「一般推薦」と呼ばれる方法で,旧国立大学が始めたものである。これも推薦の一種であるが,短大から推薦した者のうちから大学側で選抜を実施するという方法である。このような方法を実施している大学として,香川大学,島根大学,広島大学,三重大学などがある。

 本学での編入学の状況についてみてみると,十年程前で卒業生の2%程度であったが,現在では8%程度に上昇している。編入学先としては地元の三重大学が一番多い。また,経済的な理由から比較的国公立大学公立志向が強いのも特徴である。編入学を希望する学生は,われわれの予想より増加のペースは遅いが,将来的には卒業生の3割程度になるだろうと予想している。

 ところで,米国の短期大学には,コミュニティ・カレッジ型とジュニア・カレッジ型とがある。コミュニティ・カレッジは,どんな人でも入学することができるタイプの大学であり,都市に立地し社会人の再教育,補習教育,資格取得など多様な教育ニーズに対応している。もう一つのジュニア・カレッジの中には,自然環境の豊かな郊外に立地して少人数教育を特徴とし四年制大学への編入学を目的とした教養教育に特化している。日本においても大学教育の前期(一般教養教育)と後期(専門教育)との分離が進めば,前期教育を担う2年制の高等教育機関の存立も可能となってくる。前期はA短大で社会科学を中心にした基礎教育を学び,後期はB大学で医学を学ぶことも可能になろう。しかし現状では,日本の大学制度はまだそこまで流動化していない。(注2)

 本学としても今後の短大の方向性を考える際には以上の3つの選択肢の中から絞り込んでいくことが必要となろう。いずれにせよ,今後大学間競争がますます激化していくなかで,それぞれの大学の教育力が問われるようになってくる。特に短大の場合,教育期間が2年間と限定されていることから,明確な教育目標を設定し集中的・効果的な教育方法の改善を積み重ねていくことが重要である。本学では,学生の資格取得を支援するための各種の体制はとっているが,栄養士養成をめざす食物栄養学専攻をのぞきカリキュラム全体として職業に直結した教育は行っていない。その意味では本学は広い意味での教養教育を重視している。それは,具体的には,多彩な科目群,少人数教育などを通じて,幅広い教養と深い専門知識を学び現代社会を多面的総合的に把握する基礎的な視座を確立しながら,読解力,分析力,判断力,表現力,コミュニケーション能力などの一般的能力の育成を図る教育である。実は企業が学生に求める資質はこのような一般的な能力であり,企業に特化した能力は入社後に企業内教育で高めるという日本の労働市場の特質からしても,このような広い意味での教養教育こそが最も効果的な職業能力の育成につながるとわれわれは考えている。

4.三重短期大学の取り組み

(1)法経科第二部(夜間部)を生かす道

 前節で述べた短大の取り組みは,本学でも取り組みつつある内容であるが,もう一つ本学の特色として法経科第二部(夜間部)があり,それを今の時代に生かそうと考えている。

 本学は1952年に勤労青年と女性に高等教育の機会を提供することを目的に,法経科第二部と家政科からなる短期大学として創設された。昼間部としての法経科第一部が設置されたのは1969年である。

 このように法経科第二部は本学の建学の精神であったが,近年入学者が減少している。法経科第二部の定員は150人であるが,第二次ベビーブームのころ(1990年代前半)は定員を超える入学者があったが,その後定員を割る状況となり,近年ではかなり減ってピーク時の3分の1程度までになった。

 その原因としては,まず勤労学生がいなくなったことがある。今から20年前には,第二部の学生の約75%が高卒で定職を有する人々であり,しかもその約半数が県の公務員であった。当時,三重県・津市では高卒の一般職を多く採用しており,行政サイドでも就職後に本学第二部に行くことを勧めていた。そして短大に行っている間は配置転換をしないという恩典をも与えた。しかし,現在では県・市とも短大卒の一般職採用はほとんどなく,大卒・大学院卒を採用するようになってきている。大学・短大への進学率が50%を超え,専門学校を含めれば進学率が70-80%まで達する現状の中では,高卒で就職する人は少なく,勤労学生は少数になってきている。

 また第二次ベビーブームのころは,四年制大学の総定員に対して志願者数が超過となり大学進学は極めて狭き門であった。そのためこの時期には大学志願者から短大二部へと流れる現象(「二部回り学生」)が生じたこともある。そのような学生たちのなかには第二部から四年制大学へ編入学していくパターンが多く見られた。その後,大学入学の門が広くなると同時に,そのようなパターンは自然と減少していった。

 本学法経科第二部の現在の状況は,入学生60人ほどの学生の中で,定職者は2-3割を占めるにすぎず,公務員はほとんどいない。一番多いのは,定職に就かずアルバイトをしているいわゆるフリーターの学生である。次は,生涯学習型といわれる30歳代から70代までの層の人々(約3割)であり,現在最高齢は74歳である。これらの人々の入学動機は,法律や経済を勉強して仕事に生かしたい,子育てが終わり夢だった短大で学びたい,定年退職後にもう一度学びたい,編入学したいなど極めてさまざまであり,問題意識も明確で勉学意欲は極めて高い。

 勤労学生に高等教育の機会を与えることが,従来の第二部の役割であったが,現在では多様な教育ニーズに応えることが大きな役割になってきた。フリーターといっても彼らの勉強意欲が乏しいわけではなく,主体的な意志によって入学してきているのでまじめに勉強をしている。熟年の方々が一緒に勉強することを通して,その人たちの勉強への姿勢が若者に強い刺激となっていい相乗効果をあらわしている。

 夜間部の高等教育機関で学ぶ者が少なくなってきているのは全国的な傾向である。現在では国立大学の夜間部短大がすべてなくなり,公立短大でも以前十数校あったものが現在では,東京都立短大,三重短大,高知短大,鹿児島県立短大の4校を数えるのみである。このうち東京都立短大は,都立大学の再編に伴い来年度に短大が廃止となる。東海地域では愛知大学第二部(夜間学部)は歴史と実績があったが,去年廃止された。三重県下の大学で第二部をもつのは本学のみである。そこで本学の売り文句として,「三重県下唯一の夜間高等教育機関」を標榜している。

 確かに勤労学生の学びの場としての夜間部の使命は終わりつつあるのかもしれない。しかしながら,今後は生涯学習機関として重要な役割を果たすことができると思う。全国で夜間部の火が消えていくのは誠に残念である。教育内容の充実を通じて魅力を高め,PRに努めてその火をともし続けていきたい。

(2)地域との連携
 本学はこれまで公立(津市立)大学という立場から「地域に開かれた大学づくり」にも力をいれて推進してきた。1984年に設立された「地域問題総合調査研究室」は,本学教員が研究員となり,地域・都市に関わる行政・政治・経済・社会・教育・文化・自然の各領域にわたる調査研究や地域情報に関する情報の収集発信を行ってきた。

 設立当時,地域問題の大学附置研究機関は三重県には本学以外にはなく県下では本学の「地域問題総合調査研究室」は先駆的であった。本学の場合は規模が小さいので,専任教員が兼務で地域研究を担わざるをえないが,本務である教育・研究の上に地域研究をやることは,たいへんな負担であった。設立当初は,他にこのような機関がなかったためか,委託研究がどっときた。例えば,鳥羽市からは駅前再開発プラン作成の委託研究の依頼がきた。しかし本学のスタッフには,都市計画の専門家はおらず,関連する専門スタッフで力をあわせて取り組んだ。このようにして出来るだけ地域の要請に応えてきた。しかし,このような委託研究は,数カ月それに没頭することになるために,教員の負担は大きい。そこで,現在では委託・共同研究は自分の研究テーマに沿ったものを厳選して受けるようにし,自主的研究を中心に運営している。

 行政や産業界,地域社会などから大学に対する研究依頼のニーズは強い。例えば市町村が地域の総合計画を策定する場合に,一般にはコンサルタントに委託する。そのコンサルタントに代わって大学がそれと全く同じ役割を果たすことはできないが,それに近い役割を果たすことはできると思う。また現在では,自治体サイドでも,すべてを一研究機関に委託するという方法ではなくなり,総合計画の一部についてある専門家に委託するという部分委託方式や共同研究方式が多くなってきた。それゆえ大学教員としてそのような要望に応えるのにも,やりやすい環境になってきたと言える。

5.地方分権と大学の役割

 現在進められている地方分権は,戦後の「シャウプ勧告」(注3)以来の長い歴史を持っているが,なかなか進まず,ここにきてやっと進展し始めたという感がある。事務配分については一定の整理が終わり,次は税・財源委譲が焦点になっている。この点については,国財政が大量国債発行による財政逼迫の情勢の中にあるために,財務省と総務省との間で確執が続いている。今後は,地方内部でも東京のように一般財源にめぐまれた財政力のある自治体とそうでない自治体とでは,どのような財源配分のルールを敷くかによって,かなり大きな駆け引きがあるであろう。

 しかし,理念的には地方に事務・権限・財源を与えていくという地方分権の推進方向には変化はないであろう。その先には,近年盛んな市町村合併から道州制導入という行政組織の抜本的な再編にまで発展していくに違いない。
現在の市町村合併の動きには,ある意味で,強いられている側面がある。国としては,財政危機のなかで地方への補助金や地方交付税のカットを進める。その結果,弱小の地方自治体はやっていけなくなる。地方交付税制度の改革の行方しだいでは,相当なリストラを進めざるを得ない地方自治体も出てくるであろう。今,市町村合併をしないと決めているところでは,組織の簡素化(例えば,助役の廃止など),職員のリストラ,職員の仕事を減らす代わりに住民に参加してもらう,などの大胆な方法をとって改革を進めている。しかし多くの自治体では,合併することでコストを削減して再編する道を選んでいる。市町村合併の背景にあるのは,そのような財政的な圧力である。

 市町村合併で一番気をつけるべきことは,地域内分権と住民参加システムをいかに構築するかである。地域限定の事務は住民参加のもとにできるだけ地域でやっていくことが必要であり,そのためには本庁で集権的に行う事務と地域で分権的に行う事務の区分けや,地域に権限や財源をどう配分するかのシステムが必要である。例えば,公園の整備,地域の環境浄化,地域の生活道路などのインフラ整備等は,その地域で住民たちが決めていくべきことがらであろう。また農業など産業振興の面でも,その地域での助け合いの構造を残していくことも重要である。合併による効率的な行政運営の追求は,地域における住民参加とが同時並行的に行われなければならない。

 このような分権時代にこそ,その知的拠点として大学の果たす役割がますます重要になる。われわれも,設置者(市長)と話すときに,「市の方も短大をどう使って生かしていくかをよく考えてほしい」と要望している。多くの公立大学(短大)の設置者は,大学をうまく使いきれていないと言えば,言い過ぎになるだろうか。さまざまな分野の専門家からなる教員スタッフや,大学の持つ物的資源を地域の活性化にもっと活かすことは出来るはずである。単に審議会の委員としてばかりではなく,もっと街づくりや産業振興など市の政策形成の中に大学教員を活用できる道がある。また大学があるということのメリットを地域の経済,都市計画,生活,文化の面でどう生かしていくかとの課題もある。津市は,三重大学を始め四つの大学を有する人口16万人の都市である。これだけ大学が集積していれば,街の雰囲気ももっと変わっていいはずであるが,学園都市という雰囲気は感じられない。土地利用や住宅整備にしても,大学を生かしていく道があるように思う。

 国立大学は,この春独立行政法人化したが,地元三重大学は「地方圏大学」を標榜している。地域貢献は,もはや公立大学(短大)だけの専売特許ではなく,国・公・私立大学のいずれも重視している。各大学間で地域貢献に向けた競争が始まっていると同時に,地域の側でも大学をどう活用していくかという発想が必要になってくる。(2004年6月4日)


注1「短大ファーストステージ論」
 高等教育の専門家舘昭氏(桜美林大学教授)は,次のように述べている。
 「1991年改革の短大にとっての意義を再定義する必要を強く感じるようになった。そして1995年に,それを『生涯にわたる高等教育のファーストステージ』と表現した。『短大ファーストステージ論』の最初の提起である。つまり,1991年の教育制度改革で短大教育がターミナルなものではなくなった以上,短大は,単に年限の短い大学であることをやめて,大学教育の最も基本的なコアを修得する,意味ある節目の提供機関へと展開したと考えるべきである。たとえばファーストステージとしての短大を卒業し,セカンドステージとしての専攻科や四年制大学で学士号獲得を目指す場合,卒業後すぐに目指すこともできるが,いったん社会に出て働いたり,ボランティア活動に従事した後でも開始できる。そうだとすると,短大は四年制大学以上に魅力的な機関に見えてくる。」(舘昭,進研アド『Between』2004年5月号より引用)

注2コミュニティ・カレッジ
 高等教育の専門家舘昭氏(桜美林大学教授)は,次のように述べている。
 「ファーストステージ論の提起後,筆者は大学審議会の審議に参画し,1998年の答申『21世紀の大学像と今後の改革方策について』では,『世界的には,職業人の再学習をはじめ国民の間の生涯学習需要にこたえるために適した制度として短期高等教育の充実を図る動きが見られる』の文言の挿入に苦心した。・・・2001年6月に,文部科学省は,構造改革路線を進める経済財政諮問会議に対して,『大学を基点とする日本経済活性化のための構造改革プラン』を提出し,公表した。このプランは,『大学(国立大学)の構造改革の方針』とともに出されたもので,・・・しかし,ここで注目すべきことは,このプランに『大学の社会人キャリアアップ100万人計画の推進』の一環としてコミュニティ・カレッジの整備という施策が明確に打ち出されたことである。その後,同年9月に経済財政諮問会議の方針を受けて,各担当省庁で策定された『改革工程表』の中に,『短大の社会人の再教育等に柔軟に応える機能(いわゆるコミュニティ・カレッジ)を強化(地域総合科学科の設置の推奨等)する』という一文が盛り込まれ,政策化されたのである。」(同上)

注3 シャウプ地方財政勧告
 シャウプ勧告(1949年)中,地方財政改革に関わる部分。国,府県,市町村の行政責任の明確化,市町村優先主義,独立税主義を3原則とし,そのほかに補助金整理,地方債発行自由化,平衡交付金制度,地方財政委員会による行財政運営等を勧告した。(有斐閣『経済辞典』第3版より引用)