シリア反政府軍の蛮行―宗教的少数派に対する虐殺

 米国がシリアのアサド政権を転覆させるために,中東のイスラーム・スンナ派国家群シリアのスンナ派反政府勢力に同調して以来,1年余りが経過した。米国は,シリア国民のためだとの名文を掲げてその目標を追求しているが,究極的な戦略目的は,中東におけるシーア派イランの最も重要な同盟国であるシリアを無力化し,イランが中東において覇権を掌握できないようにすることにある。
 その目的を達成するために米国は,経済制裁,シリア反政府勢力に対する政治的支持,自由シリア軍および他のスンナ派武装勢力に対する武器支援を行なっている。サウジアラビア,カタール,トルコを通じて武器が供給されている。これらの米国同盟国は,すべて民主制度的には相当な欠陥をも持っており,特に宗教および少数民族の人権分野においては非民主的といわざるを得ない。

アッラーの名で少数派宗教を迫害

 国家が解体されるプロセスにおいて,シリアでは殺人,追放,破壊行為が急激に増えている。シリアの政権交代に対する米国の積極的な支持が一つの契機となって,いくつかの政治勢力が権力掌握および影響力拡大のために無政府状態における競争に突入した。一方,隣接国家やアルカイダのようなテロ集団も,崩壊状態にあるシリアにおいて勢力確保(拡大)にやっきになっている。
 ペネッタ米国防長官の言葉を借りれば,シリア内戦は「急速に統制を失いつつある状況」に変化している。シリアが徐々に混乱状態に陥っていく間に,米国務省は政府軍の 残虐行為を積極的に宣伝し非難した。しかしシリア反政府軍も,またアサド政権に劣らず自国民の生命と自由を無視している。とくにシリア人口の約25%を占めるキリスト教徒および非スンナ派イスラーム教徒を弾圧している。
 人権監視団体とキリスト教関係者は,反政府勢力による拉致,拷問,追放,殺人,「人間の盾」利用の事例を報告している。こうした犯罪は,しばしば「神は偉大だ」あるいは「不信者たちに死を!」,あるいは,他のイスラーム聖典から引用したスローガンの下に行なわれているのだ。
 2011年春の反乱発生以前から,反乱軍内部ではスンナ派優越主義が主導権を握った。反政府群衆集会において,「キリスト教徒はベイルートへ行け」「アラウィ派は墓へ」などのスローガンがすでに登場していた。スンナ派が異端と見なしているアラウィ派は,アサド大統領をはじめとするシリア政権層が信仰する宗派である。
 シリアのイスラーム反軍は,1年もしないうちに,ヒムシュ(ホムス)市のキリスト教徒の90%を追い出し,200人余りを人質として捕らえているといわれる。国連事務総長の大規模虐殺防止担当補佐官は,シリアの「悪化する派閥間の葛藤で残酷な犯罪が,追加的に発生する可能性が高い」と2012年7月末に警告した。
 オバマ大統領は,アラブの民衆蜂起に関して2011年5月の演説で,「米国が行使し得るあらゆる外交的,経済的,戦略手段を動員して」宗教の自由を含む中東の「普遍的権利」を保護すると約束した。米国は滞ることなくこの約束をグ敵に名政策として実現しなければならない。

残酷な犯罪の犠牲をなくす特段の対策が必要

 オバマ大統領は,シリアの反軍および外部支援勢力,とくにサウジアラビア・カタール・トルコの少数派の権利と宗教の自由,宗教的に中立なシリア政府を支持し,あらゆる形態の宗教的優越主義を非難するように要求する必要がある。
 またオバマ政権は,「シリアにおいて追加的な残酷な犯罪の危険性にさらされている住民の保護のために,即刻に断固たる措置を」取るべきだとの,国連の訴えに応じて,滞りなく政策を明確に示さなければならない。
 米国は,シーア派イランの中東地域における覇権掌握を防ぐために,スンナ派イスラーム勢力圏を作ろうとするプロセスにおいて,シリアの宗教的少数派を犠牲にしてはならない。
 米国と同盟国が,宗教的少数派の人権を保障することに失敗すれば,シリアの少数派たちが保護を受けるためにアサド政権とともに密着する可能性があり,そうなるとシリアの内戦が長期化してさらに拡大していくことだろう。

(2012年8月「ワシントンタイムズ」より,著者:米国キリスト教連帯CEO ジョン・アイブナー)