セウォル号事件からみた韓国社会の自画像

 韓国が一つの「国家」であることを疑う人は一人もいないだろう。しかし韓国社会を実質的に動かしている力は国家権力,すなわち,国家の公権力や公権力体系ではなく,社会の各レベルにおける非公式的に構成された家族(氏族/宗族/擬似家族)がリードする「ファミリー社会」だと言える。いわゆる「家(族)国(家)」である。「家国」の性格が強ければ強いほど,国家は内紛と葛藤に巻き込まれ無法と不法の天地となってしまう。
 近代になると「家族国家」=「家国」の意味は,否定的意味が濃厚だ。利益集団として構成された組織,極言すれば,暴力組織社会もここに属するためである。韓国社会ほど国家に対する信頼と忠誠度が落ちた国はない。最近のセウォル号事件以降の一連の事態を見ると,「烏合の衆の集合所」のようだ。
 その理由の根本を探って見ると,歴史的に権力エリートたちが国民のために働くのではなく,私利私欲に眼がくらんで苛斂誅求を事とするばかりか,外国の侵略から国民を保護することもできなかったためだ。植民地統治時代のつらい経験と分断という傷は今でも癒されず,「民族的トラウマ」として残っている。

体制否定を正義の実現と錯覚

 旧韓末,南北分断,6.25動乱(韓国戦争,1950年)を通してみると,韓民族は国家を営むのに足る民族になってはいないとの疑問があるかも知れない。国民一人ひとりは賢いのだが,不思議なことに集団となると内紛に陥り合理的に国家を維持することができず混乱に陥り外部からの侵略を自ら呼び込んでいるというのだ。「平和愛好民族」あるいは「平和主義者」という言葉は,歴史的な“慰め”である。
 外部からの侵略があれば少なくともこれを防ぐ軍事力と(その他の)力を備えていなければ地球上の国家の一員として生きていく資格はない。ある一時期,韓国にも「備えあれば憂いなし」の(政治を行った)統治者もいたが,「民主化」とともに結局は経済信託統治というIMF事態を招いてしまった(1997年)。IMF事態はまさに民主主義運動をリードしてきた中心人物たちの間の葛藤と争いに起因したものだった。
 IMF事態を解決する過程において国家財産は粉々になり,堅実な企業と銀行の株式は半分ほどが外国人の手に渡ってしまった。これによって韓国経済は対外依存度がさらに高まった。IMF事態が「災い転じて福と成す」となったとの主張もあるが,現在,グローバル企業と言われるサムスン,LG,ポスコ,主要銀行などは,収益の半分は外国投資者の手に渡らなければならない状況だ。
 これらの企業は韓国企業ではあるが,それは錯覚に過ぎず,その利益と雇用は韓国のものとは言えない。IMF事態は正に韓国民主主義の虚構と理念的な西欧の物まねをあらわにした事件だった。しかし今なおその意味を知らずにいるのが韓国なのだ。現在の韓国経済の各指標は問題ないようだが,貧困層と青年層の失業率が高いのはこのためなのである。ひょっとすると韓国の発展とは,「(中身のない)殻」に過ぎないものだったかもしれない。
 われわれはIMF事態について明らかに反省しなかった。それは今度のセウォル号事件で再び明らかになった。韓国が先進国に飛翔するのに際しての弱みは,まさに韓国人の「中身のない民主主義」,理念的な西欧従属だった。「統一論議」を取りあげてみても,民族主体的な側面には言及したことがない。六者協議は,南北統一に対する周辺強大国の干渉を自ら招き入れてしまったのであり,4大国保障論などは,本当に極めて事大主義的・植民地主義的で,浅薄な「奴隷論」の発想に近い。
 韓国人ほど,自分の国家体制や権力体系に対して不信,抵抗する国はない。体制否定や抵抗をすることをまるで正義を実現することにように考える運動圏(左翼)のリーダーが多いのは,これを如実に表している。IMF事態以降,セウォル号事件に至るまで,さまざまな国家的災難があったが,それは「家(族)国(家)的韓国」がマフィア社会となる危険に直面していることを警告している。
 農業社会の時代の家族主義や専制主義は弊害があったが,人情と共同体精神によって社会をリードしながら社会をまとめていく中間層としての準機能的な役割を果たした。ところで急速に進行した産業化と資本主義化の中の家族主義は,私利私欲や集団利己主義,不正腐敗の温床となった。現在,韓国の「家国」的性格は,国家解体の危険を呼びつつある。性急な地方自治による地方自治体の海外債務の増加と地方議会の政治的浪費は国民の血税を使い尽くしている。

暴力組織のような集団利己主義国家の脅威

 韓国は今日世界10大経済大国の隊列に加わったと言われる。それはこの間,韓国人が一生懸命働いたお陰ではあるが,国際情勢も韓国に有利に展開した面は否定できない。しかし韓国は,高度成長の影の部分が社会のさまざまなところに「病弊」となって現れつつある。世界10大経済大国の隊列の中で豊かに暮らしつつあるが,「幸福指数」は100位圏にとどまっている。自殺率と離婚率が世界一の国でもある。北朝鮮の核とミサイルに囲まれている。いまだ南北は「休戦中」でありながら,「安全不感症」に陥っている。民族主義や民主主義を仮装した「民衆主義」,体制否定論の思考としっかりと噛み合った「独善主義」,民族や国家を飛び越えた「世界主義」「普遍主義」は,韓国という国をふらふらにさせるのに十分だ。
 米国の裏通りの中小店舗での暗闘を描いた映画「ゴッドファーザー」は,有名なイタリアのシチリア系マフィアを描いた映画である。この映画には,「ファミリー」という言葉が頻繁に登場する。暴力団の映画が人々の関心を引いたのは,その中に家族主義という哲学が潜在していたためであったと思う。しかし「ゴッドファーザー」のファミリーは,国家という観点から見ると清算しなければならない暴力組織の権力だ。
 万が一,国家がこのような「家国」に分裂したとすればどうなるだろうか。簡単に答えを言えば,この地球上においてそのような国家は長く続かないということだ。大韓民国が,先進国になるためには,「家国」とかマフィアに分裂していてはダメなのである。
 大韓民国は,近代的国家というには未ださまざまな点で不足だと思う。北朝鮮はさらに言うに及ばない。南北ともに近代的国家としての面貌を備えられずにおり,先進国になるのに不足な点が多々あることを自認する必要がある。
(文化評論家・パクチョンジン,韓国『セゲイルボ』2014年5月20日)