新日韓連帯の象徴としての日韓トンネル・プロジェクト

Tunnel Project as an Emerging Symbol of Solidarity Between Japan and Korea

李元徳(韓国・国民大学教授)
Won-deok Lee

 

 <梗概>
 日韓トンネル構想は,具体的な発案以来30年近くの歳月が経過する中で,近年日韓両政府の間で合意した「日韓新時代共同研究プロジェクト」の最終報告書でも言及され,世間の関心を集めつつある。この日韓トンネル構想は,短期的な経済的効果を期待する以上に,日韓両国が過去の歴史問題を克服して新しい日韓連帯の道を開く未来ビジョン型のプロジェクトとして意義あるものと思われる。

 日韓海底トンネル論議において,最初に考慮すべきことは,日韓トンネル推進が政治的プロジェクトかつ国家戦略的選択の問題であるという視点から出発しなければならないという点である。トンネルを効果的に推進するためには,技術的妥当性,安全性,経済的収益性,資本調達の効率性などの要素について厳密に検討することが必要不可欠な内容であることは,言うまでもないことであるが,日韓トンネル・プロジェクトは,基本的に「政治的プロジェクト」という性格を帯びていることを決して看過することはできない。

政治的プロジェクト
 日韓トンネルを推進するためには,日韓両国においてある程度の国民的な合意の獲得が何よりも先行しなければならない。このような基盤の上において,政治的リーダーシップの役割が核心的なカギになる。日韓トンネルは,長期的な観点において日韓両国の生存と繁栄を追求するための戦略的選択の問題であり,したがって,トンネル問題は韓国と日本のリーダーが,国家戦略的な次元において勇断を下すことによって初めて推進の突破口を開くことが可能だ。
 日韓トンネル推進には,重大な政治的障害要因がある。このような障害要因の克服こそ,トンネル推進に最も重要な課題であると考えられる。まず,日韓トンネル推進の最大の政治的障害要因としては,日韓間に横たわる歴史問題,独島(竹島)をめぐる摩擦と対立が挙げられる。
 日本の歴史教科書問題,靖国神社参拝,日本の政治指導者による妄言,従軍慰安婦への補償問題,独島領有権問題などは,両国関係の良好な発展を決定的に阻害している「岩礁」のような存在であるといえる。1990年代以降,歴史問題と独島領有権問題は,それ以前と比べて,頻度や深度がより増大しているようにさえ見える。
 一旦,歴史問題や独島問題が発生すると,韓国民の対日感情悪化により,事実上日本との友好協力的プロジェクトに関して,言及することすら難しいような雰囲気が造成されるために,日韓トンネルに関する論議はタブー視されるのは当然かもしれない。
 しかし日韓関係に存在する歴史問題や独島問題は,特段の措置や短期的な次元の政策で解決される性質の問題ではないということも事実である。すなわち,歴史問題や独島問題の根源には,日韓両国の国民間に存在する歴史認識および領土認識の根本的な乖離が根深く存在しているために,これを一気に解決することはかなり難しいことと言わざるを得ないからである。
 この問題の短期的解決が難しいならば,次善の策として考えうることは,「管理」であろう。すなわち,歴史・領土紛争が両国間の外交問題として登場することを最小化するための努力を傾注する一方で,不可避的に歴史・領土紛争が外交的な葛藤の事案として現れた場合には,このような争点が日韓関係の全面的悪化へと拡大しないように意図的に努力することである。
 また,もう一つの政治的障害要因としては,日本の侵略主義・膨張主義的意図に対する残像が韓国人の対日認識の中に依然として残っている点である。日韓トンネル建設プロジェクトを,過去の日本帝国主義の大陸進出の意図の再現と関連させて解釈する雰囲気が依然として国内の一部に存在する。ステレオタイプ化したこのような日本認識は,戦前の軍国主義体制と決別した戦後日本の民主主義と対外政策に対する正しい理解を阻んでいる。
 1990年代以降,日本社会において保守・右傾化傾向が強まっているにも関わらず,日本が再びアジア大陸に対する拡大を追求するとか,あるいは過去軍国主義路線に回帰する可能性はきわめて低い。戦後の占領政策を通して日本は,戦前の軍国主義体制を打破し政治的には自由民主主義,経済的には市場経済体制,社会的には多元主義をそれぞれ確立し,戦後日本の民主主義は,それなりの限界をもちながらも,しっかりと根を下ろしていると見ることができる。
 さらに現在の日米安保体制が維持される限り,日本が単独で軍事路線を追求する可能性はあまりないと言わざるを得ない。
 現実的には,中国の軍事・経済大国化という現実の中で,日本がアジア大陸に対する膨張主義的野望をもつということ自体が一種の幻想に過ぎない。したがって,日韓トンネルを日本の帝国主義的予防の延長線上において把握しようとする一部の認識は,客観的とは言えず,また現実的でないと思う。

21世紀の日韓関係のビジョンからのアプローチ
 このような障害要因を克服し日韓トンネルを推進するためには,21世紀の東アジア国際秩序のビジョンに対する客観的な理解と,それに基づく日韓関係の将来ビジョンの提示が求められている。
 21世紀の東アジア国際秩序は,基本的に米中両大国を中心とする構図で急速度に再編されつつあるとの事実を深く留意する必要がある。すなわち,21世紀の東アジア国際秩序は,金融危機以降相対的な力の低下の中でも超大国の地位を維持している米国と,急速に台頭しつつある中国という二つの主人公が舞台中央に立つという構図で展開している。
 2010年の統計によれば,GDP規模で中国が日本を追い抜き世界第二位となった。これは巨視的にみれば,中国が120年前,日清戦争(1894-95年)に敗北して以来,日本を再び超えるという象徴的な事件として記録されるだろう。世界史の観点からみると,19世紀後半と20世紀にまたがる150年の期間は,もしかすると「例外の時代」だったのかもしれない。
 この「例外の時代」である150年間に,中国は近代化に失敗し西欧列強に屈従を強要され,強大国としての地位を剥奪された反面,日本は20世紀の前半期には軍事大国として,その後半期は経済大国として威容を示した。しかし,経済史の統計によれば,中国は2000年の長い歴史の中で最近の150年間の「例外の時代」を除くと,大半の時代は世界の総生産の20〜25%を占める大国であった。
 19世紀以来日本は,国家戦略の核心概念として「脱亜入欧」を唱えてきたが,150年間の「例外の時代」の終末期に至り,アジア回帰を慎重に模索し始めた。2009年夏,日本において政権交代により民主党政権が誕生したことには,歴史的な意味があると思われる。
 民主党政権のアジア重視政策は,このような東アジア国際秩序の根本的な変化に適応しようという現実的路線転換と解釈することができるだろう。21世紀の日本は,深刻な財政赤字,成長ダイナミックスの喪失,高齢化と少子化に象徴される人口構造の変化の中で,国力の相対的な低下という深刻な悩みの只中にある。ある意味では,日本は「例外の時代」150年を経て本来の位置に戻りつつあるのかもしれない。
 このように急変する東アジア国際秩序のなかで,日韓関係の将来ビジョンは,両国の溝の深い歴史問題を創意的に克服し「大和解」を達成して,政治・経済・社会・文化などの各分野にわたる全面的な協力関係を模索することによって,共同繁栄(共栄)の道を追求するところからその答えを探し出すことができるだろう。
 日韓トンネルは,このような新日韓連帯論の象徴として位置づけることが可能である。第二次世界大戦後,米ソ冷戦時代のヨーロッパでは,フランスとドイツが戦争の歴史を清算するための和解の努力を通して欧州共同体建設にともに力を傾いだように,21世紀の韓国と日本が歴史的和解をなして緊密な協力体制を構築するならば,日韓両国のみならず東アジアを含む共同体形成の主人公になることができるだろう。

日韓トンネルは日韓新時代の開幕の象徴
 以上のように,日韓トンネルは日韓関係の共生共栄という新時代の開幕を告げるシンボルとして,ふさわしいプロジェクトとして位置づけることができると思う。日韓トンネルを共通プロジェクトとして推進するときに,そのプロセスにおいて経済・金融・労働・技術・文化など諸分野の交流・協力が画期的に増大し,その協力の範囲と質的な水準は想像を超えた形で進行するだろう。
 日韓トンネル推進過程で発生する日韓協力の相乗効果は,多くの分野において大きな波を起こし,新時代の共生共栄的日韓関係構築に核心的な滋養分となることだろう。
 日韓トンネルが完成すれば,日韓間の人的往来および文物の交流は画期的に増大し,事実上日韓の間には国境の意味がなくなり,経済的には一つのマーケットとして統合される結果をもたらすと期待される。日韓トンネル建設が,両国の合意によって着手されれば,これは日韓関係の歴史上,最初のビッグ協力プロジェクトとして記録されるに違いない。また,このようなプロジェクトの共同推進によって,日韓関係の発展にとてつもない相乗効果が創出されるだろうと期待される。
 日韓トンネルが,現実的に推進されるためには,その前提として日韓間の歴史的大和解のために日本の姿勢転換が先行すべきであり,それを土台に韓国の対日認識が根本的に転換されていくに違いない。
  また,日韓トンネルの経済的,技術的妥当性がどの程度立証されるかということ以上に,政治・経済・外交・安保的な効用の論理的な正当性を獲得する必要があり,このためにも21世紀の日韓関係の将来ビジョンが具体的に先行して提示されなければならない。さらに日韓トンネルの効果的な推進のためには,トンネル建設に対する両国の国民的合意の前提が必要であり,そのためには両国の政治的リーダーシップの役割が核心的要素となるだろう。

(韓国『統一世界』2010年10月号より整理して掲載,「世界平和研究」No.190,2011年8月)