日韓海底トンネルと東北アジア経済共同体の展望―韓国の視点

Japan-Korea Undersea Tunnel and Prospects for the North East Asian Economic Community: South Korea Perspectives

申章_(韓国・崇實大学教授)
Jang-churl Shinはじめに

 

はじめに
 近年,東アジアや東北アジア経済共同体の議論が,かつてないほど活発に展開されている。特に,東北アジアの主要な構成国である韓国と中国,そして日本全体の人口は,2008年現在約15億390万人で,世界人口の約25%を占めているが,これはEUの約4倍に達する規模である。それだけでなく,これら3カ国間の交易量 も拡大の趨勢にあり,2007年末現在で,域内の交易額は5,000億ドルを超え,世界の全商品の輸出に占める比重は約17%であるなど,経済的な躍動性と相互依存性と共に,成長潜在力が大きな地域として浮上している。
 しかし,これら東北アジア3カ国は,複雑な歴史的関係と深刻な理念的相違により,冷戦が終息し地域化の新しいパラダイムが定着している21世紀においても,北米およびヨーロッパ その他の地域に比べ,経済共同体形成の議論が相対的に大きく遅れている。
 一方,韓国では東北アジアの経済統合および経済共同体形成の議論が比較的早い時期からあった。特に盧武鉉政権は,長い冷戦体制の瓦解を契機に,東北アジアの平和と繁栄のための体制を構築するため,いわゆる「東北アジア中心構想」を推進した。しかし,その間,朝鮮半島を取り巻く環境変化と国内経済の引き続く沈滞による国家的力量 の弱化により,議論に大きな進展はなかった。
 本研究は,これらの問題を念頭に置いて出発しており,地政学的にみて東北アジアの中心に位 置する韓国が,政治・経済的な力を強化させる方法を模索することに意義を置いている。もう少し具体的には,本稿は東北アジアが20世紀と21世紀にかけて最も躍動的な地域の一つであるにもかかわらず経済統合の動きが微弱という現実に焦点を合せており,その対処方法の一つとして東北アジア構成国の物理的断絶性を克服し,地理的近接性を確保する議論を展開する。

1.東北アジア経済共同体の推進課題と日韓海底トンネルの建設
 日韓間の海底トンネル建設の早急な議論と共に,地球的次元で大陸をつなぐ海底トンネル建設が積極的に論議されている事実に注目しなければならない。特に,ヨーロッパとアフリカを海底トンネルで結ぶ作業が具体化しており,最近ではヨーロッパのスペインと北アフリカのモロッコをつなぐ全長40km(海底区間 28km)のジブラルタル海峡を貫通する海底トンネル建設の試験工事が着工された。それだけでなく,米国のアラスカとロシア北東部をつなぐベーリング海峡に海底トンネルを建設する議論も本格化しており,はなはだしきは米国のニューヨークとイギリスのロンドンを結ぶ大西洋横断海底トンネル建設も技術的観点で検討されているなど,今後 ,全世界的次元で海底トンネル建設が一大ブームを起こすと予想されている。
 このような事実を通してみるとき,日韓海底トンネルは全世界的次元の海底トンネル建設ブームを加速化させることはもちろん,東北アジア地域での経済共同体形成とユーラシア鉄道網の構築においても主要な役割を担うと判断される。

(1)東北アジア経済共同体の潜在的可能性と解決課題
 近年,東北アジアの主要構成国の韓国・中国・日本3カ国間の経済共同体形成のための内外の環境と条件が好転している。特に東北アジア3カ国は,世界的に進行している地域化の趨勢に便乗するため地域次元の経済統合体結成の必要性を共感しており,中国のWTO加入と世界経済に占める比重が急激に増大したのを契機に,東北アジアの経済的協力と政治的紐帯関係の強化の必要性が切実になっている。
 それにも拘わらず,東北アジアは周知の通り地域の経済協力が振るわず,経済共同体推進の議論が進展しない状況にある。その要因はいろいろな観点から指摘できるが,まず歴史的観点から見るとき,過去の歴史に対する立場の違いと終わりのない領土紛争,経済的には体制および発展段階の差,そして政治的には冷戦体制の残滓である対立的イデオロギーと安保的緊張状態が続いている点を指摘できる。
 しかし,東北アジア地域は1990年代末の東アジア経済危機を契機に域内での共同体意識が広がっており,EU共同体の形成と地域主義の世界的拡散などの環境変化で経済協力の関心が高まっている。
 東北アジアに経済共同体が形成されるためには数多くの限界および障害要因を先に解決しなければならないが,東北アジアの独特の地理・社会的環境と条件を考慮すると,次のようないくつかの前提条件について段階的な解決方策を提示できる。
 まず東北アジア3カ国間に政治・経済・社会的な国民的共感の形成のための基盤が造成されなければならない。これは経済共同体形成のための前提条件であり,近年,東北アジア3カ国間で論議されているFTA交渉で見られるように,経済統合体の議論に弾力をもたせるためには,なによりもまず多方面 の領域と分野で共感が形成されなければならない。
 二つ目に,東北アジアの地域・分野別の共通議題と関心事を発掘し,これを実現できるリーダーシップを養成しなければならない。共同のアジェンダ(Agenda)と関心事を発掘し,市民団体,NGO,地域の指導者らの交流と協力体制を構築すべきである。東北アジア共同体についての中央政府の関心と成果 は微弱だが,地方政府間の交流は比較的活発で,特に,市民が交流チャンネルとして重要な役割を遂行していることに注目する必要がある。
 三つ目に,東北アジア3カ国は,長期的なビジョンと枠組みを持って,共同のプロジェクトを開発するべきだ。例えばヨーロッパ地域の場合,ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC: European Coal and Steel Community,1952年)から出発し,ヨーロッパ経済共同体(EEC: European Economic Community,1958年)を経て,今日の欧州連合(EU, European Union, 1992年)により 名実共の巨大な地域共同体を達成したことは,昨今の東北アジア共同体の議論において示唆するところが大きいといえる。
 一方,東北アジア次元の経済共同体が形成されるためには,多方面 にわたる共感の形成と共通のビジョンとプロジェクトを開発すると共に,交通 ・物流・通信・エネルギーなどのインフラ産業を整備するべきだ。すなわち,商品・資本・サービスのより自由な移動と人的交流の円滑化を通 じ,東北アジア域内の資源が効率的に配分されなければならない。そのためには,経済大国の日本と世界の工場である中国,そして,その間に位 置する韓国と東北アジア構成国家の間の地理的近接性が確保されなければならない。
 このような観点から見るとき,日韓海底トンネル建設は,東北アジア3カ国の地理的断絶性克服の一助となることにより,日韓関係と日朝関係はもちろん,中国とロシア,ひいてはヨーロッパ大陸との交通 網と物流体制に画期的な変化をもたらすはずである。
 もちろん日韓海底トンネル建設に関連した議論如何によっては,東北アジアの緊張緩和と政治的安定を通 して地域共同体の議論を活性化させ,共存共栄の平和体制確立の契機になる。それだけでなく日韓海底トンネル建設は,朝鮮半島での南北朝鮮統一をも後押しする契機となり,また陸上交通 手段を通して,モンゴル,中国,ロシア,ヨーロッパをつなぐユーラシア鉄道網の建設という夢のような未来を実現する起曝剤になり,汎人類的な次元で積極的に検討されなければならない。

(2)東北アジア共同体形成に対する東北アジア3カ国の認識
 EUの事例で見るように,ヨーロッパ統合の歴史は,古代から今日に至るまで,あらゆるヨーロッパ人が共同組織の中に結束させるための意識的で自発的な努力の過程として理解できる。
 特に,16世紀から民族国家らが形成され対立する過程で,ヨーロッパの平和を保障できる組織の創設を主張するようになって以来,ヨーロッパ諸国を平和的な協力方法で組織化しようという一連の努力が第二次世界大戦後に現れるようになった。すなわち,第二次大戦後,ヨーロッパは焦土と化して分裂したが,ヨーロッパ再建のために共同の努力と恒久的な平和体制を樹立しようという意志などが今日のヨーロッパ建設の原動力になったのである。
 1992年2月に調印にされたマーストリヒト条約は,ヨーロッパ共同体の12会員国よるEUのスタートを知らせ,経済・通 貨同盟と政治連合を通し,協力と統合によるヨーロッパ共同体の建設を意味する。ヨーロッパ共同体は,力と支配の産物でなく平和と法秩序の建設を目指したヨーロッパ各国の努力と市民の自由な意志の結果 だったのである。
 一方,東北アジアを構成する韓・中・日3カ国は,古代から今日に至るまで,政治,経済,社会的に密接な関係を結んできたのであり,漢字,儒教,仏教などの文化要素を共有しながら¢東北アジア文化圏£を形成した。もちろん,朝鮮半島が東北アジア文化圏の形成で橋渡しの役割をしてきた。
 また近年,東北アジア3カ国は中国のWTO加入を契機に経済的依存関係が進み,東北アジアの経済協力のための共同体形成の必然性が増大している。しかし東北アジア3カ国の歴史的関係は複雑で,戦争と紛争,葛藤と対立関係により,相互の不信関係がなかなか払拭されず,域内にある国家間の経済協力体と共同体形成の議論も他の地域に比べてそれほど活発でないのも現実だ。
 それにも拘わらず,地域化とブロック化が進む21世紀において,東北アジア3カ国は歴史認識の共有を通 し,和解と協力の体制を早く構築しなければならない。言い換えれば,東北アジア3カ国は,歴史的に相互に協力した経験と共有価値を生かし,信頼回復と共存共栄のための共同の議題を樹立し,経済協力と共同体形成を遮るいろいろな障害要因を早く除去しなければならない。
 ここで今後の地域協力と共同体議論において,韓国・中国・日本3カ国の立場を概観し,経済統合と共同体形成に対する認識をいくつかのキーワードを中心に簡単に提示すると次の通 りになる。

1)韓国の立場と基本認識
 韓国は大陸のロシアと中国,海洋の日本と米国を結ぶ中間位 置にあり,半島的な特性をもっている。したがって,韓国はこれらの国家を結ぶ架橋国家の役割と共に,東北アジアの地域協力を促進する力を発揮する潜在力を持った国家として,域内国家の統合と共同体形成において,仲裁者の役割を担当するために国家的力量 を注いでいる。
 特に韓国の前政権は,大陸と海洋を結ぶ地政学的位置と,経済の中心地としての潜在力を極大にして平和と繁栄の東北アジア時代を開くことを政策目標とした。すなわち,韓国の盧武鉉政権は,政治関係の改善と経済協力の拡大という循環構造を確立し,また開放的で躍動的な市場の構築で東北アジアを世界経済の成長の中心軸に育成するビジョンと国家戦略を提示したのである。た現政権においても,2009年9月米国で開催された,第3次G20会議の際,2010年第5次G20会議を韓国に誘致するなど,外交舞台での発言力を強化する動きを見せている。
 このような観点から見ると,韓国は表面的には域内統合について最も積極的な立場を表明してしながらも,実際には東北アジア国家間の経済的依存関係を深めているといえる。最近,東北アジアに対する韓国企業の直接投資が増えている趨勢にあり,対外貿易において東北アジア地域との貿易が占める比重が増えているなど,東北アジアの経済協力推進において重要な行為者になるために努力している。

2)中国の立場と基本認識
 中国は,巨大国家としてこれまで推進してきた経済発展戦略から,東北アジア地域よりも東アジアの地域協力を重視している。中国が認識する地理的な東北アジア地域は東アジア地域に含まれる。すなわち,中国は東北アジア地域より東アジア地域の協力を重視しているが,その理由は東北アジア地域が政治はもちろん軍事・安保上でも激戦状態と認識している反面 ,東アジア地域は東北アジア3カ国と台湾,香港,そして東南アジアにつながる国際分業秩序を中国の経済発展に活用するのに有利なためである。
 したがって,中国は東アジア地域協力に対しては経済協力を中心にした政治・軍事協力への拡大を推進する反面 ,東北アジア地域に対しては,経済協力を推進するものの,政治および軍事協力は中長期的立場から漸進的へ推進している。すなわち,中国は経済協力関係においてアセアン+3による東アジア協力を主軸にしながら,アセアン+1(韓・中・日各国)による多角的な協力方式の発展を期待している。
 しかし,中国の勢力拡大を牽制する米国と,地域の覇権を意識している日本の存在は,域内の政治・軍事協力に対する中国の役割を消極的にしているが,対外経済協力においては二元的発展戦略(two track strategy)を採択することで対外開放と国際化を加速化させている。すなわち,まず中国は対外的には2001年のWTO加入を契機に世界化の趨勢に積極的に参加しながら,国内制度を国際水準に改革して世界経済への編入を図る一方,東アジアの地域統合趨勢に主導権を行使し,域内で中心的役割を遂行するための国家的力量 の向上に力を傾けている。

3)日本の立場と基本認識そして課題
日本の東北アジア地域経済協力についての立場は比較的消極的である。日本はシンガポールに続きアセアンとFTA締結を推進しているが,韓国とのFTA締結の交渉は決裂し,中国との交渉も保留状況にある。
 言い換えれば,日本は東アジアでアセアンとの協力には積極性を示すが,東北アジア地域は葛藤要素が多い地域と見なし,政治および軍事的協力はもちろん,経済協力においても競争相手として認識し,比較的消極的な立場を取っている。それにも拘わらず,中国との貿易投資は相当の水準で増加し,日本の経済回復が中国の経済成長と噛み合っている程に,中国と日本の間には経済的相互補完関係が進んでいる。
 東北アジア共同体形成と関連して日韓海底トンネル建設の議論が進展し具体化すれば,日本は陸上交通 手段で連結するようになり地理的共同体に編入され名実共に東北アジアの大陸国家の一員に編入することになる。経済大国の日本が東北アジア協力体の一員として編入される事実はチャンス要因でもある。日本の歪曲された歴史認識と覇権意識が残っていることは深刻なリスク要因にもなり得るため域内国家が憂慮している。
 したがって日本は何よりもまず域内での領土紛争,資源紛争,過去の歴史などに起因する不信関係を果 敢に清算し,共存共栄のウィンウィン(win-win)関係構築のため,より積極的で目に見える努力を先行するべきだ。すなわち,日本は東北アジア域内国家との友好善隣関係の構築こそ東北アジアの政治的安定と経済共同体形成において重要な要素であることを認識して,経済規模に見合う国家的力量 と外交的リーダーシップを発揮しなければならない。

3.東北アジア共同体議論と日韓海底トンネル建設
 現在,東北アジアの主要構成国のひとつ日本が島国として大陸と分離されており,朝鮮半島は東北アジアの中心に位 置し,東北アジアの物流中心国家としての潜在的力量は備えているが,南北朝鮮の分断により,韓国は事実上,島国のように地理的に孤立にしており,地政学的な利点が十分に発揮できないでいるのが実情だ。
 言い換えれば,東北アジアは地理的な特殊性により物流および人的交流に断絶性が存在していて,港湾と空港施設を通 じての限定的な物流移動のみが可能で,東北アジアをつなぐ統合交通 網と複合物流体制が整備されていないなど,域内資源の効率的な配分と人的な交流が大きく制約されている。これを克服するには,まず東北アジア構成国家の地理的断絶性を克服し,地理的近接性が確保しなければならず,また北朝鮮の開放が必須条件になる。
このような観点からの問題解決において「日韓間の海底トンネル」建設の議論は有効かつ充分な戦略的意味を持っている。
 すなわち,韓国の立場から見るとき,朝鮮半島の南北分断により大陸との陸上交通 手段は断絶しており,島国のような存在として残っており,東北アジア次元の交通 ・物流体系においてハブ機能を遂行するには限界があるということだ。もちろん,南北朝鮮が統一の先行段階として京義線および京元線を復元すれば,当然,韓国が半島としての地政学的位 置が活用され,東北アジア中心の物流中心国家として登場できるが,南北関係の解決は政治体制および外交的力学関係と密接な関係があるため経済論理としては解決出来ないし,何よりもその時期を予測できないという現実的な問題がある。
 しかし,本研究で主張している日韓海底トンネル建設は,東北アジア次元の政治的日程と状況変化とは関係なく推進でき,むしろ朝鮮半島の緊張関係緩和と安保的対立関係の解消に一定の役割を期待することができる。すなわち,日韓間の海底トンネル建設は,単に当事国である韓国と日本との政治,経済,社会的交流や協力の次元でだけではなく,議論如何によっては北朝鮮を東北アジア協力体制の中に引き込む契機となって,朝鮮民族の念願である朝鮮半島統一のための実践的議論とその実現を牽引する契機になることができる。
 それだけでなく,韓国と日本の海底トンネル建設は,東北アジアの政治,経済共同体議論の起曝剤の役割をするはずで,究極的にはユーラシア次元の経済協力および共同体形成にも寄与するはずだ。

2.日韓海底トンネル建設による期待効果 ―韓国の視点を中心に
 今後,東北アジアの政治的な環境変化は,TKRやTSRの連結問題と直接的な関連性を持ち,実際TKRとTSRが結ばれると日本は日韓海底トンネル建設の必要性を韓国以上に痛感することになる。すなわち,日韓海底トンネルは経済的な意味と共に,日韓や日朝関係を画期的に改善させる政治・外交上の意味も持っている。もちろん日韓海底トンネルによる期待効果 は社会・文化等多角的な観点から指摘できる。本章では多様な期待効果 の中で,韓国側から得られる政治・経済的な側面に焦点を当てて論じてみたい。

(1)政治的期待効果

1)韓半島の地政学的重要性
地政学的な観点から見ると,韓国と北朝鮮を含む韓半島は東北アジア地域の中心に位 置し,政治的な面はもとより,交通や物流を含める経済関係においても中心国家としての役割を果 たすことが出来る潜在力を十分もっている。
 周知の通り,日韓海底トンネル建設は韓国にとって単なる交通 手段以上のもので, 東北アジアはもちろんEU経済圏まで統合することになる。すなわち,日韓海底トンネル建設事業を契機に TKR・TSR・TCR,TMR等が一つの鉄道として結ばれると,韓半島・シベリア・中国,ひいては欧州までが一つの共同体になる国際規模の超大型の建設プロジェクトに発展する可能性が高いということである。
 特に,韓国と日本が海底トンネルで連結されると,韓国は東北アジア共同体構築において中心国家に浮上することになる。つまり,韓半島は地政学的に東北アジアの中心に位 置し,日韓海底トンネル建設を契機に日本を含めたロシアや中国の東北アジア経済統合,ひいてはアジア共同体構築においても有利な対場に立つことができる。
 日韓海底トンネルが建設されると,ロシアや中国の資源・労働力が韓国や日本の技術・資本と結合し易くなり,東北アジア圏に巨大な地域共同体を構築できるようになる。このほかにトンネル建設を契機に,アジア・欧州・米国といった世界の三大経済圏のうち二つが結ばれ,韓半島の地理的な利点や外交・政治的な力量 が発揮されると,韓国は東北アジア共同体構築において主導的な位 置を占めるようになる。

2)東北アジア情勢の安定と南北統一の促進
 日韓海底トンネル建設は単純な交通手段の拡充のほかに,東北アジア情勢の安定化と韓半島の外交・政治的力量 と位置づけを強化する機会になると考えられる。すなわち,既存の南北・日朝関係を画期的に改善させ,東北アジアに平和と繁栄をもたらし,ひいては韓国国民の念願である統一を早めることが出来るかもしれない。
 特に,日韓海底トンネル建設と共にTKRが北朝鮮内陸を通過すると,北朝鮮は現段階では予想もできない膨大な線路使用料や通 過料という収入・外貨を獲得することになる。すなわち,北朝鮮はTSR・TCRの連携地点として物流基地に位 置づけられ,経済が復興し,その結果,南北統一に掛かる膨大な費用を軽減する効果 が期待できる。 また,韓半島縦断鉄道が北朝鮮内陸を通過することは北朝鮮の開放と,韓国と北朝鮮の間の物理的な障壁の撤廃,そして南北統一の実現可能性の向上を意味する。
 現在,北朝鮮の核開発問題の解決に向け米国・日本・中国・ロシア・北朝鮮・韓国等による「六カ国協議」の再開のために議論しているが,北朝鮮の開放時期を予測することは非常に困難なものである。しかし,日韓海底トンネル建設の問題はこのような政治状況とは別 の次元で推進する必要がある。なぜなら,韓国と日本の間で海底トンネル建設が本格的に議論されると,韓半島周辺の東北アジア近隣諸国の間では経済的な利害関係のため経済統合の必要性に対する認識が広がり,北朝鮮の開放が先決課題であると考えるようになるからである。言い換えれば,日韓海底トンネル建設は東北アジアの政治・経済的な利害関係に変化をもたらし,利害当事国はさまざまな形で外交チャンネルを動員して北朝鮮の開放を促すだろう。

(2)経済的期待効果

1)韓半島の東北アジア物流における拠点化
 韓国が東北アジア物流ハブ国家になるためには,先ず近隣諸国である日本や中国,北朝鮮やロシア等を結ぶ交通 インフラを構築しなければならない。地理的な観点から見ると日本以外の国は陸上交通 網で結べるが,日本の陸上交通との断絶は東北アジアの経済統合の大きな障害要因になるからである。
 韓国と日本が海底トンネルで結ばれることは両国の長い歴史の中で行われてきた人的・物的交流や協力に一線を描く一大事件であり,最大の物理的な障害が取り除かれることを意味する。東北アジアの場合,信頼性の高い効率的な域内輸送システムが不十分なため,それが外国人投資や交易拡大等の足かせとなっているが,日韓海底トンネルが建設されれば従来の東北アジア輸送システムを画期的に改善することになる。
 日韓海底トンネル建設で韓国側の享受する経済的な利益より日本側の方が大きいという意見も多々あるが,地政学的な位 置,物流費用上の優位,通過・中継地点としての価値,釜山・光陽港のハブ機能の強化,学習効果 と後発走者としてのメリット等という韓国側の利益は容易に予想できる。特に釜山広域圏が東北アジア物流ハブとして急成長する可能性が高いと言えよう。
日韓海底トンネル建設は現政権の東北アジアプロジェクトチームによる東北アジア物流ハブ建設に拍車を掛け,韓国が今後名実共に東北アジア物流ハブとして浮上する可能性を高めている。

2)日韓FTAの補完及び交流の活性化
 1993年 EU発足,1994年NAFTA締結,1995年 WTO出帆で明らかであるように,世界経済は自由貿易と地域主義が大きな流れになっている。このような観点から見ると日韓間の経済統合は西欧の地域化の流れに対応すると共に,中国やロシアを含む新しい東北アジア経済共同体構築においても重要な役割を果 たすことになる。
 韓国と日本の間でFTAが締結されれば,人々の生活や企業の経営,国家経済に大きな影響と波長をもたらすだろうことは容易に想像できる。しかし,6回に亘る政府間交渉で締結できるかのように見えたが,現在FTA議論は足踏みの状態に陥っている。それは農水産物開放や非関税障壁等経済論理だけでは解決できない現実的な問題が存在しているからである。
 日韓FTAの締結は世界のGDPの17%に当たる経済ブロックが誕生することを意味し,従来の日韓関係にも大変革をもたらすことになる。しかし,日韓間の複雑な歴史問題によりいまだ相互信頼関係が形成できず,日韓FTA交渉はもとより,日韓海底トンネル建設に対する議論さえも国民の抵抗にぶつかるかも知れない。
しかしそれにも関わらず,日韓両国はFTAによる単純な意味での経済統合から脱皮し,両国の国家利益を最大化し,東北アジア地域でイニシアティブを取るブロックになるためには葛藤関係の解消と共に地理的近接性を確保しなければならない。英国とフランスは1993年11月のEU発足に合わせ,各々の利害関係を乗り越え,1994年5月にユーロ・トンネルを建設して地理的障害要因を解決し,欧州大陸における真の地域統合に貢献したが,日韓両国もこのことに注目すべきである。

3)国内の建設景気のテコ入れと国土の均衡発展の促進
 日韓海底トンネル建設という大規模な国家プロジェクトは,現在建設景気の沈滞で苦境に立たされている国内の建設業界に活力をもたらし,日本との共同プロジェクトを推進することで,日本の先進土木技術を身につける等多くの効果 が期待される。
 基本的に海底開発は自然環境破壊の懸念や土地の高騰や不動産への投機等の問題が比較的少ないと言われている。特に,日韓海底トンネル建設のような巨大土木工事は,産業の前後方連係効果 や投資収益も大きいため,雇用拡大と共に落ち込んでいる国内景気をテコ入れする公共事業的な効果 が期待できる。
 韓国の場合,前政権に続いて現在の李明博政権においても所謂「韓国版ニューディール政策」により景気を浮揚しようと努めているが,日韓海底トンネルは新しい建設需要の創出にも有効な政策手段になり得る。特に,最短距離である釜山あるいは巨済島を結ぶ海底トンネルは,国土の均衡開発と大型建設ブームによる景気浮揚策とも関連性が高いので,巨済島を釜山の広域開発圏に含めることは東北アジア物流ハブを発展させ,南海岸を水産や観光の中心地として開発する契機にもなる。
 具体的な議論を行う段階ではないが,実際韓国の巨済島と日本の対馬や九州地方を繋ぐ大工事が早急に推進されると,不動産投機のない国土均衡開発ができ,投資収益の高,国策事業として建設景気を浮揚し,失業解消や産業の前後方連係効果 等により不況気味にある韓国や日本経済の抜本的な回復にも役立つと期待される。

3.日韓両国の対応姿勢と解決課題
 日韓海底トンネルによる期待効果は,当事国である韓国と日本の政治・経済的な側面 はもとより,社会・文化等の多角的な観点から指摘できる。また日韓海底トンネル建設は,単なる二国間の利害関係にとどまらず,東北アジア次元での政治,経済共同体議論の起曝剤の役割をするはずである。究極的にはユーラシア次元の経済協力および共同体形成にも寄与することによって,世界平和と人類福祉の増大にも貢献する契機にも成りうる。
 にもかかわらず,日韓両国を含む東北アジア3カ国は,近年,経済的依存関係が進んでいるが,政治・経済統合の共同体形成の議論は極めて振るわない状態にある。その理由はさまざまであるが,東北アジア構成国が置かれている特殊な状況,すなわち歴史的対立関係と政治的イデオロギー,経済規模および水準の差,葛藤と不信による否定的な国民的感情などが一役かっている。何よりも,日韓海底トンネル建設の当事国である韓国と日本の両国は,互いにより積極的な姿勢で建設の実現に向けて努力しなければならないが,ここでは次のように,その課題と解決方向を示すとことができよう。

(1)建設に対する両国政府の姿勢
 1990年代以降盧泰愚大統領や金大中大統領,盧武鉉大統領等は韓半島及び周辺の情勢変化を踏まえて日韓海底トンネル建設の必要性に触れてきた。しかし,日韓両国の政府レベルで公に取り上げたこともなく,具体的な議論もなかった。ただこの問題について関心を持っている一部の学者の間で制限的な議論を行ってきただけと言えよう。
 まず,日本政府の場合,日韓海底トンネル建設に対して公の立場を示していない。しかし,日韓海底トンネル建設は日本人にとって単純な交通 手段の拡充という意味を超えるものがあり,大陸進出を夢見る島国の人々には本能を刺激するに十分な課題に違いない。
 日本の自民党は2003年3月に内部組織である「国づくりの夢実現検討委員会」により実施された約2千件に上る「国づくりの夢」公募アイディアの中で「日韓海底トンネル構想」を選択した。また2003年6月には自民党内の外交調査会が日韓海底トンネル構想に対して民間技術者と研究者を呼んで意見を聴く等,政界でも高い関心を示している。
 一方,韓国政府も日本政府と同様に日韓海底トンネル建設に対して政府レベルの公の立場は明らかにしていない。しかし,日韓海底トンネル建設は北朝鮮の開放を促し,南北関係の平和解決と統一を前倒しできるという期待感を持たせる問題になっているのも現状である。
日韓海底トンネル建設は両国の国家的利害関係が絡んでいるが,東北アジアを巡る情勢変化を受けて一変する可能性も秘めている。さらに韓国政府が積極的に推進している東北アジア物流ハブを実現する上で中核課題にもなれる。しかし,日本の歴史歪曲や領土紛争,北朝鮮の核開発疑惑や消極的な開放姿勢等は議論の具体化の足かせになっている。

(2)解決課題
 日韓海底トンネル建設は日韓FTA締結と共に従来の日韓関係を一変させ,東北アジアにおける韓国の位 置づけにも大きな変化をもたらすため,戦略的なレベルでアプローチしていくべき国家の超大型プロジェクトである。
 すなわち,日韓海底トンネル建設は両国の有史以来最大の国レベルの大工事であり,両国の人的・物的交流の歴史とその関係にも一線を描く大事件として記録されるだろう。建設を巡る議論が実を結ぶためには,両国は共に政治的利害関係や経済的利害損得,そして社会・文化的波及効果 等について綿密な検討を行う必要があるが,とりわけ両国民の相互理解に基づいた信頼関係を構築し,国民の合意にもとづいた土台を作らなければならない。
 日韓間の懸案に対する解決課題と方策について複雑かつ多難な両国の歴史から教訓を学ぶと共に,さまざまな観点からの指摘ができるが,本稿では両国の信頼関係の回復や日韓FTA締結,北朝鮮の開放という三つの解決課題を示しながら議論を展開していきたい。

1)両国国民の信頼回復と共感帯作り
 韓国社会の一部には日韓海底トンネルは植民地時代の「大東亜共栄圏」の復活を意味し「韓国側より日本側に経済的利益が大きい」という否定的な見解も存在している。韓国国民の日本に対する不信と否定的な認識の相当な部分は,日本の一部の右寄りの政治家と右翼団体の歪んだ歴史認識や不適切な言行,そして過去に対する不十分な自己反省や歴史清算等に起因している。
しかし20世紀末,冷戦体制は崩壊し,世界経済もグローバル化と共に自由な競争体制に再編され,21世紀にはIT革命による情報化の急進展やボーダレス化,地域化等というパラダイムが深化しつつ,隣接諸国間の密接な関係構築や維持もいまや選択の問題から国家生存の問題に変わっている。すなわち,21世紀に入って新たに世界秩序や国際経済秩序が再編されているので,隣接諸国間とより密接な関係維持を図っていかなければならない。そのため韓国も歴史に対する被害者的な考え方を捨て去り,新しい国際秩序の変化に積極的に対応する努力を傾けるべきである。
 もちろん,従来からの日韓関係では想像できないほど大きな変化を予告しているこの両国の大型建設プロジェクトを成し遂げるためには,まず両国国民の相互理解と信頼関係を構築すると共に,その必要性についても両国国民が共感すべきである。しかし,長い交流の歴史にも関わらず,韓国と日本の間には「近くて遠い国」という認識が依然残っているのが現状である。
 そのため日本は過去の歴史に対する正しい認識や信頼回復に向け努力し,その経済力に見合った役割を果 たさねばならない。つまり,日本も自らアジア諸国の一員であることを直視すると共に,韓国を含めた東北アジア諸国の反日感情を解消しようとする前向きな姿勢が求められる。

2) 日韓FTAの成功的な締結
 日韓海底トンネル問題はFTA交渉で難航しているさまざまな課題を解決する補完的な機能も持っているため,経済のほか政策的論理で日韓間の懸案問題を解決する有効な手段にもなり得る。
現在,日韓FTA締結のための交渉から両国の信頼と協力関係構築における日本の立場と態度を検証することができるし,その結果 は未来志向的な日韓関係構築の試金石となるだろう。すなわち,日韓海底トンネル建設問題やFTA交渉に対する議論の際は,相互信頼と協力の姿勢が求められ,また日韓両国の相互利益を最大化するWIN-WIN戦略を踏まえた議論を行うべきである。決して時間を気にして妥結を急いではいけない国家の重大事である。
 従って,日韓両国では現在足踏みの状態に陥っているFTA交渉と海底トンネル建設問題を具体化し,国家リスクを分散・補完しようとするより戦略的な考え方が必要である。さらに日韓FTAの成功的な締結は東北アジアの地域統合の可能性を図ることでもあるので,日韓両国は共存共栄の認識によりFTA締結を未来志向的なパートナーシップ関係を築く契機にすべきである。

3)北朝鮮の開放とTKRの早急な開通
 前述したように,日韓海底トンネル建設は韓国側には単純な交通 手段以上の意味を持ち, 北朝鮮の開放は東北アジアはもとより,EU経済圏との交通 ・物流・政治・経済等の統合関係を構築する前提条件になる。北朝鮮の開放によるTKR開通 は日韓海底トンネルを含めてユーラシア鉄道網構築の議論の起爆剤になる。
 最近ロシアはシベリア横断鉄道の活性化に積極的に乗り出しているが,これも日韓海底トンネル構想に対する関心を高める背景になっている。このような視点から見ると日韓海底トンネルは,韓国と日本が結ばれることより,大陸と日本が結ばれることにより大きな意味を見出すべきである。
 しかし,北朝鮮の開放はその体制と表裏関係にあり,経済的な観点より政治的な理屈が複雑に絡んでいるため,開放時期を予測することは難しいのが現状である。東北アジアの情勢好転に伴い,北朝鮮の開放時期が早まる可能性もあり,京義線や京元線等の復元や,韓国側鉄道との連結事業等も情勢変化を受けて急進展する可能性もある。
 一方,韓半島を横断する南北鉄道やシベリア横断鉄道が活性化されないと,日韓海底トンネル建設による東北アジア複合物流ネットワーク構築は限界にぶつかり,その効果 も限定的にならざるを得ないという主張も出ている。しかしそれにも関わらず,日韓海底トンネル建設は北朝鮮の開放とは関係なく推進すべきである。建設に向けた議論が具体的かつ本格的に行われると,東北アジアの政治体制や経済上の利害関係等に対する環境変化は北朝鮮の開放を速める促進剤になるかも知れないということは前述で既に触れている。

むすび
 東北アジアは地理的条件において経済統合および共同体形成に有利な条件を揃えているにもかかわらず,政治および制度的に多くの制約条件を持った特異な地域といえる。近年,東北アジアの主要構成国である韓国・中国・日本3カ国間の交易と投資規模が大きく拡大したが,相互協力のための多方面 の議論と研究があるにもかかわらず,経済共同体形成のための国家次元における具体的進展がないのが現実である。
 東北アジアの経済統合と経済共同体形成の議論が弾力性をもつためには,東北アジアを取り巻く政治,政治的利害関係と理念的葛藤の解消,経済的な協力関係と国民的合意と信頼関係などによる共通 の価値と主体性(アイデンティティ)を共有しなければならない。しかし周知の通 り,東北アジアの複雑な歴史的背景と国家間の利害関係は,東北アジア地域内の山積した懸案解決の制約要因になっている。
 特に,東北アジアの経済統合において,地理的近接性の確保は重要な解決課題の中のひとつである。東北アジア構成国の地理的断絶性を解消するには,北朝鮮の早急な開放と日韓間の陸上交通 網の確保が前提となる。特に日韓海底トンネル建設問題は,東北アジアの統合交通 網と複合物流網構築において避けられない手段になっており,これは日韓間の関係だけでなく東北アジア経済共同体の形成においても重要な要素になっている。
 韓国と日本の間の海底トンネル建設は,日韓両国においてチャンスとリスクが同居するので, その具体的な議論に先立ち,まず両国は複雑な歴史的背景と共に政治・経済的利害関係と国民的な共感を構築する努力が必要だ。しかし最近の日韓関係は「韓流」ブームに見るように民間次元の活発な交流があるにもかかわらず,政治・外交など国家間の関係においては決して望ましい方向に展開しておらず,日本はもちろん韓国国民の海底トンネルに対する関心と理解においても好意的な反応を見出せないのが現実だ。
 日韓両国は,今こそ対立と葛藤による相互不信の歴史的残滓を果 敢に清算し,海底トンネル建設をより積極的に議論し,東北アジアの実質的意味の経済統合と共存共栄で地域共同体構築に寄与する方法を積極的に模索しなければならない。特に先の世紀に韓国を数十年間にわたり植民統治の下に置き加害国の立場にいる日本が,徹底した自己反省と共に政治的リーダーシップを発揮し,韓国との海底トンネル建設を契機として根深い不信関係を清算し,未来指向的な善隣友好関係の構築に新しく乗り出すならば,日韓関係はもちろん東北アジア地域の安定と共同体形成に肯定的な影響を及ぼすことになるはずだ。
 先に論述した通り,英仏を結ぶユーロ・トンネルの場合,約200余年にわたる技術的な観点からの検討作業と共に,両国の経済・文化・宗教・理念的葛藤の要素などの障害要因を果 敢に克服し,EU共同体の歴史的スタートに寄与した事実は昨今の日韓関係において示唆する点が大きいといえる。

(2009年12月5日〜7日,日本で開催された「第21回統一思想国際シンポジウム」において発表された論文を整理して掲載)

(「世界平和研究」2010年2月冬季号より)