日韓トンネル計画への期待とその課題

Expectations and Challenges in the Japan-Korea Tunnel Project

李慶憙(韓国・釜山外国語大学名誉教授)
Kyung-hee Lee

 

<梗概>
 日韓トンネル構想が発表されて30年余りの歳月が流れているが,その進捗状況ははかばかしくない。しかし,日韓トンネルが完成すれば人とモノの交流がさらに活発化し,日韓関係がより密接化することは明らかである。短期的な利益にのみ目を向けるのではなく,将来の展望を見据えることが国益にも資することを理解し,その立場からこの問題に対処していくことが重要である。またこのプロジェクトの推進に当たっては,米国のバックアップが歴史的にみても不可欠な要素である。

1.日韓トンネルの開発効果
 日韓トンネル構想が発表されてから約30年の歳月が流れたが,まず日韓トンネルの開発効果について考えてみたい。
 第一に,平和実現に向けた一歩となることである。かつて日本でも,関門トンネル(海底トンネル,1958年開通)ができて九州が本州とつながり,九州が「島」でなくなり本州と一体化して交流がさらに活発化した。それと同様に,日韓トンネルができると日本は極東の「島国」から韓半島,大陸につながる国となり,それらの国々との交流がなお一層活発化して相互理解が深まると共に,その結果として平和実現に向けて一歩前進すると思う。
 第二に,文化的交流のさらなる活発化を促すことである。韓流ブームに乗って日韓の交流はさかんだが,日韓トンネルの実現によってそれが堅固なものとなる。米国とカナダの間では,両国人の往来に際して短期間の場合はパスポートの携帯が不要で政府発行の身分証明書の提示のみで往来ができたために,経済的・文化的一体圏形成に役立った(注:07年にテロ問題・移民問題の余波で米国政府はパスポートの携帯を義務付けた)。日本と韓国は現在短期訪問についてはノービザとなったが,それがパスポート携帯も不要となれば,往来がさらに自由活発化することは明らかだ。
 第三に,経済的交流の効果は大きなものがある。現在日本と韓国間の物流は,船舶と飛行機によっているので,輸送コストの問題がつきまとう。しかし,トンネルができるとそうしたコスト負担の問題が削減される面(リスク回避)が出てくるので,今まで以上に物流を促進させることになる。またトンネル建設が始まると,土木工事に関連した新たな雇用創出にもつながると思う。
 かつて,韓国・釜山市の地下鉄を建設するときに,一部海岸沿いの地下部分の工事で,水がしみ出てくる問題が発生した。そのとき青函トンネルの経験や工事技術を活かした技術協力を,日本側に要請して地下鉄を完成させたことがあった。
 第四に,経済の中でも,とくに観光面での経済・文化的効果は顕著である。現在,来日する韓国人観光客が年間約300万人,韓国に行く日本人観光客が同250万人である。これは飛行機と船舶による移動であるが,トンネル開通によって自動車(鉄道)での移動が加われば,人の行き来はさらに増えると予想される。とくに韓国人は自動車で旅行するのが好きなので,トンネルを利用して多くの人が日本にやってくるだろう。
 もちろん飛行機による人の移動が減少することもあるだろうが,それ以上に人の行き来は総数として増えることは間違いないし,自動車・鉄道関連の産業や雇用が生まれることによって,全体としてみれば経済効果はプラスとみられる。
 韓国人の対馬観光に対して,最近日本ではそれを憂慮するような新聞記事が出ていたが,地元の人にしてみれば日本人観光客よりもたくさんの韓国人観光客がきてくれて経済的効果につながっていることは確かである。日本人観光客だけでは島の観光は成り立たないような状況もあるといわれる。
 一般の観光に加えて,修学旅行などの日韓の相互往来も今まで以上に容易になるので,その増加も予想される。またビジネス・仕事面でも,西日本の人たちは一日経済圏に韓国が入るので,そうした面での往来もさかんになる。
 交通インフラの整備・進展に伴ない,北朝鮮経由で中国につながる幹線も経済的利益を狙って整備されていくので,そうなると北朝鮮の開放につながるとともに,中国からの観光客が日本にやってくることが見込まれる。今でも日本で多額の買い物をしてくれる中国人観光客に恩恵を蒙っていることを考えれば,それ以上のことが起きてくるだろう。

2.課題
(1)名称について
 現在,「日韓(韓日)トンネル」と言っているが,私は「青海トンネル」(Blue Sea Tunnel)という名称を提案する。私が釜山から博多・下関に向うフェリーに乗って海を見ると,実に美しい青色の海に感動した。東海/日本海の名称にしてもそうだ。いまは一つの海に二つの名前をつけて争う時期ではない。この海の青さが美しいように,「青海」とするのがいいと思っている。
 この海で漁業で生活する人にとっては,国境線があってもあまり関係ない。そこに国境警備艇がいれば問題になるが,漁民同士の場合は国境線を少しぐらい越えても和気藹々とやっている。彼らにとっては国境線はあまり意味がないし,まして魚などの生物は国境線に関係なく全く自由に行き来している。国が関わると問題になるだけだ。
(2)環「青海」交流
 日韓トンネルというと,韓国と九州ばかりの話になりがちだが,山陰地方から,北陸,東北地方などもっと広範囲な地域と韓国との交流を活発化させていくことも考えていいだろう。大きな視点からダイナミックな動きとしてとらえながら,日韓トンネルを見つめることも重要だ。
 例えば,韓国人は温泉が非常に好きで,別府温泉など九州の温泉地は韓国人観光客がたくさんきている。韓国では九州の温泉はさかんに宣伝されているが,山陰地方や北陸などの温泉地はあまり宣伝されていない。しかし,韓国とそれらの地域がフェリーなどで結ばれれば,韓国からの観光客がもっと増えるだろう。例えば,最近,韓国ドラマ「アイリス」の撮影地として秋田県の温泉が韓国人観光客の人気スポットとなっている。日本はもっと広報する努力が必要だろう。
(3)日本側の課題
 日韓トンネルについては,両国ともにプラスの面とマイナスの面があることは確かだが,目前の利益ばかりにこだわらずに,もっと長い目で見て欲しいと思う。次のような事例があった。
 現在,韓国で高速鉄道(KTX,2004年運転開始)が走っているが,その開始に当たって日本の新幹線技術の導入について交渉が進められた。結果的に,フランスTGVの技術を導入するようになったわけだが,その交渉にあたって日本は,10年後の技術移転を最後まで拒否し,その後も日本がコントロールすることにこだわったために交渉が決裂した経緯があった。その結果,高速鉄道の実現が10年も遅れてしまった。もし日本の新幹線技術が韓国に導入されていたら,韓国から北朝鮮を経て,北京など中国への高速鉄道の基本技術が日本の技術を基本にするようになっていたはずだ。しかし,目の前の利益ばかりを考えて将来を見据えた視点がなかったために,今となっては東アジアの交通網整備に当たっての技術上の障害要因ともなっている。当時私も日本の鉄道関係者にこの点を提言し相当主張したのであったが,耳を傾けてもらえなかった。残念なことである。
(4)米国のバックアップと中国の協力
 東アジア共同体構想については,米国は共同体から排除されるのではないかと乗り気ではないし,かえって反対している面もある。しかし,日韓トンネルについては米国はむしろ賛成している。
 六カ国協議に見られるように,北朝鮮の背後に中国・ロシアがあり,韓国の背後には米国・日本があるという構図になっていて,それらが角逐しているために,平和交渉がなかなか進まないという状況にある。米国にとって,韓国・日本がしっかりと連携することは,自国の利益にもかなうためにその方向に向けて関与することには前向きだ。
 戦後日本はサンフランシスコ平和条約(署名1951年,発効1952年)を締結することによって国際社会に復帰したわけだが,その後日韓の国交正常化(1965年)まで10年以上の歳月がかかった。その間交渉が難航したわけだが,最終的には米国が日本を強く後押しすることで正常化交渉がうまくまとまることができた。
 このような歴史的な経験をみると,米国が日韓トンネル実現に向けても強くバックアップすることで,日本が最後の一歩を踏み出すことができるように思う。
 現在米国は,大国化した中国との交渉が大きな外交課題となっているが,その前段階の体制固めとして日韓の一体化を促進させる一つとして日韓トンネルを位置づけることだ。その延長線上に,米朝国交正常化なども進めていけばよい。
 北朝鮮開放の道は,まずは人的な交流を活発化させることによって,北朝鮮を外に向けて門戸開放させていけば,北朝鮮の人々も自由民主主義の価値がわかっていくだろう。現在は閉鎖された状態なのでそれは難しい。例えば,白頭山観光を開放させて,中国経由ではなく北朝鮮経由の観光コースを開発させる。そうすることが門戸開放への一歩につながる。
政治学では,民衆があまりにも貧困な状態では何も起こらないという。北朝鮮は貧困状態にあるので,いくら体制内の改革を期待しても難しい。何らかの政治的な変化が起こるような程度にまで,少なくとも生活のレベルを高めてあげる必要がある。それが周辺国家としてなすべきことではないかと思う。李明博大統領は,天安艦事件で南北が対決状態になっても,人道的援助は続けると述べたが,それはそのような意味だと思う。
これからは韓国を中心として,米・日・中・ロが現在よりもっと経済援助と協力をすればよい方向にいくと思う。

3.今後の展開と期待
 これまで関係者が中心となり1980年代より専門家を集めた「日韓トンネル研究会」を立ち上げ具体的な研究を進めてきた。しかし,なかなか日本でこの運動が進まないのには,やはり国民運動としての展開が不足しているためではないかと思う。韓国側の熱意と比べると日本の国民的な動きがまだまだ低調だ。
 日韓トンネルによる経済効果は,「韓国の方が大きい」と日本人の中には穿って見る人がいるようだが,観光その他での人の往来を考えてみると,むしろ韓国人の方がたくさん日本に来ると思われるので,日本にも相当の経済効果があるだろう。韓国人は日本人と比べると観光でお金を惜しみなく使う傾向があることも大きい。
 韓国では,すでに釜山から巨済島までの海底トンネルの工事が進められており,今年12月には完成する予定だ。また,中韓国交正常化の前年,91年1月に私は国交正常化調査団のメンバーに選ばれて訪中したことがあった。そのとき私は日韓トンネル構想を知っていたので,外務部の人に対して,北朝鮮の黄海道雄珍と中国の山東省成山の間にトンネルを作ってはどうかと提案してみた。すると政府担当者は「それはいいアイディアですね」と乗り気であったのを覚えている。
 ユーロトンネルの経緯に見られるように,最終的には日韓の両政府の合意を得て,具体的な動きへと弾みがついて進んでいくわけだが,それを促進させていくためにも,国民的な広報,宣伝活動が必要であろう。
 とくに九州や中国地方などで,地方自治体,地方議員に向けて日韓トンネルの意義や開発効果についてもっと広報していくことが重要だ。西日本は,雇用創出を始め,観光客誘致,観光関連事業の開発など,日韓トンネルのさまざまな直接的効果を地域振興策としても利用できる。各界のトップに理解してもらうことはもちろんだが,さらにはさまざまな民間団体とも協力しながら国民運動として広範囲な展開していくことが大切だ。現在の日本は閉塞感が支配するような雰囲気であるが,もっと大きなビジョンを示して希望を与えるようなことを多くに国民に知らせていってほしい。

(「世界平和研究」2010年夏季号No.186より)