多文化主義が直面する課題

 欧州の指導者たちは,永い眠りから覚めて,政府が支援する多文化主義政策が,いまや自国の社会組織にとって「脅威」となるという事実を発見したようだ。そのような欧州での憂鬱な結論に接しながら,米国人も自国のアイデンティティに対するさまざまな潜在的脅威,および共通の価値観形成に教育制度が果たしうる建設的役割について反省すべき契機としなければならない。
 多くの善意の人々は,多文化主義について,多元主義と同義語として,あるいは多様な文化と言語に対する無垢の尊敬心であると依然考えている。しかし不幸にも,多文化主義は,移民の文化および信仰体系が要求する条件に合うように,西欧の価値観および制度を置き換えさせ,社会を変化させる愚弄なイデオロギーとしてかなり頻繁に使用されている。リベラルな学者たちは,多文化主義というブランドを推奨するだけではなく,さらに宣伝しようとさえしている。

 多文化主義の過激さが引き起こす「危うさ」を無視することは,西欧社会にとって危険なことである。英国のデビッド・ケメロン首相は,「多文化主義は失敗した」と宣言する中で,国家を敵勢力であると公言する分離主義団体に対して,財政支援を中断する極めて合理的な初めての措置を講じた。
 フランスのサルコジ大統領は,ケメロン首相よりももっと強い語調で,移民は国家共同体と同化すべきだと主張し,「われわれは,やってくる人々(移民)のアイデンティティに関しては十分すぎるほど関心を傾けてきたが,彼らを受け入れる側の国家(フランス)のアイデンティティに関心を傾けることを怠ってきた」と述べた。
 人口学の観点からは,多文化主義に関するまた違った側面からの警鐘が提起される。フランスは,欧州内でムスリム人口集中度が最も高く,他の国々より一歩先んじている。すなわち,フランスのムスリムは総人口の約10%をも占める。イスラームは,フランスにおいていまや第二番目の宗教勢力となった。
 英国は国内に自生したテロによってその標的となったにも拘らず,ムスリム人口の割合が欧州において最も低い国の一つで,約3%に過ぎない。しかしボストン大学のピーター・スケリー教授は,次のように指摘する。「デトロイト,ニューヨーク,シカゴ,ロサンゼルスのような特定の大都市においてムスリムは,規模が大きく目に付くマイノリティ集団となっている」。

 しかしムスリムの人口増と存在感にだけ焦点を当てて見ていては,他の重要な問題を見逃すことになる。すなわち,多様な信仰と民族的背景を持つ移民を,共通の文化と言語の中に統合しようとするさまざまなしくみや施策が十分機能していないことである。歴史的に公立学校は,移民を言語的・文化的に国家の中に統合させることに最も大きく寄与してきた制度である。もし政府のしくみや施策が,文化的統合への努力をおろそかにして移民のアイデンティティ保護にのみ関心を向けていれば,米国も現在欧州の主要国家が直面する多文化主義的混乱に陥るかもしれないのである。

(米国「ワシントン・タイムズ」社説2011年4月,by Bob Holland=レキシントン研究所政策アナリスト)