インド農業のバイテク革新

長谷山崇彦(中央大学大学院元教授・農学博士)
Takahiko Haseyama


 <梗概>
 2010年9〜11月は,尖閣諸島での日中紛争,北方領土問題での日露摩擦及び朝鮮半島での韓国と北朝鮮との軍事紛争などが続き「平和惚け日本」を覚醒させた。このことの意義,朝鮮半島有事に対する日本の覚悟と対応策,健全な愛国心の重要性,および国防力は,資源力と総合的科学技術力に依存することを指摘し,日本の科学技術立国の将来を懸念する。

はじめに
 日本の安全保障問題では,既にこの分野の多数の著名学者・専門家が貴重な論稿を出されているので,筆者は一介の研究者の立場から,過去の事例を参考にして問題を考察した。安全保障問題は,国防・経済社会・資源/環境などが含まれるが,本稿では2010年に日本領土の尖閣諸島と北方領土が中国とロシアに中ロの各領土だと公的に宣言された深刻な事件,即ち,日本が現実に対応を迫られている国防問題に焦点を置く。字数の関係で多数の出所資料の記載を省略したことをご寛容戴きたい。なお,資料入手にご協力を戴いたPWPA事務局には厚くお礼申し上げたい。

1.「平和惚け日本」を覚醒させたペリー艦隊と尖閣事件
 1853年に浦賀沖に来航したペリー艦隊(4隻)が,徳川3代将軍家光の鎖国令(1642年)以来,211年間の鎖国日本に,当時の「砲艦外交」の圧力で開国を迫り,徳川家康が江戸に開幕(1603年)以来,2世紀半の泰平・日本を覚醒させ,薩長革命軍が徳川幕府を倒して明治維新となり,日本の近代化と列強国入りに成功し,日本を欧米列強の植民地化から守ったことは周知の歴史である。当時,「泰平の眠りを覚ます上喜撰,たった四杯で夜も眠れず」と徳川泰平時代の「平和惚け日本」を風刺した狂歌は有名だが,2010年9月の尖閣事件は,ペリー来航の157年後に,再び戦後65年間の「平和惚け」日本を覚醒させた。
 即ち,2010年9月に,日本の尖閣諸島領海内で操業中の中国漁船群の1隻が警告する日本の巡視船に体当たりを繰返して逮捕された中国船長を,日本政府は“日中関係を考慮して”不起訴釈放し,記録ビデオ非公開の配慮もしたが,中国は「尖閣諸島は中国領土」と主張し,日本大使の深夜も含む呼出し抗議6回・日中会談・文化交流・希土類(レアアース)輸出の中止・日本人社員グループの逮捕など一連の対日恫喝で日中関係の摩擦が昂進し,中国での暴動的反日デモ(中国の国際的印象を損ねた)と日本での政府の弱腰外交非難と嫌中感情の噴出と反中デモ(中国とは対照的に整然と行う)が起こった。
 これに対してR.アーミテージ元米国国務副長官は,「“日中関係を考慮した”船長の不起訴釈放は不幸な計算違い。日本は国益を守る決意を示せ」と厳しく忠言した(「地球を読む」『読売新聞』2010年10月24日)。
 更に尖閣事件後の11月1日にロシア大統領が日本の北方領土の国後島を訪問して「北方領土はロシア領土」と宣言。2010年は正に中ロ両国により日本の尖閣諸島と北方領土が,中ロの各領土と公的に宣言されたのである。これは日本の現政権が沖縄の米軍基地問題で日米関係に亀裂を造った状況に乗じて,日米同盟力を“診断”する中ロの共同行為だと思われる。幸い米国の国務長官は直ちに「尖閣諸島は日本の領土」公表したが,尖閣有事の場合,イラクとアフガンで苦闘中の米国が多数の米軍兵士を犠牲にしてまでも,日本の尖閣諸島を防衛するとは思えない。ペリー・ショックは日本の近代化と大国への発展の契機となったが,157年後の尖閣ショックは「戦後の平和惚け日本」をどのように覚醒させるだろうか。
 今回は尖閣諸島と北方領土が問題化したが,竹島(韓国が実行支配)と沖の鳥島,更に沖縄と対馬も油断禁物である。各島嶼は領海(最干潮時の海岸線から22キロメートル四方)と排他的経済水域(同370キロメートル四方)の領有権を持ち,その領海水域の豊富な水産・海底資源が貴重である。上記の日本と中国・ロシアとの領土紛争と,南沙・西沙諸島の領有権で頻発する中国と東南アジア諸国との紛争,南シナ海での米中紛争等は,拙稿「領土の重要性を認識せよ−島は国の資源と安保の盾」(「オピニオン」『世界日報』2009年4月16日)で解説している。

2.朝鮮半島の有事に対する日本の覚悟と対応策を
 一方,朝鮮半島では,2010年3月に黄海で韓国哨戒艦が北朝鮮潜水艇の魚雷攻撃で沈没(多数の乗員が犠牲)。更に11月には北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃して民間人も死傷し,韓国と北朝鮮は臨戦状態となった。以上の事件に対応して,12月には米韓軍及び日米軍の大規模な合同軍事演習が東シナ海,黄海及び日本海の公海で行われた。米軍は原子力空母を参加させて極東アジアでの強力な軍事紛争抑止力を示した。
 韓国と北朝鮮の陸海空合計の兵力は,北朝鮮119万人,韓国58.5万人と在韓米軍1.7万人だが,核保有米軍の後盾と優秀なハイテク兵器を持つ韓国が有利と推定される。しかし相手も核保有軍事大国中国の後盾と自国の核がある。北朝鮮は旧式が多いが作戦機約620機を持ち(韓国空軍530機・在韓米軍60機),有事には旧式機で韓国と日本を自爆特攻攻撃する計画がある。ミサイルも韓国・在日米軍・グアム島・アラスカも攻撃可能な各種ミサイルを保有。米韓軍が有利でも「窮鼠猫を噛む」で「北」の自爆攻撃の可能性を予見すれば,韓国は勿論,日本も韓国避難民の受入れ対策も含めて相応の覚悟と対策が必要と思う。朝鮮戦争(1950-53年)の時,中国は北朝鮮支援で約100万人の援軍を派遣して約18万人の犠牲を出した由。現在も朝鮮半島有事の際は北朝鮮難民30万人の即時受入れ体制があるという。楽観は禁物である。

3.健全な愛国心は国土安全保障の鍵
 本学際誌に俗話で恐縮だが,私が政府系研究所の派遣で首都ワシントンの国際機関に上級客員研究員で勤務した80年代は,日本は世界で「日昇る国日本」と嘆賞された時代で,「国際通貨米ドルが円に変わるのでは?」と予測する専門家達もいた。筆者駐米中の「G7会議」で円は欧米の圧力もあり1米ドル250円前後から一躍,200円になり,1年弱で120円にもなった。当時,町で乗ったタクシーの立派な体格と姿勢の若い運転手は元海兵隊員で「愛国者ミシマユキオの著書(英訳)はeverything(全部)を読んだ」由。またニューヨークでの国際会議で知己となった年配の専門家は「私は沖縄で日本軍と戦った元海兵隊将校だ。砲弾で足に負傷した。日本軍の戦闘は実にexcellent (見事)だった。あれこそ愛国心の亀鑑だ」と話す。二人ともに,日本が焦土となった敗戦国から経済発展したのも,日本人の愛国心と努力の成果だと思う」と話した(現在の日本と比較して,読者はどう思うだろうか)。
 また,ドイツでの国際会議終了後,逍遥した近くの公園に黄昏の晩秋の濃霧に包まれた大きい記念碑があった。それは戦前の戦没兵士達の慰霊碑で,銃剣を構えて進む兵士達の姿が彫られ,碑文には,「ドイツは,我々が死することにより,永遠に生き続けるのだ」という兵士の遺言が刻まれていた。私は日本と同じ敗戦国ドイツが,敗戦後も殉国の誇りを失わず,この慰霊碑を保存している強靭な愛国心に感動した。
 一方,戦後日本は,戦前日本の行動は全てが「悪」だとして,祖国に殉じた戦士の霊廟・靖国神社への首相と閣僚の参拝の是非を,一部の政治家・有識者・マスコミが大騒ぎで論じ,中国に対日抗議を扇動した某政党幹部もいたが,自己の信念で毎年の靖国参拝を断行した小泉元首相は,反日的日本人や対中ビジネスへの悪影響を懸念する経済界の一部は別として,彼の毅然とした靖国参拝を多くの日本人が支持した。例の「小泉郵政民営化選挙」では,「郵政民営化とは何か?」が判る国民は殆どいなかった筈だが小泉政権は圧勝した。小泉政権以後の首相は「昇竜中国」に“配慮”して靖国参拝を控えたが,中国の反日教育と対日態度は変わらず,一層,傲慢化している(筆者の親族3人も靖国の英霊である)。
 また日本の「国旗掲揚と国家斉唱」に反対して,卒業式での国歌斉唱の時に生徒達の前で起立を拒否する日本の公立校の一部の教員達は異常である。このような反日的日本人教師に教育される日本の子供達は,将来,国際舞台で活躍する場合,真に気の毒である。 

4.国防力は資源力と総合的科学技術力
 国の安全保障力を左右する軍事力の分析は,私を含む非軍事専門家が素人判断で論じるのは「百害あって一利なし」だが,次の指摘はご寛容いただきたい。
即ち,中国の正確な軍事費と軍事力は不透明だが,1990-2010年の20年間に約18倍増の驚異的速度と規模で拡大/近代化している。その土台は膨大な資金力で,その源泉は,戦後中国の閉鎖経済が80年代末に開放体制に転換した後,日米欧の先進諸国とアジア先発諸国の対中援助と直接投資ラッシュで「世界の工場」となった中国の製品の輸出ラッシで資金力を得た中国の「投資と輸出の好循環メカニズム」の結果である。
 その中国と日本の現有軍事力は資料により差異があるが大要,次の通りである。兵員(万人):日本15.4と在日米軍1.9(中国161,以下括弧内は中国)。戦車(両)日本830(7550)。軍艦:日本149隻,44.9万トン(950隻,134.3万トン)。航空機(作戦機):日本430・在日米軍60(1950)。核弾頭:日本ゼロ(推定約500発)。正確な実数は最近の変化と軍事秘密で不明だが,装備の性能,兵員の訓練度と士気(含:愛国心),燃料の保有量と品質,食料その他の軍需物資量などにより,実際の戦闘能力は短期・中期・長期戦により,装備の性能と数量とは異なるものになる。
 第一次世界大戦でドイツは戦闘では負けず自国に敵を一歩も入れなかったが食料枯渇で敗戦した。また主役が航空戦だった第二次世界大戦では敗戦直前の日本には,まだ数千機の軍用機があったが機材と燃料が枯渇し,熟練パイロットも戦死傷で激減。実戦可能機数は大幅に少なかった。必死に開発した松根油は世界最初のバイオ燃料だが低品質で,燃料不足で空戦訓練不足の未熟練パイロット達には世界最先端の日本の戦闘機の実力が発揮できなかった。また,日本が抗戦を断念して,1945年の連合国によるにポツダム宣言(対日降伏勧告)を受諾した決定的理由は広島・長崎に投下された原爆である。原爆研究は敗戦したドイツの方が米国よりも先行し,日本も優れた理論的研究を遂げていたが,原爆製造に必要な複雑な計算にコンピューターを先に開発した米国が,日独よりも先に原爆製造に成功して戦勝国になった。
 要するに,資源力と総合的科学技術力が戦争の勝敗と国の安全保保障の決定因子だったが,現在も全く同じと考える。幸い現在の日本の軍事力はイージス艦隊を含めて世界最先端のハイテク装備を持つが数と規模が小さく,核の抑止力は米国依存で憲法上の非現実的な制約が多い。この米国依存と非現実的憲法の現実的改定は,21世紀日本の国防に緊急必須の課題だと思う。

5.日本の持続的科学技術立国を大丈夫か?
 戦後,自然資源非保有国日本は,優秀で勤勉な人的資源と科学技術力で,高度技術工業先進国として,GDP総額で米国に次ぐ世界2位の経済大国に発展したが,2010年に10倍の人口を擁する中国が2位に躍進。現在,日本の科学技術立国としての将来性は,文科省の調査「科学技術・学術政策について」によると極めて不安である。即ち,2000年を100として,その後,約10年間の世界主要国の科学技術関係予算の増加率は,日本108%(09年度),中国436%(07年度),韓国245%(08年度),EU15カ国211%(07年度)米国163%(08年度)等で,日本の伸び率が上記の主要国では最低で,中国は最高の4倍以上の増加である。
 しかも日本の現政権は「聖域無き事業仕分け」で,科学技術開発の基盤となるスパコンや宇宙科学の予算や平和維持の防衛費も縮減対象である(宇宙開発費は「はやぶさ」の快挙が挽回)。2011年度の日本の科学技術振興費は,大幅減の予定を首相の特別要請で大幅増になった。勿論,先進諸国最悪の巨額の財政赤字累積(約900兆円)の日本経済の現状から「事業仕分け」は緊急必須の節税政策で国民は評価しているが,日本の将来の発展と安全保障を損なわない慎重な「診る眼」が必要である。特に巨額の税金投入と「族」の利権問題が指摘される多数のダム・道路建設及び在日外国人をも含む巨額の子ども手当てなどは,各緊急必要性を公正に分析して,縮減と調整で捻出した予算を上記の緊急必要度が高い安全保障分野に優先配分するべきである。
 日本の軍事費は以前の米国に次ぐ世界2位から7位になり中国が2位。ODA(2009年時価)も長年の1位から5位に落ち,1人当たりGDPも長年の2位から17位(IMF統計)ないし22位(世銀統計)と先進国の下位に転落。OECDの第4回国際学力調査(2009年・高校1年生)では「ゆとり教育」の失敗で学力が暴落した後の方針転換で若干,回復したが,数学的応用力は以前の1位から9位,科学的応用力は2位から5位,読解力は8位で,1位は全て中国(上海)である。明治維新の成功を復習して,「日昇る国」だった日本を「日没する小国」にしない逞しい「平成維新」が,私達の子供・孫達の日本の為に切望される。

(2010年12月18日)
(「世界平和研究」No.188,2011年2月1日号より)