食事と睡眠の改善を核とする生活習慣
形成指導の実践

札幌市学級経営研究会事務局次長/札幌市東苗穂小学校教諭 畠山 忠

 

1.子どもの生活習慣の乱れ

(1)くずれる食卓
 
 私の基本主張は,「基本的生活習慣は食事と睡眠の改善から」ということに集約される。そこでまず,現代社会の食事の現状を知るために,「文藝春秋」2003年10月号に掲載された「壊れる食卓―三十代主婦,二千食献立調査が示す驚愕の事実」(岩村暢子)という記事から一部引用してみよう。

こんな朝食が増えている。
「私は朝に弱いので,朝食を作るのは子どもの弁当がある日だけ。通常は菓子パン,牛乳,ヨーグルトなどを食べて行ってもらう。よく文句が出ないなと感心する」(39歳主婦)。

「食欲がでない朝には,子どもが食べやすいプリンとかおまんじゅうだけ」(41歳主婦)。

「明日の休日の朝食用に,家族それぞれの希望のおにぎりやサンドイッチを聞いて,コンビニで購入しておいた」(40歳主婦)。

「子どもができてから私は朝起きなくなったので,夫が何を食べて出かけているか知らない」(27歳主婦)。

なんてとんでもない悪妻,馬鹿母だと思われたかもしれない。しかしこれは,三十代を中心とする主婦,約2000食卓の調査における,ごく標準的な朝食のすがたである。
朝食に料理をする場合でも,こんなメニューが頻繁にあらわれる。

「夫:トーストに野菜ジュース,サクランボ
祖母:モンブランケーキにコーヒー,ホウレンソウのお浸し,ミネラルウォーター
主婦:チョコレートプディングにカフェオレ,ニラと卵とじ味噌汁
長男:調理パンに牛乳」(41歳主婦の家庭)。

 日本の朝食のメニューにもはや定型はない。私たちが行った5年間にわたる調査で,日本旅館風の「ご飯,味噌汁,干物,海苔,漬物」という献立は見たこともない。絶滅した,幻の朝食なのかもしれない。 
 それより,家族全員が好みのものを勝手に食べていることに注目していただきたい。私たちはこれを「バラバラ食」と呼んでいる。

 かつて「個食(孤食)」の危機がさかんに叫ばれた。残業や塾通いのせいで,家族がバラバラの時間に,あるいは子どもも一人で勝手に食べるのが「個食」である。しかしいまや,家族全員が同席している食卓でも勝手な時間に勝手なものを食べる「バラバラ食」が普通である。

 もちろん「バラバラ食」は夕食にも登場する。むしろ家族が揃う休日のご馳走に多い。
「スーパーで,うなぎ,フライ,コロッケなど各自の好きな惣菜を選んで買って,夕食にした」(38歳主婦)。

「デパ地下で,夫が生春巻き,私が茄子のガーリック風,子どもがコロッケと鶏の唐揚,それぞれの好みで選んで夕食にした」(40歳主婦)。
各自,好きな食べ物を食べることがご馳走なのである。その結果,

「カレーライスと鯵のたたき」
「スパゲティと刺身」
「宅配寿司とキムチ豆腐チゲ」

 などという,味覚を疑いたくもなるメニューが立派なご馳走として並ぶ。
繰り返しになるが,これは特殊な家庭の出来事ではない。60年生まれ以降の世代ならば,専業主婦であるか共働きか,学歴,職業,年収のいかんに拘わらず,共通して起きている現象である。すでに「女性が高学歴化して社会進出したから料理をしない」などという説明は,まったく通用しない状態なのだ。

(2)子どもたちの睡眠時間の変化と学力の関係

 広島県基礎基本調査結果(表2)を見ると,睡眠時間と学力(この場合は,国語と算数の点数)は大体比例関係にあることが分かる。ただし,あまり寝すぎると逆に下がってしまう。睡眠時間が少ない子どもは,食事もあまりよくないことが多い。
東京民研学校保健部会・東京総合教育センター(2004年3月)の「小中学生の就床時刻の変化」のグラフ(図3)を見ながら考えてみたい。

 1979年には小学4年生の約80%が午後10時前に寝ていたが,2002年には10時前の就寝者が50数%に減り,0時以降の子どもが数%見られるようになった。小学6年生の場合は,79年には約50%の子どもが午後10時前に寝ていたのに,2003年には10時前に寝る子どもが約30%で,0時以降まで起きている子どもが6%ほどいる。
これらの傾向を見ると,子どもたちの就寝時刻が年々遅くなっていることがわかる。

(3)当たり前のことができない時代

 次の三つの内容は,文科省のホームページに記載されているものであるが,これらはみな当たり前のことである。そのようなことがホームページに掲載されるような世の中になったということである。現代社会は,当たり前のことが当たり前にできなくなってきているといえる。

@一日のスタートは朝食から
 なぜ,朝食をとることは大切なのでしょうか。朝食は一日の生活のスタートです。朝食をとることにより身体(からだ)にエネルギーを補給し,集中力ややる気,体力を発揮し持続させ,一日の身体のリズムを整えることができます。

A食生活の乱れは,心身のバランスも乱す
 心身の成長期にある子どもにとって食事は極めて重要なものです。最近,子どもの朝食欠食や孤食,偏った栄養摂取による肥満傾向の増大,生活習慣病の若年化など,食に起因するさまざまな健康問題が生じています。子どもの健康な身体(からだ)の形成のため,栄養バランスのとれた食事をつくってあげるよう心がけましょう。もちろん,食事は単に子どもに栄養を与えるだけのものではありません。親が心を込めてつくった食事は,親の愛情を自然に子どもに伝え,それによる満足感・安心感は子どもの心を豊かで強いものに育てる機会になるものです。

B子どもの健やかな成長のために,睡眠は大切です
 子どもたちの寝る時間が遅くなり,睡眠時間も短くなっています。深夜テレビや24時間営業の店などが世の中にあふれる中,家庭においても,大人の夜型の生活に子どもを巻き込んでいるのではないでしょうか。早寝早起きの習慣をつけて,十分な睡眠をとることは,子どもの健やかな成長と生活のリズムを確立するためには大切です。

2.学級における実践活動

(1)給食を核に

 私は給食を基本的生活習慣形成の核として実践している。今の子どもたちは偏食・好き嫌いが多い。そこで「一口でも食べよう」「今日もがんばって」というように指導する。嫌いな食べ物を食べること,挑戦することで意欲が高まり,困難なことにも負けないようになる。特に小学校低学年が効果的であるが,高学年でもがんばりが見られる。

 給食は食事のマナーを学ぶ場でもある。現代は「孤食」といわれる子どもたちがいるように,食を通してしつけを受ける機会に乏しく,楽しく食べる経験も少ない。そこで例えば,「立ち歩かない」「(給食時に話をする)声の大きさ」「あたたかく,楽しく」などの指導を行っている。

 給食は「協力の場」でもある。輪番で給食当番をすることで互いに協力し合うことを学ぶ。私のクラスでは,給食当番を通して互いに仕事を分け合うことを学ぶ。また,ある面で給食のおかわりは弱肉強食の世界でもあるので,おかわりは基本的に教師が仕切るが,「この前私がもらったから譲るよ」などと相手を気遣う場面も見られる。

 食は生きる源であり,食は生活習慣作りの場でもある。食は学校だけではなく,家庭でも重要な場であるので,保護者とも連携が必要になってくる。例えば,「偏食指導で嫌いな野菜を食べるようがんばってしっかり食べていますよ」と保護者に情報を伝えると,保護者の中には子どものそのような声(「今日学校で(嫌いだった)ネギを食べたよ」など)を聞かないで勉強のことばかりに関心を向ける人が少なくない。こうした子どもとのやり取りの重要性を学級懇談の場などを通じて私は保護者の方に理解してもらえるよう努めている。
また校内での体制作りとして,教師同士の連絡を密にしたり,食事時の環境作りも大切な側面である。

(2)睡眠時間について

 私の学校では毎朝子どもたちの健康調査を行っている。特に具合の悪い子をチェックする。時には睡眠不足の子もいるので,その都度全体に向けて睡眠の大切さを指導する。
 睡眠の大切さについて,多くの脳科学者が述べている。一つは,「寝ているうちに記憶が定着する」ということ。夢は,記憶を定着させるために何度も繰り返して見るものであるという。次に「人間は睡眠によって記憶が整理される」ということである。例えば,その日一生懸命に練習したピアノ曲ができなくても翌日突然弾けるような場合がある。これは睡眠によって記憶が整理された結果である。このようなエピソードを子どもたちに聞かせて,睡眠の大切さを理解させる。

(3)保護者の意識

 保護者の意識を分類すると大体三つに分けられる。まず「関心の高い層」(全体の2割)。この部類の人は,子育てについて関心が高く,学校にも協力的で,参観日や懇談にも残って建設的な意見を述べることが多い。次に,「中間層」(6割)。この層の人たちは,関心はあるし,それなりに協力してくれる。参観には来るが懇談には余り残らないという傾向が見られる。三番目が「無関心層」(2割)。子育てには関心がないか(家庭の諸事情により)余裕がない,放任している人たちである。

 中間層の人たちにどう切り込んでいくかがカギであると思う。多くの保護者に高い意識を持ってもらえば,子どもたちの生活習慣は向上するであろう。個人の問題ではなく学校や地域としての問題へと波及する。

3.学級経営の中で

 担任教師は学級の社長の立場であるから,学級をどう経営するかということは重要な側面である。

@学校生活でリズムを:
 基本的生活習慣が身についていない子どもは,基本的に家庭生活のリズムができていないことが多い。学校は時間で行動する。だからそういう子にとって学校生活は貴重な機会である。授業は45分を基本として始業と終業をきちんと守るようにすることによって,学校で生活のリズムをつけていく。

A三つの約束:
 私のクラスでは,「椅子を机の下に入れる」「靴をそろえる」「返事をする」,この三つを学級経営の柱としていかなるときも徹底して守らせている。三つに絞ることで,基本的な生活習慣のない子も育っていく。また,三つを徹底することで他のことにも波及していく。

 例えば,返事についていえば,クラスでテストを返すときに「○○君」と呼んでも黙ってもらいに来る子がいる。最近では,病院などで名前を呼ばれても返事しない人もいるが,年配の人はほとんど「はい」ときちんと返事しているのを見かけると却って感心する。今の子どもたちは返事が下手というか,返事ができない子が多い。

B注意すべきは休日後:
 どの学校でも休み明けは保健室の利用が多いという。休みで子どもたちのリズムが狂っている。だから,月曜日は要注意である。特に安全面には徹底した指導をするように心がけている。

C虫歯:
 基本的生活習慣が身についている学校かどうかは,虫歯の数と関係しているともいわれる。学校でも虫歯の検診があるが,虫歯を放置しないで歯医者に行くように子どもにも保護者にも啓発している。
(2005年7月11日「北海道人格教育懇話会」にて発表)