韓国の少子化問題の現状とその対応策

韓国・忠清北道報恩郡守 鄭相赫

<梗概>
 韓国の合計特殊出生率は世界的にみても極めて低い基準にあり,近年政府および地方自治体が少子化対策に取り組んでいる。少子化関連の法律や制度の整備は進みつつあるものの,なかなか実効性のあるものには至っていない。今後は,人生のステージごとにあわせたきめ細かな政策が必要となっている。

1.少子化の現況と原因
(1)少子化の現況
 韓国の合計特殊出生率は,2005年に1.08で,統計を取り始めて以降最低水準を記録,その後2007年1.26,2008年1.19と,多少回復傾向が見られる。
 2009年ソウル市の研究結果によると,二番目の子女出産放棄如何が合計特殊出生率の決定因として重要であることがわかった。第一子は出産年齢が遅れても出産する反面,第二子は出産放棄につながるために,二番目の子女以上の出産誘導が合計特殊出生率を高めるのには有効である。
(2)少子化の原因
 少子化の原因として,養育費負担,家庭と職場の両立の困難,雇用情勢の不安定化,結婚観および子ども観の変化などが指摘されている(韓国保健社会研究院,2006)。
 以下,参考までにいくつかデータを示す。
・子ども一人当たり月平均養育費:乳児30.0万ウォン,幼児43.7万ウォン
・子ども養育の難点:保育費負担(57.7%),安心して任せるところがない(23%)
・女性の経済活動の参加増加:女性の雇用と所得が安定するほど出産水準が低下
夫の経済的地位:夫の雇用と所得が安定するほど出産水準が増加する傾向があり,出生率は世帯所得と関連する
生殖保健水準:晩婚化,高齢出産などによる不妊の増加
(3)展望
 韓国の少子化現象は,長期化する可能性が高いと予測される。向後5年間(2009〜2013年)は,合計特殊出生率が1.2前後の水準を維持する見通しである。しかし,効果的な少子化対策が行なわれた場合には,少子化は克服可能である。ちなみに,最近の調査によれば,理想的な子ども数を2人以上と考える比率が約90%を越えている(2009)。

2.韓国の少子化対策の現況と問題点
(1)少子化対策の現況
1)政府の対策
 2005年に「少子化・高齢化社会基本法」を制定し,これをもとに,2006年「第1次少子化・高齢化社会基本計画」(セロマジプラン2010)を策定した。2006〜2020年まで,5年毎に段階的な戦略的目標を設定して推進する。
 長期目標として,三大分野で70の移行課題と230の詳細事業を推進する。主要課題は,育児インフラの拡充などを通じた「出産・養育の社会的責任強化」,仕事と家庭の両立などに関する「家族親和的男女平等の社会文化造成」,そして児童を対象とする「未来世代の育成」である。
<セロマジプラン2010の段階別戦略目標>
第一次(2006〜2010):出産・養育に有利な環境造成及び高齢社会対応基盤構築
第二次(2011〜2015):出生率回復と高齢社会構成員の生活の質向上のための基盤構築
第三次(2016〜2020):OECD平均水準出生率回復と高齢社会の成功的適応
 その後,政府は追加補完策を発表(2008年12月8日)したが,新規事業は,低所得者層新婚夫婦住宅支援,結婚関連情報教育制,新生児集中治療室拡充,妊婦に対する出産前の診断費支援,保育施設未利用児童に対する養育費支援などで,補完事業としては,無償保育の拡大,脆弱層児童の総合サービス強化などである。
 2010年度基準で,少子化対応のため中央部署は80本,地方自治体は577本の政策課題をそれぞれ選定し,総額5兆8487億ウォンの予算を投入する予定である。
 <セロマジプラン2010>のうち,出産支援のための細部課題は,次の通り(「第1次少子化・高齢社会基本計画」2006より)。
○出産・養育に対する社会的責任の強化
?子どもの養育の負担軽減
・幼児保育・教育費支援を中産層まで拡大
・放課後学校拡大など個人負担教育費の負担軽減支援
・結婚及び多子女家庭の住宅安定支援
・養子児童養育支援推進
・児童手当制度導入の検討
?質の高い多様な育児インフラ拡充
・保育施設・幼稚園など育児支援施設の拡充及び多様化
・民間育児支援施設のサービス改善
?妊娠・出産に対する健康管理体系の整備
・母性及び育児健康管理の体系化
・不妊夫婦支援及び低所得者層産婦へのサポート派遣
○家族親和的男女平等の社会文化造成
?仕事と家庭の両立環境造成
・産前・産後休暇給与など支援拡大
・育児休暇支援強化
出産・育児以後労働市場復帰支援
・家族親和的職場文化の改善
?学校・社会教育の強化及び家族文化の造成
男女平等・家族親和的文化の造成のための教育強化
親密で平等な家族生活文化の造成
?健全な未来世代の育成
・児童・青少年の安全な成長環境造成
・児童・青少年の健全成長のための社会的支援システム確立

2)地方自治体の対策
 2007年度合計特殊出生率は平均1.26。広域地方自治体では全羅南道が1.53,基礎地方自治体では全羅南道宝城郡が2.33で,それぞれ最高値を示す。出生率の低い地域は,釜山市中区,ソウル市江南,釜山市西区などである。出生率の高い理由としては,多文化家庭(国際結婚)の出産増,低い理由としては,都市部の女性の晩婚化,出産回避現象などが挙げられる。
 広域地方自治体の中で妊娠可能な女性の比率の高い4都市(ソウル,釜山,大邱,仁川)は,平均以下の出生率を記録したが,これは仕事・家庭の両立が難しい社会環境,高い住宅費用などにより都市地域の女性が結婚と出産を延期しているためと思われる。
 地方自治体が自主的に推進している低出産対策は,全体で87事業ある。この中で,最も多くの自治体で施行している事業は,出産祝賀金支援(11広域,149基礎自治体)である。また地方自治体の対策事業としては06年以降大幅に増加したが,主なものは多い順に,妊娠支援(29%),養育支援(24.9%),出産支援(23.6%),認識(結婚観,子ども観)改善(5.5%),結婚支援(3.1%)などである。
 そのほかには,栄養剤(鉄分剤)支給(132自治体),多子女家庭養育支援(97自治体),妊娠産前検査費支援(78自治体)があるが,そのほかに多子女家庭に発給して各種施設利用時,多様な割引恩典を提供する多子女優待カード(16広域自治体)もある。
 次に,地方自治体で施行事業中,優秀な例を紹介する。
○全羅北道井邑市
 農村未婚青年に対する結婚相談所の直営事業。専門担当の公務員を配置し,未婚男女の紹介,予備夫婦教室,合同結婚式,国際結婚支援及び事後管理などを行なっている。
○慶尚南道
 訪問式産婦人科:産婦人科へのアクセスが悪い郡部の妊婦に産前基本検査(5種),超音波検査,胎児奇形検査など,移動式産前診断サービスを提供(1人13回まで)。
 45人乗りバスを産婦人科診察室に改造し,超音波・心電図など産前診察に必要な医療装備を搭載し,医師など6人の医療陣が搭乗して予約された時間に郡部保健所を訪問する。
○江原道
 産前検査費支援:保健所に登録された高度危険妊婦に奇形児検査(1人当たり2万ウォン)及び超音波検査費(1人当たり3万ウォン,最大2回まで)を支援。
○全羅南道康津郡
 財政自立度が9.1%に過ぎない劣悪な財政状況にも拘らず,郡予算の18%を少子化対策関連事業に投入。出産準備金(妊娠10カ月目の妊婦に20万ウォンを支給),新生児養育費及び健康保険支援など現金支援と共に,妊婦の公共交通無料利用カード発行(月20回ずつ,10カ月間支援),出産祝賀金,公衆保健医を活用した勉強部屋運営などである。
○大邱市寿城区
 出産・育児用品無料貸与。搾乳器,歩行器,ベビーカー,体温計などを購入して申請者に貸与し,ベビーシッター教育及びその派遣窓口を運営。
○ソウル市,大邱市,光州市,大田市,京畿道,全羅北道
 多子女世帯の養育費支援:3人以上,就学前の児童に保育施設利用可否に関係なく(一部自治体は家庭内養育児童に限定)月5〜20万ウォンを支給。
○京畿道安山市
 多子女学資金支援:4人以上は高校生の学費,5人以上は大学入学金支援
 3人以上の家庭は上水道費の減免措置。
○大田市東区
 公共機関として初めて,区立保育施設を拡充し24時間体制で注文式保育サービスを提供。
 大規模国際化センターを設立して外国語教育を提供し,私教育費の負担軽減を図る。
○済州道西帰浦市
 女性障害者に出産奨励金100万ウォンを支給。
 予備夫婦及び新婚夫婦教育プログラムの運営。
 保育施設における幼児健康検診の実施。
 第3子妊婦に対して出産前後2カ月間,漢方薬・貼薬を支援。
 3人以上の子どもを持つ家庭には無料予防接種を実施。
○忠清北道報恩郡
 登録妊婦に15万ウォン相当の出産・育児用品支援(保健所)。
 保育施設児童おやつ費用の支援(郡から保育施設へ):1人当たり1日500ウォン。
 3人目以降の子どもに対して,新生児養育費支援(保健所):出産日の12カ月前に管内住人で3人以上出産者に毎月10万ウォンずつ24カ月間支給。
 女性公務員の産休業務補助人赴任(郡から邑・面へ):女性公務員対象に代替人材赴任支援
ソウル市江南区
 出産と教育に予算割当の優先順位をおき,出産,保育,教育を一つに連結。
 2番目の子どもから100万ウォンから最高3000万ウォンの出産奨励金を支援。
 2番目の子どもは保育費の50%,3番目の子どもは全額支援。
 12歳までに必要な予防接種8種22回がすべて無料。
 不妊夫婦には5回の体外受精手術費支援。
 出産政策は,「公教育1番地」と位置づけ,4小学校で午後9時まで子どもの世話をする「初等終日学校」を運営。
 江南区所内に所在する企業に督励:5000平方メートル以上の新築建造物には子ども保育施設と授乳施設が必須であり,そうでない場合は,建築を不許可とする措置。

(2)少子化対策の問題点
 少子化関連法律及び制度は整備されたものの,主要政策の実効性が乏しく,少子化克服効果は微弱だ。その原因には,総括的調整・統制機能を遂行する機構の不在,政策対象の優先順位と部署間類似事業の連携不足,限定された財源の非効率性,低所得者層中心の社会福祉的なアプローチで中産層が排除されていること,供給者中心の少子化対策で小規模事業場に勤務する非正規職女性勤労者が政策対象から排除されていることなどが挙げられる。
 保育サービスについては,支援対象が低所得者層に限定されていること,民間保育施設の増加にもかかわらず保育サービスの質が低いことなどの課題が指摘されている。なお,負担のない費用とサービスの質を保証する国公立保育施設は,全保育施設の5.5%に過ぎない(08年12月現在)。
 また,育児休暇制度については,利用率が非常に低く,養育費用の軽減のための普遍的な児童手当制度は不在となっている。

3.政策提言
政策別強化方案
1)保育サービス
 韓国では国公立保育施設が全保育施設の5.5%に過ぎない現状であり,フランスやスウェーデンでは大部分が国公立施設であることと対照的だ。その中で,国公立保育施設の拡充部門に対する予算は前年度比で21.1%減少(2008年218億ウォンから2009年172億ウォン)となっている。
 幼児保育・教育支援を低所得者層中心から全児童に拡大する普遍主義的アプローチに転換する必要がある。低所得者層中心の無償保育拡大以外にも,支援対象の所得基準を上方調整して対象範囲を拡大しなければならない。
 民間保育サービスの質的向上も重要課題だ。民間保育に対する支援強化,家庭内保育の制度化などを通じて保育サービス相互間の競争と消費者の選択権を保障することが重要である。
2)育児休暇制度
 育児休暇可能年齢を上方調整して,実質的な選択権を保障する。例えば,スウェーデンの育児休暇可能年齢は8歳,疾病看護休暇は12〜21歳だ。
 短時間勤労は,とくに公保育サービスなどが拡充されるまで仕事と家庭の両立に肯定的な効果をもたらすので,勤労時間短縮制の実効性を高める努力が必要だ。また,企業に対する税制支援強化,体系的な代替人員ネットワーク構築も願われている。
3)普遍的な児童手当制度の導入
 子どもの年齢は就学児童全般が含まれなければならず,支給額は子ども数と子ども年齢によって加算されなければならない。低所得多子女家庭(2人以上)に対する補充給与体系の整備も考慮する必要がある。
4)その他
 家族政策と労働市場政策の連携強化,企業の役割強化,放課後保育などを包括した未来世代育成支援強化などの追加的議論も必要だろう。

(2)政策の推進方向
1)低出産克服で国家の持続的成長を維持
 結婚・妊娠・出産・養育に対して社会全体で責任をもつことを強化すると共に,保育・教育体系の先進化と職場・家庭の調和をなす環境造成も必要である。
 子ども養育の負担軽減策として,妊娠・出産支援の拡大,保育・教育費支援拡大,私教育費負担の緩和,住宅安定支援,租税・社会保険の恩恵拡大と仕事・家庭両立支援のための公立保育などインフラ拡充,放課後学校支援強化,休暇・休職制度の活性化,勤労形態柔軟化,出産・育児後の労働市場復帰,家族親和的職場文化の造成などである。
2)少子化対策の実効性の向上
 主要政策の基本モデルを普遍的保育サービスと普遍的児童手当制度に設定する。保育サービスは,公立保育インフラの拡充,保育料支援対象範囲の拡大,民間保育支援強化などを実施しながら,民間保育サービスの質向上,家庭内保育などを制度化して保育サービスに対する恵沢権を保障する。
 児童手当制度は,親の所得に関係なく提供される普遍的児童手当制度を導入し,それに基づいて多子女家族低所得者層対象の拡充支給制度を推進する。育児休職制度は,休職給与を賃金保全が可能な水準に上方修正し,対象子ども年齢を拡大して実質的な利用率の拡大を図る。
 そのほかに,少子化の根本的な原因に対応するため,家族政策と労働政策間の連携強化など追加的措置も検討する必要があるだろう。

(3)政策提言
 地方自治体は,地域の需要に応じた注文式政策を推進するなど,政府と自治体間の役割分担が重要である。
1)出産用品提供及び保育料支援
・哺乳瓶,粉ミルク,おむつ,体温計,下着など出産用品提供,誕生記念通帳支給及び一定額の保育料支援
公共産後センター,産後センター補助員,出産家事ヘルパー活用:これらによって民間産後センターの高費用,衛生及び安全上の問題を解決する
2)医療費支援
不妊夫婦の検診及び医療費支援,産婦ヘルパー制の運営,健康検診の提供など
妊婦と幼児の健康管理のため,栄養教育と相談及び補充栄養食品の提供
必須予防接種の範囲拡大,予防接種の無償化
3)保育プログラムの拡充
国公立保育施設拡充及び民間保育施設評価認証
24時間制注文式保育サービスの提供
産業団地の勤労者のために,産業団地内の国公立保育施設の設置
育児総合情報システムの構築
職場における女性の出勤・退勤時間弾力勤務制
3歳未満の幼児のいる職員対象に15〜30時間の短縮勤務が可能な育児期勤労時間短縮制度の導入
専業主婦の家庭も利用することのできる国公立保育施設
退勤後,休日利用注文式保育施設
国公立保育施設需要を民間保育施設需要に回せるように,教師のローテーション,手足口病発病実態などの情報公開
幼稚園終日制拡大
養育費と個人負担教育費の軽減:放課後学校で地域ケーブル放送教育プログラムを活用する
児童虐待・学校暴力予防
多子女家庭支援:優待カード事業,給食費支援
4)低出産の最大原因である否定的な「子ども観」の解消
予備夫婦・新婚夫婦教育プログラムの運営
育児休暇男性割当制度と家庭で保育ができる家庭保育保母制度の導入

4.最後に
 韓国の出生率は度が過ぎるほどに低い水準で推移し,政府の少子化対策にもかかわらず出生率が持続的な低下傾向を示しており,画期的な政策の展開が必要である。少子化問題の深刻さと外国の成功事例を考慮するときに,結婚・妊娠・出産・養育,仕事・家庭の両立などについて,生涯周期を段階別に計画した少子化対策として果敢な政策決定と財政投資がいまこそ求められている。

(「世界平和研究」2010年秋季号No.187より)