トウモロコシをバイオ燃料に使用することの過ち

 スイスにある世界的な食品メーカーであるネスレのピーター・ブラベック会長(CEO)は,食用トウモロコシを生物燃料生産に使用することは,「全く気違いじみたこと」だと述べた。
 このようなきちがいじみたことの震源地は,米国のトウモロコシ・エタノール部門である。今年この分野は,自動車の燃料を生産するために,米国産トウモロコシ総量の40%を消費する予定だ。これは世界のトウモロコシ生産量のほぼ15%に相当し,世界の穀物生産量の5%に当たる。産生されるエネルギーは,世界の石油需要量の約0.6%に相当する。
 トウモロコシをエタノール部門に転用することは,経済的にまずい方法であるばかりか,安全保障面でも問題があると,2008年5月,ランド研究所は次のように警告した。「エタノール生産にトウモロコシを使用することは,経済的に非効率的であり,米国の安全保障にも悪影響を与える。トウモロコシ使用においてエタノール生産用に転用することで世界の穀物市場および他の食品価格を押し上げることになる。その結果,2008年多くの開発途上国で暴動が起きた」。
 最近,数週間にわたりわれわれは,食品価格の値上げと抗議デモを目撃したが,これは2008年の「食糧危機」を想起させるものだ。アルジェリアやモザンビークにおいて,食糧暴動が発生した。2011年2月には,約8000人のヨルダン国民が,各種食品価格の値上げに抗議してアンマンおよびその他の都市で街頭抗議デモを行なった。世界最大の小麦輸入国であるエジプトは,小麦価格が過去12カ月の間に30%も引き上げられた。
このような小麦の価格上昇に火をつけたのは,上がり続けるトウモロコシ価格である。トウモロコシ価格は,過去6カ月の間に倍に高騰した。米国オマハを拠点とする原資材コンサルタント会社であるアドバンスト・エコノミック・ソルーションズ社のビル・ラップ社長は,「トウモロコシ価格の上昇は,必ず小麦価格の上昇を意味する」と語った。

 米国の農業経済学者であるトーマス・エラムとスティーブ・メイヤーが実施した研究によれば,エタノール部門の需要がトウモロコシ価格の上昇を直接的に促しているとの事実が,昨年12月に判明した。
 しかし,実際の(さらに危険性を伴う可能性のある)食品価格の上昇は,米国以外の国で起こっている。2010年,OECDは世界の穀物価格が2020年までに最高40%上昇する可能性を予測した。またロンドンの非営利団体であるアクション・エイドは,生物燃料生産の増加によって2020年までに,約6億人が追加で飢餓状態に陥る可能性があると予測する。
 世界最大の食品メーカーであるネスレのブラベック会長が,バイオ燃料生産という「気違いじみたこと」に世界の関心を向けさせたのは正しい行動だ。毎年,食品関連輸入が1000億ドルにものぼるメーカーのCEOである同会長は,世界の食品産業事情についてよく知る人物だ。2011年2月にスイスで行なわれたダボス会議で同会長は,そのような「気違いじみたこと」に対して驚くほどに明確な解決策を指摘した。すなわち「食べるものを燃料として使ってはいけない」と。
 同会長の警告に耳を傾けるときがきた。いや,遅すぎた。「食べるものを燃料として使ってはいけない」という主張が,米国議会と国連において宗教儀式の「お題目」のように,繰り返し唱えられなければならない。

(ワシントンタイムズ論説より,2011年3月)