若手研究員と大学院学生の育成

山口彦之(東京大学名誉教授)
Hikoyuki Yamaguchi


 「科学技術立国」を目指すわが国では,大学の学術と科学技術の源泉はいうまでもなく,若手研究員と大学院学生の育成にある。優秀な人材を絶え間なく研究の世界に誘い込み,育てながら着実に「知」の蓄積を図っていくことが大切である。

 学問を志す若者は,大学の学部を卒業すると大学院に進む。大学院の標準年限は修士課程(博士前期課程)が2年,博士課程(博士後期課程)が3年である。すぐに博士号を取得すると,さらにポスドク(PD)という約3年の期間があり,その後に大学教員になる。

 ヨーロッパの大学は,限られた教授のもとに多数の講師や研究員が競い合うピラミッド型の人口構造である。それと対照的に,わが国では大学教員の人口構造は逆三角形を描き,大学教員に占める教授の比率がきわめて高い。国立大学では,過去におこなわれた国家公務員の人員削減のときに,講師,助手,教務職員の人数が非常に減ったことがその理由にあげられる。こうして,大学には厳しい競争がなくなった。また大学院学生は博士号を取得しても講師などに採用されるチャンスがきわめて少なくなった。文部科学省の調査によると,平成20年度に大学院博士課程修了者は約1万6千人いた。そのうちで,安定した職に就いた者は約1万1千人で,約3人に1人程度は路頭に迷っている。PDという3年の時限の職に就ける途もあるが,採択は10人に1人程度で狭き門だ。

 米国やヨーロッパでは,研究の最前線を担う,大学で学ぶ若手研究員に対して,彼らを支援する施策が手厚くおこなわれている。授業料の全額を免除したり,返還義務のない奨学金を与えたり,十分な雇用費を用意したりしている。

 政府の事業仕分けのなかで,大学への公的投資が削減されていることは心配だ。若人が「知」を蓄積していくには,学問の将来に希望をもち,文理の別 にとらわれず幅広い教養を身につけ,長く勉学に勤むことが重要である。大学院教育に対する積極的な政府支援を切望する。

(「世界平和研究」2010年2月冬季号より)