日本の海洋安全保障
―手薄な国境の島をどう管理するか

東海大学教授 山田吉彦


<梗概>

 日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は世界で6番目の広さを持つといわれる。2007年に海洋基本法が制定され,それに基づき海洋基本計画が策定されさまざまな施策が進められている。しかし,日本の近海をめぐる周辺国の動きをみると,日本の海洋政策は十分とはいえない。次期海洋基本計画に向けた策定作業が2012年から始まる中,今まで以上にしっかりとしたビジョンと政策を立て速度感もある海洋政策を展開する必要がある。あわせて日本の端の島々の現状を報告する。

1.豊かな海洋資源をもつ日本

 日本はわれわれが想像する以上に広い国である。北は択捉島から南は沖ノ鳥島まで3,020kmあり,沖ノ鳥島は台湾やハワイ・ホノルルよりも南に位置する。12月の気温で比較しても同じ標高で最北端の−10℃から最南端の30℃までというように40度も差がある。東西も東の南鳥島から西の与那国島まで3,170kmも離れている。このように広い日本には豊かな自然環境がある。
 日本は領海について12海里を主張するが,5海峡のみ3海里としその中間を公海として空けている。
排他的経済水域(EEZ)は,あくまでも公海であるが,特別に経済的権益が認められている。その権益には大まかに三つある。
第一は,大陸棚を含めた海底資源開発の権利である。
 日本の周辺は海底資源の宝庫である。例えば,日本近海にはメタン・ハイドレートが豊富にあり,日本が使用するガス・エネルギーの94年分の埋蔵量があると推計されている。経済産業省は,今後10年間でその商業化を図ろうとしており,2012年から南海トラフ(静岡から四国にかけての沖合)で試掘が始まる予定である。
 海底熱水鉱床も日本付近に分布するが,とくに沖縄海域,小笠原海域に多い。世界的にみると海底熱水鉱床の多くは1,000〜3,000mの深度の海域にあるが,日本近海は400〜1,600mと比較的浅いところに多い。採出可能なものが概算で200兆円分あるとも言われる。さらに日本近海の海底熱水鉱床は,金・銀含有率が高い。マンガン団塊に関連して言えば,コバルトの多いコバルト・リッチ・クラストが小笠原諸島近海にある。南鳥島海域には,レアアースが発見されている。
 第二は,海水を調査・利用する権利である。日本近海には海水が多く存在する。海水体積で比較すると日本は世界で4番目に多い(表1)。日本近海に黒潮などの海流が運ぶウランが,年間約520万トンと言われる。海中からウランを抽出する技術を日本はほぼ確立しており,採算ベースに乗せるのに最短距離にいる。
 第三は,漁業管轄権で,EEZ内における漁業は日本の許可なく行うことはできない。この概念は安全保障の上でも有効に活用できる。例えば,北朝鮮の工作船を海上保安庁の巡視船がいかにして追いつめることができたのか。北朝鮮の工作船が中国の漁船になりすましていたために漁業法に基づいて対応することができたのである(漁業法違反容疑)。ただし,竹島付近のように日韓漁業協定に基づき暫定水域を設定している区域も一部ある。
 ただ漁業管轄権については,日本にはマイナスに作用した経緯がある。もともと日本は遠洋漁業の盛んな国であったが,世界各国が200海里EEZを設定するようになり,遠洋漁業が壊滅的な打撃受けることとなった。1950年に110万人であった漁業人口が現在では20万人にまで減少した。
 日本の領海・EEZ面積は世界で6番目と言われる(表2)。実はここには英仏両国が入っていない。そもそもEEZは当該国が主張してはじめて設定されるわけだが,英仏は無人島や経済的権益の見込めない島についてはあえてEEZを設定していない。欧州では無人島についてEEZをほぼ主張しないとされる。一方,日本は無人島についてもEEZを主張している。英仏の無人島を基点とするEEZを含めて比較しなおすと,世界第2位がフランス,第4位が英国で,日本は9位となる。中国はEEZ300万?と主張するが,実際にはそれほどない。その数値は,台湾のほか,南沙諸島,西沙諸島など領土紛争地域も含めて計算した値だからだ。中国が実際に管理している海域の面積は,90万?を切る程度である。

2.日本の海洋安全保障政策

 日本の海洋安全保障を統轄する法律は海洋基本法である。この法律は自民・民主・公明の議員立法によって制定され,2007年7月20日施行された。同法に基づき総合海洋政策本部が設置され,本部長に内閣総理大臣,副本部長に内閣官房長官,海洋政策担当大臣(国土交通大臣が兼務)がそれぞれ就任し,参与会議というアドバイザー会議がある。
 この法に基づき,海洋基本計画が策定された(2008年)。5年ごとに見直すこととなっており,来年(2012年)は年明けから次期海洋基本計画の策定作業に取り掛かる。関係各省庁ごとにプランが出され,それを総合海洋政策本部がとりまとめる。国土交通省では11年12月からその準備作業に入った。
 11年5月には東日本大震災に関する海洋立国の視点からの緊急提言のために,「海洋基本法フォローアップ研究会」が開かれ,エネルギー問題に関していくつかの提言が出された。その一つは,原子力発電に代わるエネルギー源としてメタン・ハイドレート開発を推進すること,もう一つは,洋上風力発電を含めた海洋エネルギーの開発を優先課題とすることなどである。その提案に従って現在進められている。
 海洋基本法の基本理念は,次の通り。
  海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和
  海洋の安全の確保
  科学的知見の充実
 海底については,宇宙と同程度に未知の世界だといわれる。
  海洋産業の健全な発展
 とくに海底資源の開発に向けて新しい産業分野として注目を集めている。
  海洋の総合的管理
日本では39の無人島に名前がついていない。名前のついていない島からEEZを設定するというのはおかしなことであるから,それらに名前を付けようとしている。中国は,海島保護法(2009年12月制定)によって,領海内の無人島すべてを国家管理のもとに置き,すべての島に名前をつけその標識を設置して管理することにした。
  国際的協調
ここには海賊問題も含まれるが,海賊問題に若干触れておく。
 日本のソマリア沖海賊の対策部隊として,ジブチの基地は有効に機能しており,アデン湾の海賊が減少した。その反面,海賊はインド洋全域に拡大してしまった。インド洋の西部に位置するセーシェルは沿岸警備隊を中心に海賊対策を行なっているが,インド洋での海賊の増加に対して,セーシェルに基点を置くことも一案だ。また,インド,タンザニア,ケニアなどのネットワーク作りに日本が貢献できると思う。
もう一つは,船員に関する問題である。船籍制度が現状のままでは(外洋海運である日本商船のうち日本船籍船は約5%)形式的には日本は責任をもてないが,事実上日本の船であることには変わりない。日本の立つ位置を明確にして船員教育を徹底する必要がある。日本の大手船会社は,船員教育がしっかりしているので海賊に襲われても逃げ切ることが出来る。そしてそのときに武器を携行できるかどうかの問題もある。

3.手薄な国境の島の管理

(1)島について
 国連海洋法条約121条は,島の制度を定め,次のように規定する。
1. 島とは,自然に形成された陸地であって,水に囲まれ,高潮時においても水面上にあるものをいう。
2. 3に定める場合を除くほか,島の領海,接続水域,排他的経済水域及び大陸棚は,他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
3. 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は,排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
 
 1にあるように人工島は島と認められない。満潮時に沈んでしまうものも島とは認められない。この条件から言えば,沖ノ鳥島はれっきとした島である。中国が沖ノ鳥島についてEEZを設定できないと抗議する根拠は,121条3項である。一方,英仏はこの条項に従って無人島にはEEZを設定していない。日本では,無人島をなくしていこう,利用していこうという流れはあるものの,無人島について引き気味の姿勢がみられ懸念されるところである。
 以下,日本の端の島々についてみてみよう。
(2)北方領土―進むロシアの侵食と中韓の進出
 私はビザなし渡航で北方領土に4回行った。最初の渡航は2006年8月に国後島,択捉島,2009年,2010年に同じく国後島,択捉島を,2011年には色丹島をそれぞれ訪問した。 
2007年ロシアは178億ルーブル規模の「クリル社会経済発展計画」を発表したが,実際にはその三分の二に削減された(日本円で500億円程度)。最近,ロシアが北方領土に本格的な投資・開発を行っているとのメディア報道があるが,500億円の投資規模で果たしてどれほどのことができるだろうか。択捉島および国後島に飛行場,港湾,学校,病院などをつくるという。ロシアの物価が安いとはいっても,飛行場を二つ完成させるほどの予算ではないことは明らかだ。
 国後島の港の沖合は沈没船だらけだ。2010年11月,メドベージェフ大統領が同島を訪問したときに利用した飛行場は,管制塔はきれいだが建物の中は予算が切れたために電気が通っていない。今後どうなるかの見通しはない。ロシアとしては,日本の投資を見込んでいるのではないだろうか。
 国後島の公的行政機関で働く職員はモスクワの2倍の給与で,年金受給資格については,例えば10年勤務を20年勤務とみなして計算する。そして30年勤務(実質15年働く)すれば満額の年金を受け取ることができるしくみなので,15年間働いて満額の年金受給資格を得た段階で,モスクワやウラジオストクに移って行ってしまう人が多い。それゆえ北方領土には中間層がいない。また男だけ出て行ってしまって未亡人も多い。
 学校はほとんどなく,若干の短大・専門学校はあるものの,高卒後はウラジオストクやハバロフスクなどに行かなければならない。そして一旦島から出ていくと島には戻ってこない。また病院はあっても本格的医療機関はない。このように日本の離島と同じ状況がみられる。色丹島も同様だ。
 一方,択捉島は若干状況が異なる。択捉島はギドロストロイ社(本社ユジノサハリンスク)が漁業,水産加工,建設,金融などすべての開発権をもち独占的開発に当たっている。500億円の投資額のうち200億円ほどが同社関連で回っている。北方領土開発資機材はすべて同社が運搬し,人材も同社系でまかなっている。また同社は,択捉島に10診療科をもつ病院を建設し,サハリンの大学の卒業資格が取れる通信制の学校を作り,ロシア正教の教会建設にも援助した。このように経済産業だけではなく,宗教分野まで手を伸ばしている。
 北方領土では既に個人の土地所有が始まった。歯舞群島は軍人のみが住む。
 色丹島では,開発が少しずつ進められているが,今年訪問した時には海が死んでいた。ギドロストロイ社系列の子会社が水産加工工場を運営しており,魚のはらわたをすべて湾内に捨てている。この地域の海は夏でも水温が20度を超えないために捨てられたものがバクテリアなどにより分解されずに湾内に沈殿し,汚染源となっている。またごみ焼却場がないので,野に山積みして野焼きしている。
 北方領土には北朝鮮の労働者が入っている。サハリンの人材会社が北朝鮮と提携して安価な労働力を調達しているのである。しかし賃金の大半はその会社が持って行ってしまうので,北朝鮮の労働者は残業や他の仕事をして稼いでいる。色丹島には8人の北朝鮮の労働者が建設労働に就いていた。真冬でもまじめに働く労働者として重宝がられている。こうした現実を見ると,ロシアには二島返還の意思もないように思われる。
 もう一つはこの海域の問題である。ロシアは軍事力を増強しているといわれている。11年9月に訪問した際には国後島で軍事演習を行っていた。それは中国が仮想敵国のようだ。ここには北朝鮮をめぐる中ロ関係がある。北朝鮮の羅先港は中国に租借(中朝間の契約で中国が使用権を獲得)されており,来年(2012年)には中朝海軍が日本海で合同軍事演習を行うとされる。
 また北極海航路の影響もある。北極海地域の温暖化も影響して,今夏(2011年)は2カ月間北極海航路が稼働し70万トンの物資(大型コンテナ船約15隻分)が輸送された。北極海航路の運航によってウラジオストクの意味が変わってくる。アジアの物質をウラジオストクに集め,宗谷海峡から千島列島を通過して北極海航路を使って欧州に運ぶと,三分の二の工程で済む。とくに中東の不安定な情勢が続くと,アフリカの南端航路の利用が余儀なくされるが,それと比べ北極海航路は二分の一に短縮できる利点がある。夏期だけでも輸送費用を減らすことができる意味は大きい。
 さらにサハリンの天然ガスがある。東京に運ぶのに,以前であれば宗谷海峡から西に回り津軽海峡を経由してきた。ところがここ数年は国後島と択捉島の間を通過するルートが利用されている。
 ロシアはこの海域の管理を始めた。今年国後島,色丹島を訪問した時に,ロシアの沿岸警備隊の警備艇が少なくとも9隻航行しているのを目撃した。一方,日本側の警備艇は根室海上保安部の4隻程度である。つまりこの地域はすべてロシアの管轄下に入りつつあるのである。海の管理の観点から,ロシアはこの北方4島の意味を変えつつあると思う。北方領土交渉は,今後島の返還という交渉だけではなく,周辺海域の意味を含めて考え交渉を進めていく必要がある。
 中国の潜水艦は,北方領土海域を経て日本海に入ってきているが,ロシア艦隊はそれらを哨戒するほどの能力がない。一方,津軽海峡や対馬海峡は日本の自衛隊がしっかり押さえている。
 私は最近,根室市に経済交流計画を提案した。北方領土は約17,000人の島で,いつまでもロシア本土から経済援助,物資輸送するのにはコストが高くつく。本来は日本との経済交流によって開発するのがよいと思う。
 しかし現在,日本からの経済交流は中断している。その結果,どうなったか。これまで北方領土で使われている車は日本製中古の四輪駆動が多かったが,最近は2〜3割が韓国・現代製となった。色丹島の学校で使われているコンピュータは中国製,民家の家電はPCがサムソン,洗濯機はLG製,生鮮食料品は中国から送られているという。それらはほとんどウラジオストク経由で運び込まれている。
 このようにこの島々には中国,韓国,北朝鮮など東アジア諸国の影響が出始めている。日本が経済交流をすることで北方領土のアジア化を抑えることができるのではないか。将来に向けたアイディアとして,この地域の港湾を日本・ロシアのコンテナ中継基地として北極海航路向けに使えないかとも考えている。4島を常に日本人が自由に往来できる島にすることが重要であり,そのことを重視し領土返還を実現していく。
(3)竹島―日本漁業の難しい現実
 韓国は,竹島(独島)を警察権(警察と海洋警察庁)によって守っている。竹島に日本船が近づくと韓国の海洋警察隊は攻撃をしてくる。それは韓国のどのような法律に基づく行為なのか。いわゆる「正当防衛」の考え方である。危険をもたらす者を排除するのである。
 竹島には土産物屋があり人がいるので(これは経済行為),竹島は海洋法にいう無人島ではない。
 この海域は日韓漁業協定の暫定水域に指定されている。そのため12海里以外であれば日本の漁船も漁ができる。そうなると日本の漁民の実損は少ない。日本側の損が少なくなってしまっているために,竹島問題でデメリットを感じない日本人が多くなっている。
 日本の漁民の方は実際竹島まで行かない。隠岐の漁師も遠くの竹島まで行くよりは沖でアワビを養殖している方がいいという。日本では漁民が激減している上に,沿岸漁業を営む漁師の平均年収は280万円程度,燃料費までかけて沖まで行くことはたいへんだ。ちなみに,養殖や栽培漁業では平均年収が550万円以上である。
漁協体制の中にいる人たちより,それを脱却した人たちの方が成功している。例えば,北海道の歯舞漁協は,市とタイアップしてウニの生産に成功し,漁協組合員の平均年収は1,000万円。紋別のホタテ養殖も同様で平均年収が1,000万円。漁業は新しい方向性を模索する段階にきていると思う。
 竹島問題は,日本人の意識が少なくなっている半面,韓国国民は「独島,わが領土!」と叫んでいる。独島問題だけは日本に対する優位性をはっきりと持つことができるために,対日姿勢で妥協できない象徴的存在になっている。
(4)尖閣諸島―巧妙な中国のやり口にどう対処するか
 2010年9月7日,尖閣諸島の沿岸で中国漁船が日本の海上保安庁の警備艇に衝突する事件が発生した。当時,その付近には160隻の中国の漁船団がいた。同年夏には最大270隻の漁船がいた。これらの漁船団は,いったい何をしているのか,調べてみた。
 これらのほとんどの船は,アモイ近くの福建省晋江にいて,漁政の指示のもとに動いている。今年は南シナ海方面に行っているようだ。それでは漁船団の役割は何か。漁船には魚群探知機が付いているが,一団の漁船が一斉に行動しながら,米国潜水艦の動きを確認していく。彼らは明らかに軍事的意味を持って行動している。
 9月7日の後,漁船団はどこに消えたのか。10日後には白樺ガス田付近にいた。中国船がガス田の探査などをするときに一緒に動いて,他国の船舶に妨害をされないようにしている。
 9月28日,米海軍オハイオ級原潜ミシガンのマクラーフリン船長が米海軍横須賀基地に入港した際にコメントを出した。「われわれは日本の側面支援のために東シナ海にいた。海軍特殊部隊も収容していた。平和のための準備は整っている」と。
 中国の戦略は明らかに変わった。2010年の中国漁船衝突事件の時も,人民解放軍は姿を見せなかった。人民解放軍に代わって,交通部海事局の「海巡」,国土資源部海洋局の「海監」,農業部漁業局の「漁政」,公安部辺防管理局の「海警」と呼ばれる船艇で警備を行なっている。
 漁政の一番大きいものは11,000トンで,もともと軍艦である。乗っている船員も軍からの出向組。実際に軍人たちが乗船している。既成事実を積み重ねながら支配区域を拡大していく。中国の日本に対するやり方はそれでも穏健な方で,フィリピン・ベトナムなどに対してはもっと激しく行動している。その一方で,彼らは意外にも国際法に基づいて行動したがる。
 日本政府は領土問題は存在しないと主張しているが,彼らが問題を起こしている以上,国際法上,領土問題は存在していると考えてよい。そう考えて行動していかないとかえって国際世論を敵に回すことにもなりかねない。尖閣諸島が日本の領土であることは,中国側にもほぼ理解されている。最近中国の当局者とクローズの話をしたときに,彼らは「魚釣島や久場島などが日本領土であることは分かっている。しかしすべての島が日本の領土ではなく,中国の領有権を主張できる」と言っていた。
 この背景には国際法上の判例がある。シンガポールとマレーシアが領有権を争っていたマラッカ海峡東方のペドラブランカ島(Pedra Branca)について,国際司法裁判所が「同島はシンガポールに帰属する。また島周辺の岩の一部についてはマレーシアに帰属する」との判決を言い渡したのである(2008年5月)。同島は幅100mほどの小島で,1851年に灯台が設置され,その後シンガポールがそれを管理してきた。ところが1979年にマレーシアが領海地図に同島を含めたことをきっかけに帰属紛争が起き,両国が2003年に国際司法裁判所に提訴していた。
中国が尖閣諸島に関して狙っているのはまさにこのやり方だ。尖閣諸島にはいくつかの小さい岩があるが,それを日本が管理していないとなれば,台湾に近いので台湾領有とみなすことができる。つまり大きな島は日本領有でも,小さな島は中国領有となれば,東シナ海に中間線が引けなくなる。そうなると東シナ海は中国の海となり,中国軍は堂々と東シナ海を航行して太平洋に出られ,海底資源・漁業資源も開発できる。これらはみな海島保護法に基づいてやっている。このように中国は海洋に関する法律を一つ一つ作っていきながら,権益を拡大しているのである。
 いま何より重要なことは,尖閣諸島を日本が明らかに利用していることを示すことである。例えば,この島で産業を行う,あるいは調査を綿密に行うことである。そしてこの島に日本人が住むことである。もしここに中国人が住み始めたら,日米安全保障条約の対象外になってしまう。何よりも先に日本人が住み,日本の行政機関がそれを守っていく必要がある。ただし,現在尖閣諸島は個人所有でそれを国が借りている状態であるから,その見直しも必要だろう。
(5)沖ノ鳥島―島としての利用を強化
 沖ノ鳥島はサンゴ礁の島で,南北1.7km,東西 4.5kmである。富士山の頂上のような形状をしていると考えればよい。リーフ(礁)の30km先は一気に4000mの深さになる。ビーチ・サンゴ礁が年間4cmくらいずつ西に移動しており,東小島と北小島がある。高潮時水面に出るのは16cm。ここを起点とするEEZは40万?に達する。
 この島を管理し利用しなければならない。私も2回ほど現場に行ったが,この島に人が住むのは少々厳しい感じだ。現在,沖ノ鳥島のサンゴの卵を沖縄に持っていきそれを増やす試みをしている。増殖した稚サンゴを戻してそれが成長すれば砂礫が形成される。いまの計画では,17年後に陸地が増えると予想される。このようなサンゴの培養計画をこの島を拠点に進めている。さらにはそれを国際的研究プロジェクトに発展させていく。
 また海上保安庁が沖ノ鳥島に灯台を作ったが,それは世界の灯台表にも記載されている。これは「権利の光」である。これは島を管理している証となる。いずれはここを拠点に明確な経済行為を行うようにする。

3.最後に

 日本の広い海をいかに管理していくか。まずは,離島を有効に使わなければいけない。それぞれが価値と意味を持つので,その個性に合わせた利用の仕方を考えていく。それが日本のEEZ447万?を活用することにつながる。
また問題意識を広く喚起していくことも大切だ。2012年は次の海洋基本計画策定プロセスに当たるが,今の計画よりも具体的なプランに落とし込んでいく。それをもとにしっかりとした海洋政策を展開することが願われている。

(2011年12月7日)