ベーリング海峡トンネル・プロジェクトとその可能性

The Fast Track to World Peace

クレイグ・バローズ(半球間ベーリング海峡トンネル鉄道グループ理事)
Craig Burroughs

 

 いよいよベーリング海峡の下をくぐり,アラスカとシベリアの広大な極北の大地を横切って,高速鉄道を走らせる時が来た。それは徐々に見えつつある地球鉄道網の鍵となり,その鉄道網は世界の経済発展を平準化するのに必須なものだ。
人々は大釘(おおくぎ),それも黄金の釘を思いっきり打ち叩いた。叩き損じれば,きっちり打つまで再び叩いてから,次の来賓にハンマーを渡した。その日は1869年5月10日,場所は人里離れた,今では米国ユタ州のプロモントリ・ポイントと呼ばれるところだ。しかし大西洋から太平洋に続く大陸を初めて貫いた鉄道の,最後の大釘を打ち込んだ式典は,北米の西側に持続的で大規模な定住地をもたらし,今日まで続く合衆国の経済的活況の始まりを画する偉大なイベントだった。
 その16年後,大陸横断鉄道がカナダまで開通して間もなく,カナダは後戻りのない発展の一途を辿ることになる。鉄道建設こそ,効率的で生産的な国家経済に不可欠であることを歴史は物語っている。ところが地球上の鉄道が普遍的だとは,とても言い難い。ひとつの大陸で全ての国が鉄道網で結ばれているのは,北米と欧州だけだ。しかも,その鉄道網が単一の軌間(ゲージ,左右レールの頭部内面間の最短距離)で出来ているのは,北米大陸のみだ。この軌間は一般に「標準軌」と呼ばれ,線路間隔が4.85フィート(1.435m)だ。旧ソ連の国々と,スペイン,アイルランドを走る鉄道の軌間は,西欧諸国のほとんどが採用している標準軌より広いものだ。
 一方,アジア,アフリカ,南米では,一貫した鉄道システムが開発されたことがなく,各大陸で三種類以上の軌間が使われている。鉄道を統合しようという試みは,軌間の違いだけでなく,もっと根本的な政治的対立,地理的障壁などに直面してきた。その結果,広大な地域の鉄道網は不連続のままだ。低開発と鉄道の不連続性には,高い相関関係があるのも偶然ではないようだ。
 好むと好まざるとに関わらず,人類が保有するテクノロジーのおかげで,世界は統合の運命に向かっている。デジタル電子技術がアイデア拡散を迅速にし,航空輸送は人の移動を促進している。その相乗効果で,相互依存の世界が急速に広がっている反面,世界の随所で経済発展の格差が途方もなく広がっている。
 社会開発の均衡を保つために必須の国際貿易は,船舶や鉄道,トラックなど,地表・海上移動に依存している。中でも,重量貨物の長距離輸送には,トラックより鉄道が断然効率的で,沿海部から遠い内陸の広大な地域に運ぶ手段として重宝されている。従って世界に残っている鉄道の不連続部分を短縮していくことは,経済開発のバランスを保つために重要なことだ。不連続部分を縮めれば交易のチャンスを高め,鉄道なしでは難しい資源開発の可能性を開き,外国旅行を促進し,新規雇用を創出し,人々の理解と協力を推進するだろう。
 地球上の鉄道地図を眺めてみれば,最も広範囲で重要な不連続部分が横たわっているのは,北米とアジアの二大陸間であることが分かる。つまり世界で一番裕福な消費市場と,面積も人口も最大で資源の豊富な大陸が鉄路で結ばれていないのだ。
 地質学者によれば,最新の氷河期に,氷が陸地に集まって海面が下がった時,北米とアジアの二大陸は,現在の海底山脈を伝う形で陸続きになっていた。また人類学の定説では,一万年から一万五千年前に北米に住み始めた人達は,その狭い地峡を伝ってアジアから移動してきたらしい。
 今日,二大陸は季節によって氷に覆われるベーリング海峡で離れているものの,海峡の幅はせいぜい87kmだ。世界で最も広大な陸地同士を繋ぐため,ベーリング海峡の下にトンネルを通すことは技術的に可能だ。実現すれば,世界で最も重要な陸上交易ルートを開くことになる。トンネルを通し,アジア・北米に現在稼働している鉄道網に接続する鉄道を建設することで,新たな資源開発の可能性を開き,数百万人に相当な報酬の見込める雇用を生み出し,増加し続ける世界人口の生活水準を支えることになろう。

資源の宝庫シベリヤとアラスカを結ぶ
 アジアと北米を結ぶ,というアイデアは目新しいものではない。19世紀末のロシアで,シベリア横断鉄道が建設された時に俎上に載ったし,米国でも百年以上前に真面目に検討されたことがある。当時,シベリア横断鉄道と北米の鉄道網を連絡させるトンネル・鉄道建設の目的で,「アラスカ・シベリア横断鉄道会社」という民間会社が,ニュージャージー州に設立された。当時でも,鉄道用トンネル技術は高く,このアイデアは実現可能に見えた。南欧でアルプス越えのトンネルが数本完成していたせいでもある。
 当時のお金で600万ドルの資金が民間から調達され,1905年には予備調査が実施された。その結論として,ベーリング海峡鉄道・トンネル・プロジェクトの総予算を3億ドルと見積った。ニューヨーク・タイムズ紙(1905.10.24)は社説で,「ベーリング海峡トンネルは,将来のある時点で,明確な目的を持って熟慮されるべきプロジェクトだ」と評した。しかし同プロジェクトは,その後,立ち往生してしまう。最大の理由は政治的なもので,こうした巨大な国際的インフラ計画に不可欠な,関係諸国の全面協力を得られなかったことだ。
 ソ連時代の74年間は,米ソ間の熾烈なイデオロギー闘争のせいで,両国を直接結ぶ鉄道という構想が,現実性を帯びることは全くなかった。1991年にソ連邦が解体し,米ロ関係が雪解けを迎え,世界一の経済大国と,世界最大級の広い国土と豊かな資源を持つ国が政治・経済協力をする上での障害は,あまり見あたらなくなった。
 むしろ米国が1867年にロシアからアラスカを買収して以来,今日ほど両国が協調すべき時はないと言って良い。ロシアはシベリア東・北部で,無尽蔵と言われる天然資源を開発したいし,米国はそれら資源の多くを受容できる市場だ。さらにベーリング海峡を鉄道で結べば,シベリア南部の鉄道開発に拍車をかけ,シベリアの資源を成長著しいアジアの南に送ることが可能になる。
 北米はエネルギーや天然資源の最大の消費市場であり,高水準の生産と消費を維持するためには,信頼性があり経済的な新しい資源供給先を求めている。シベリアは開発可能な貴金属・鉱物とエネルギー資源を保有している。この地域にはロシアの水力発電能力の70%があり,中東の確認埋蔵量を小さく見せるほどの原油・天然ガスが埋蔵している。ロシアのエネルギー資源は,中東の主要供給国と比べて,中国,日本,韓国はもとより米国にも格段に近い位置にある。この事実だけ見ても,ベーリング海峡トンネル・鉄道プロジェクトは十分に妥当なものだと言えよう。
 またアラスカには,未開発で到達不能な資源の宝庫が,想定される鉄道の沿線か,その周辺に点在する。カナダの北西地方やユーコン地方にも,金属と炭化水素の巨大な鉱床のほか,貴重な木材・水資源がある。アラスカ北西部には,一カ所の埋蔵量としては世界最大で,しかも高品質の石炭が埋まっていて,その量は四兆トンという,とてつもないものだ。これはアラスカの石油会社ノーススロープ社が日量150万バーレルの石油を生産をすると,実にその二万二千年分に相当する。
 アラスカまで鉄道がつながれば,米国南西部の渇水地域に膨大な水を供給してくれる。加えて,この49番目の州(=アラスカ州)は,銅,鉄鉱石,鉛,モリブデン,マグネシウムその他の金属・非金属や,希少な地下資源を保有している。しかし処理施設や消費拠点が鉄道で連絡されない限り,それらを開発するのは難しい。
 これらの資源開発に,ベーリング海峡を越える陸上輸送が何故不可欠なのか,疑問に思う向きもあろう。大陸間を結ぶまでもなく,それぞれの大陸でインフラを整備し,貴重な資源に手を伸ばせないのだろうか。それにベーリング海峡と言えば,地球で最も辺境の,人を寄せ付けない場所ではないか。
 こうした疑問は,メルカトル図法の世界地図を見慣れて育った大概の人にとっては妥当なものだ。メルカトル図法では,シカゴと北京の間の直線は,サンフランシスコの少し北を通る。しかし実際,世界は三次元の球体だから,いわゆる大圏効果で,シカゴと北京の最短距離はベーリング海峡を直行する。だからシカゴのオハラ空港から東京やソウル,北京への直行便は,ベーリング海峡上空を飛ぶ。ニューヨークからこれらの到着地に向かう飛行機も,同海峡の北を通過する。こう見れば,同海峡は辺鄙どころではない。両大陸の主要市場を結ぶ最短の陸上輸送路を選定しようとすれば,これ以上相応しい地点は思いつかないほどだ。 
とは言え,ベーリング海峡が気象条件の面で,一年を通じ人を寄せ付けない厳しいものであることは事実だ。この問題は,海峡の最狭地点に,三本のトンネルを並行して走らせることで回避できよう。トンネル周囲の温度は,常に摂氏約六度なのだ。
 現在の船舶輸送パターンから帰納しても,ベーリング海峡が二大陸間を走る大圏の弧の一番上で,「要石」の位置にあることは明らかだ。中国製品が北京からシカゴまで運搬される距離は,それぞれの大陸の陸上輸送と,最短の海上航路を合わせると9000マイルを超える。米国の入港地次第で,この距離はさらに長くなる。だがベーリング海峡からの連絡鉄道が中国にまで至れば,貨物の搬送距離は7500マイルに短縮される。
 距離の短縮に加え,海上輸送より速い鉄道輸送のメリット,それに中国と米国の港での積み上げ・積み下ろしの二度手間が省けることを考慮すれば,ベーリング海峡経由のルートは,北米とアジアの輸送業者に,新たな競争力を賦与してくれるはずだ。輸送業者は様々なコスト削減が期待できるはずだ。移動にかかる在庫負担が圧縮できること,海上輸送に伴う港湾での作業・手続きがなくなれば,製品劣化による損失,破損,収縮や,不心得な連中によるピンハネを減らせる。輸送書類手続きや税関検査の簡素化,天候の影響や港の混雑,怠業など,予測不能な事態で遅延する可能性が大幅に減る。

ベーリング海峡トンネルの夢
 ベーリング海峡トンネルの夢を呼び戻したのは,チェコ生まれの米国人ジョージ・コウマルだ。1986年にコウマルはアラスカ州知事に書簡を送り,ノーススロープ油田の枯渇に備え,長期的な経済成長の機会を提供してくれるものとして,ベーリング海峡の下を通ってアジアと結ぶ鉄道を提案した。(同油田は当時もそうだったが,今後数年間はアラスカの主要収入源だろう。)
 コウマルは四つの大陸で,鉱山開発とトンネル工事の経験があったが,書簡の中で,北米とアジアをつなぐ鉄道が,アラスカ経済の長期的な将来を開くと書いた。そして,この鉄道リンクのおかげで,アラスカ州では石油以外の資源開発に弾みが付くばかりか,世界で一番往来が活発になる可能性のある交易ルート上で,アラスカは重要な繋ぎ役になるだろうと指摘した。
 ベーリング海峡輸送網の実現に向けた長い道のりのステップとして,コウマルはアラスカを含む米国各州,カナダ,ロシアの夢追い人達と一緒に,「半球間ベーリング海峡トンネル鉄道グループ(IBSTRG)」を,アラスカの非営利団体として設立した。その狙いは,北米とアジアを結ぶ陸上交通の利点を研究し,一般向けに普及・啓蒙することだった。そのためにIBSTRGは,モスクワやフェアバンクス,ワシントンDCで数日間のセミナーを開いたり,アンカレッジやニューヨーク,ソウルで開かれた平和や経済開発に関する国際会議に出席した。
 ベーリング海峡トンネル・プロジェクトを強く支持する人の中には,アラスカ州のフランク・ムルコウスキー知事や,同州知事を二期務め,内相経験者でもあり,現在はアンカレッジの有力実業家であるウォルター・ヒッケル氏も含まれる。
 目新しいところでは,世界平和・協力を積極的に推進する数々の国際組織の創始者として著名な文鮮明師が,ベーリング海峡架橋トンネルの強力な支援者になった。
 同師の提唱で2005年9月に米国で創設された天宙平和連合(UPF)は,平和に尽力する世界的宗教指導者,政府高官や,大陸の良心を代表する人々で構成され,急成長している団体だ。このUPFの優先課題のひとつが,コウマルの提案であり文鮮明師の夢でもあるベーリング海峡架橋・トンネルの実現だ。両人ともベーリング海峡を結ぶことが世界平和の鍵だと見ている。このビジョンは他にも,世界の貧困解決のために,富を創造する広範かつ協力的なインフラ計画が必要だ,と認識している未来志向の知識人達が共有している。

実現可能な夢
 ベーリング海峡横断に関する技術面の予備調査とコスト予測は,非常に希望的な内容だ。海峡の下にトンネルを掘るアイデアの方が,地表に巨大な橋梁構造物を作るという,全く未知の要素が多いデザインより,利点が多いのは明らかだ。
 ベーリング海峡大橋プロジェクトについて,最近,米国のケーブル放送のひとつ「ディスカバリー・チャンネル」が,一時間番組を放送した。同番組では鉄道だけでなく,自動車やトラック交通も想定した橋梁デザインが紹介されていた。しかし土木専門家の多くは,この考え方そのものが実際的でなく,建築・保守のコストばかりか,北極の気象条件に起因する人的犠牲も大きいとして消極的だ。しかも地表の横断は環境に優しいとは言い難い。大陸間を結ぶ鉄道と並行して,永久凍土層のツンドラの中を,舗装した高速道路が走ることは,砕石花崗岩の上に鉄路を敷設するのと比べて,極北の繊細な環境に,はるかに重大な影響を及ぼすだろう。
 海峡に高速道路用の橋を建設することが,仮に経済的に妥当だとしても,その橋は半年以上も利用不能だろう。しかも橋と連絡道路網について,例えば安全管理,緊急救助,燃料供給,保守施設,補助的な税関検査などのために公共支出を必要とする。鉄道の場合は,管理されたアクセスしか許さない性格上,税関検査などは不要だ。そもそも鉄道はハイウェイよりも,単位当りの建設コストも環境破壊のリスクも低いのに,年間を通した輸送能力は大きく,燃費も安く抑えられる。
 想定される鉄道は,一時間当たり一万トンの貨車を四両通過させることになっている。これと同じ積載量をトラックで運搬するには,一時間当たり1600台の車両が必要で,それは2.25秒に一台のトラックが通過するのに匹敵する。これらのトラックが平均時速50マイルで走行し,一ガロン当たり25マイルの燃費だとすれば,一時間に16000ガロンの燃料消費になる。これは同等の条件で走るディーゼル機関車の30倍以上の燃料消費を意味し,ベーリング海峡鉄道に予定される電気機関車の,少なくとも百倍の燃料消費に相当する。
 鉄道にカーフェリー用列車を走らせれば,車の利用者はエネルギー消費も環境への負担をかけることもなしに,アジアと北米の高速道路網を往復できる。高速道路の連絡路を建設・運営することに伴う安全問題とも無縁だ。

予想されるコスト
 IBSTRGはすでに,ベーリング海峡最寄りの鉄道起点ヤクーツクから,北米の鉄道地図で最北西に位置するフォートネルソン(英領コロンビア州)までの4800マイルに鉄道敷設するコストの試算を終えている。それによれば,平均15マイル間隔に側線を設け,単軌の電気化鉄道を建設するコスト約120億ドルと見積っている。
 トンネル建設の初期段階の費用は,一リニア・フィート当たりのトンネル掘削費を18000ドルと仮定すれば,合計で150億ドルになる。なおベーリング海峡横断のこの段階では,日付変更線の米国側に位置する小ディオメド島と,ロシア側の大ディオメド島が五マイルほどの間隔で,海峡中央に浮かんでいる事実を生かしている。この二つの島は,トンネルが地表に現われるのに好都合な中間点を提供しているのだ。
 大陸間の鉄道輸送を最低限可能にするものとして当初構想されたのは,直径9mの管理,保守,空調用のトンネルが一本と,鉄道線路用に直径13mのトンネル一本だ。そして二つの島を結ぶ別の鉄道用トンネルを作り,二本目の本格的な鉄道用トンネルが開通するまで,トンネルシステムの中間点で操車作業ができるようにする。この工夫のおかげで,予定される二本目の鉄道用トンネルが全面稼動するかなり前から,実質的な収入を挙げられるようになるだろう。
 ベーリング海峡の地質に関する事前アセスメントによれば,トンネルを掘ることになる海底山脈は,主に堅い花崗岩の山塊でできており,その200マイル以内には,断層線や火山活動が見られない。こうした特徴が,トンネルの最終的な技術設計の前に要求される詳細な地質調査で確認されれば,第一期のトンネル工事は,掘削開始から三年以内に完了できるかもしれない。
 この推定の前提は,四基のシールド工法トンネル掘削機(TBM)を,一本のトンネルに同時に投入して,二基は両大陸から外に向かって掘り進み,あとの二基は海峡中央部の二つの島から,両大陸のそれぞれの海岸を目指して掘削する,TBMは一基当たり平均25m前進するものと仮定した。TBMによって取り除かれる花崗岩の砕石は,廃棄処分に困るどころか,新規の鉄道敷設に好ましい砂利資源として活用される。
 ベーリング海峡を経由する新たな交易ルートを使った輸送量が増加し,いっそうの輸送能力向上が望まれるようになれば,海峡の全長にわたって,複線の線路を敷設できる第三番目のトンネルを,約90億ドルの工費で建設可能だ。そのトンネルの全長4800マイルに本格的な鉄路を敷くには,約50億ドルを要する。北京,東京そして朝鮮半島までの距離を縮めるため,標準軌間の鉄路がロシアの東海岸を南下し,中国まで南に向かわせることになれば,追加で40〜50億ドルが必要になる。
 すでに大半の鉄道路線が標準軌間を採用しており,最終的には世界の鉄道網を結ぼうという目標からして,ベーリング海峡の鉄道は全て標準軌間を採用する。またロシアの軌間システムと乗り入れるため,長年の実績がある可変式軌道用ボギー(転向台車)のテクノロジー(体重免荷ホイールアセンブリ)を駆使し,これによって,ロシア国内に新たに導入された軌間変更用インタフェイスに起因する長時間の遅れを回避する。ロシアの必要条件に適合させるため,必要ならスプリットレール方式を採用し,標準軌間の列車と,ロシア式軌間の列車の両方式が利用できる複式軌間を建設することも可能だ。
 これらの予備試算で判明したのは,第三期が完了して標準軌間の鉄路が中国に達するまでに,最低410億ドルの工費を要することだ。工費以外に,向こう十年間で千両の機関車と,120両の編成用車両,5万台の貨物車両を備えるために,さらに50億ドルの経費が計上され,それ以外に,店舗や駅舎,管理施設などに10億ドルが必要だ。

公有地供与による資金捻出
 これほどの規模の多国籍インフラプロジェクトの場合,大きな問題は「どのように資金を捻出するか」である。十年間に総額470億ドルというのは,米国の国防予算の1%を毎年振り向けるだけで,米国史上,最も価値ある歳出になるかもしれないという話だ。しかし議会が,その「1%」を「国家平和予算」として充てるほど,未来志向だと期待するのは現実的ではない。
 にもかかわらず,ベーリング海峡横断によって,土地や天然資源の価値が飛躍的に上昇するはずの関係各政府が,重い税負担も大きなリスクも背負うことなく,資金拠出に関与できる現実的なシナリオもある。
 米国とカナダの両政府は,西部地帯の土地開発を奨励するため,新規鉄道の周辺に設定した通行権や土地区画を贈与した。こうした土地払下げ(公有地供与)は,北米の入植と工業化を進める方便となった。そのおかげで,贈与した不動産の価値の数倍の税収を生み,他の公有地の価値を引き上げ,貴重な資源へのアクセスを可能にする,といった効果が現れた。
 こうした可能性を考慮すれば,ベーリング海峡鉄道によって直接の利益が期待できる三カ国は,プロジェクト融資に民間資金を誘い込む一助として,緩やかな公有地供与計画に関与してくるかもしれない。これらの政府は,鉄道敷設が想定される広大な地帯に,公有地を所有している。新しい鉄道会社に土地を直接供与する代わり,政府は長期・低利の債券か,土地の時価を反映した証券の組み合わせを受け入れることも可能だ。
 こうした手続きによって,全ての当事者が恩恵を受けられるだろう。鉄道会社は資金集めの担保になる資産を取得でき,その資金を活用して資産価値をはるかに超える価値を生む。政府は19世紀の土地贈与と同じ手法で利益を得られるし,鉄道公債投資から生じる利子を稼げるだろう。
 全く別の資金集めも可能だ。それはベーリング海峡の鉄道を建設・操業するために設立する民間企業の手腕次第だ。鉄道が敷かれ,あらゆる装備が施されたルートについては,客と貨物を運ぶサービスを提供できる。そこで,この会社は建設資金調達のために,北米やアジアの鉄道会社に対して,大陸間鉄道ルートの,一日当たり一定数の汽車を通過させる操業権を販売できる。これによって,鉄道が稼動されてから急速に拡大が見こまれる国際貿易の事業者に,自由に競争させる機会を与えるだろう。
 各鉄道会社は日別操車予定表に,望む列車本数を予約するための一時金を支払い,その後,汽車を大陸間連絡路線に走らせる時に,追加的な料金をベーリング海峡運営会社に支払う。こうすることで,操業態勢が完了する前に資金集めが可能だし,全ての競争事業者は,新しく開かれた市場へのアクセスや,コストに関して公平に競うことが可能になる。
 建設工事が進捗中でも,数千人の好奇心旺盛で冒険好きな人々に,世界最大級で,おそらく最も重要なインフラプロジェクトを見せる周遊列車を走らせれば,追加の収入を得られる。鉄道建設の段階でも,他の収入源が可能だ。鉄道が完成する前に,その沿線で鉱山や採石処理場を開発し,後日,鉄道施設を使うことになれば,実質的な現金収入が生まれる。英領コロンビアからアラスカ中央部までの鉄道が完成し,アラスカ鉄道を北米の鉄道網に初めて直結させられれば,現在はシアトルから艀(はしけ)で運んでいる貨物の一部を転換し,これまでの荷主に新たな市場を提供できるだろう。
 鉄道の通行権も,鉄道完工前の収入源になりうる。石油,ガス,水のパイプラインや通信回線,電力ケーブルは,鉄道線路より随分早く敷設できるので,これらの付随的施設から得られる収入で,鉄道建設を進められる。通行権によって,マイクロウェーブやモバイル通信,さらに放送用送信タワー使用のための貸借料を得られる。全てを合わせれば,こうした収入源から,プロジェクト全体を完了するための,相当な現金収入を提供してくれるだろう。

最初のステップ
 ベーリング海峡の連絡鉄道を実現するには,まず,この種の大型プロジェクトが提起する様々の疑問や課題を研究することから始めなければならない。例えば経済的な採算性,環境への影響,社会学および地政学的な意味合いなどだ。もっと基礎的な内容としては,融資方法を考案し,ルート計画を煮詰め,技術的設計を練り上げ,資材調達を計画する。さらに想定される鉄道・トンネルの連絡に伴う地震学,地質学,水文学上の特性を綿密に調査し終えることも含まれる。
 別の重要な課題は,関係国間の国際協定を起草することだ。この協定はフランチャイズ権,土地収用権,不動産投資,労働法,税制,環境への配慮,建設許可,治安,関税慣行など,この事業の多岐にわたる側面に関して,望ましい協定内容をまとめなければならない。
 当初の計画では,こうした準備段階は三年以内に,約1500万ドルの費用を掛けて完了することになっている。その過程では,調査参加を希望している研究諸機関の貢献が期待される。準備段階が前向きな結果をもたらしてくれれば,プロジェクト全体の第一期工事を開始する態勢が整うだろう。
 その後の三年間に充分な資金繰りが得られると仮定すれば,アジアとアメリカの両大陸が結ばれたことを記念する,今ひとつの黄金の大釘を打ち込む式典が,早ければ2012年の,ひょっとすると5月10日に,ベーリング海峡の中間,海面下約250フィートのトンネルの中で行われるかもしれない。 
 米国の学校では,歴史の授業に1869年5月10日という日付と,大陸横断鉄道の最後の大釘を打ち込んだ出来事が,数百万人の子供達の心に刻みこまれている。あの最後の大釘と鉄道開通は,ひとつの国民が深いところで一体化したことを物語るものだった。同じように,大陸間を結ぶベーリング海峡横断鉄道に最後の大釘が打ち込まれるイベントは,世界の統一という希望に向けた,強力なメッセージになるに違いない。それは世界中の学童たちが記憶すべき出来事になるはずだ。

(World & I 誌2006年3-4月号より,「世界平和研究」No.170掲載)