直面する日本の諸課題をどう解決するか

How to Solve Japan’s Challenges

加藤栄一(筑波大学名誉教授)
Peter Eiichi Kato


<要約>
 一昨年歴史的な政権交代が行なわれ,多くの国民が民主党主導の新政権に期待を寄せたが,その後の政治運営を見ながら却って失望している人が多い。日本は待ったなしの国内外の困難な課題に直面しながらも,それらの諸問題に対して明快なビジョンもないままに政治を行なっている現為政者たちゆえに,多くの国民は将来に向けて不安感を抱いている。そこでそうした日本が直面する諸課題への解決の視点を示す。

 現在の日本は国内外に多くの問題が山積していながら,政治家の体たらくで政治の混迷が深まっている。そこで,政策研究のあり方について述べた後,日本が直面する諸問題を取り上げなら,それらについて意見を述べたい。

1.政策研究の視点
 PWPAが現在行なっている政策研究会「21世紀ビジョンの会」は,もともと1970年代末に「80年代ビジョンの会」として始まり,80年代になると「90年代ビジョンの会」と改名しながら,大体10年先を見越した国家のビジョンについて議論してきた。そして現在は「21世紀ビジョンの会」として運営している。タイトルに「21世紀」とあるものの,残念ながら21世紀をカバーするような議論までは至っていない。
 例えば,2011年2月21日号TIME誌のカバー・ストーリーのテーマは,「2045年,人類は不死に?」(2045: The Year Man Becomes Immortal)というもので,数十年先を見通したビジョンを展開している。
 日本のシンクタンクNIRA(総合研究開発機構)でも,私が在職していた1980年代に既に21世紀のビジョンについて研究を行なっていた。その当時,私が参考にした本の一つは,The Next 500 Years: Life in the Coming Millennium(Adrian Berry著)であった。ビジョンを立てるにおいては,やはり非常に雄大なスパンでものごとを見つめることが必要である。縮こまっていてはだめだ。
 次に,日韓トンネルプロジェクトについてであるが,事業家,経済人,財界,建設業者など実務関係者が動く前に,宗教家が先導していくべきだという視点は非常に的を得たものだと思う。日本人と韓国人が,まず心で一致しなければトンネルを作ろうにも感情的問題が生ずるし,その解決なしに進めても意味がないとさえ言える。そのためには,日本人と韓国人は根っこは一つだという視点が重要だろう。
 1980年代に世界平和教授アカデミーでは,「東アジア総合研究プロジェクト」という総合研究を行なったが,その一つの成果を一冊の本にまとめた。それが『古代朝鮮と日本』である。ここに収められた内容の結論は,言語,犬の血液型などさまざまな視点から見ると,古代の朝鮮と日本はほんとうに「はらから(同胞,兄弟)」関係にあったということであった。また,名越二荒之助氏が『日韓共鳴二千年史―これを読めば韓国も日本も好きになる』(明成社,2002年)という本を著したが,これらの過去の遺産も活用しながら,日韓の心の一致の研究をまず先行させるのが大切ではないかと思う。

2.現代日本の諸課題:14の断案 
 昨年12月1日付『世界日報』の「ビューポイント」欄に「14の断案できれば大政治家」というテーマで菅直人首相に向けて,これらのことを成し遂げれば大政治家になると励ましの意味の文章を書いた。その時から既に3カ月近く経過したが(2011年2月19日現在),いまや菅直人首相の首さえ危なくなるところまできている。しかし,ここで指摘した内容は,日本が取り組むべき重要課題でもあるので,再論したい。
中国か米国か
 日米同盟は日本外交の基軸である。中国に媚態を示して米国を離れようとし,普天間問題で迷走した鳩山前首相は史上最低の首相であった。
 中国は米国と敵対している。しかし,中国は米国に勝つことは難しい。なぜなら,中国は首都北京の制空権をもっていないし,黄海の制海権ももっていないからだ。黄海には米空母が堂々と入っている。米空母から発進された戦闘機によって北京の上空は容易に制圧されてしまう状況だ。
 そこで2011年1月19日に,胡錦濤・国家主席が訪米しオバマ大統領と首脳会談した。そのとき二人は何を議論したのか。日本のメディアは,「胡錦濤主席とオバマ大統領は公式晩餐会の前日,私的夕食会を開いた」などと和気藹々の雰囲気を伝えた。一方,米国のメディアから漏れてくる情報は,「30年に一度の重要な会談だった」という対照的な内容であった。胡錦濤は訪米に際して,3兆円相当の「お土産」を持っていった。すなわち,3兆円相当の航空機などの買い物をする用意を表明し,その代わりに米空母を黄海に入れないようにと要請した。それに対してオバマは「NO!,今後も入れる」とはっきりと言明した。このぶつかり合いがあったのが,1月の米中首脳会談であった。
 これは30年前の出来事を想起させるものであった。当時,レーガン大統領は,ソ連首脳と渡り合いながら,熾烈な外交を行なっていた。ソ連は欧州に配備された米国の中距離ミサイルを撤去して欲しいと要請してきたが,それに対してレーガン大統領はきっぱり「NO」と答え,さらにSDI構想などで攻勢をかけた結果,ソ連は崩壊に至った。このときの交渉と同じ程度のガチンコ交渉が,今回の首脳会談であったという評価であった。
 しかし,中国は簡単にあきらめる国ではない。中国は空母破壊能力を有する対艦弾道ミサイルを開発し配備しつつある。それから,1999年のコソボ紛争で撃墜された米軍ステルス戦闘機の技術を中国が盗用したとされる次世代ステルス戦闘機「殲20」を開発しながら,米国に対抗しようとしている。
 だがまだ米国が有利な状況である。ゲーツ米国防長官の発言によれば,2025年まで中国はステルス戦闘機を200機を配備する可能性があるが,米国は同じ期間に1500機配備されるとされる。
 しかし中国の対艦ミサイルが米空母に命中した場合には,空母から発進した戦闘機は戻ってくることができなくなる。その戦闘機は,沖縄の米軍基地に戻ってくるしかないだろう。この意味でも,沖縄の戦略的価値は極めて重要だ。
 米国は中国と貿易など商売をしているのですぐに戦争にはならないだろうが,軍事や政治の面では米中は鋭くにらみ合っているのである。一方,日本は鳩山前首相などのように,中国を含めた東アジア共同体をのんきに謳い上げている。北東アジア地域の平和問題を考えるときには,日韓米を基軸として考え,当面は中国を除いて置くことが重要だ。
 ゆえに日本は,米国か中国か,どちらにつくのか,真剣に考えなければならないときにきている。このような折に,北朝鮮から延坪島へ砲声一発があって,菅首相も米国のありがたさを思い出したようである。
2)「ならず者国家」北朝鮮にどう対処すべきか
 北朝鮮は脅迫をしながら援助を呼び寄せるという戦法を常としているが,そのような国に対してどう対処すべきか。時々,威を示して脅迫力を維持しようとする一つの動きが2010年11月の延坪島砲撃であるから,これが大戦争に発展することはないだろうというのが私の考えだ。北朝鮮に対して,脅迫されては援助をするの繰り返しで妥協を続けるのも一つの選択だろうが,打倒して半島を統一するのには大変大きなモメントが要る。
辺野古か普天間残留か
 沖縄の米軍基地移転について,「県外」「国外」への移転はそもそも無理である。沖縄という地政学的位置から考えると,米航空母艦が中国の戦闘機の攻撃を受けたときに,すぐに帰れる場所といえば,沖縄しかない。結論的に言えば,辺野古か普天間残留かという選択しかない。
4)平成の大獄か,地域主権,国家失権か
 沖縄は県を挙げて反対している。外国との約束を守るために,国内の反対派を弾圧したのは,日本史を振り返れば幕末の「安政の大獄」である。安政の大獄では,大老井伊直弼が桜田門外の変で暗殺された。その覚悟が菅首相にありや否や。
 知事は「公有水面埋立許可権」を持つので,その手続きを経ずしては国とて辺野古の埋め立てはできない。そこで「平成の大獄」では,その知事の許可権を,法律改正によって国家に取り戻す。実は,以前は国にそのような権限があったので,県知事の許可を得ずに埋め立てを行なうことができた。ゆえに元に戻せばよいわけだ。しかし,そうすることも難しいだろう。
 沖縄をあげて大デモが起こるだろう。それは中東バーレーンでもデモで米基地が脅かされている米国にとって非常に頭の痛いことだ。そのデモを鎮圧する勇気が菅首相にあるだろうか。そうした覚悟なしに,辺野古への移設はできない。
5)開国農業革新か,TPP乗り遅れか
 輸出産業の悲願はTPP(環太平洋パートナーシップ)への加入であるが,弱い農業が妨げだ。菅首相は農業改革をすると言ったものの,実行力については怪しい限りだ。農業人口も老齢化しているので,いずれにしても農業改革は避けて通ることができない課題である。
6)農業保護は関税か,補助金か
 関税を高くすることによって農業を保護するか,補助金を出すかのどちらかだ。欧州では,国によっては農家の収入の9割が補助金となっている。それでもよしとすることは可能だろう。日本もTPPに加入するのであれば,関税を下げる分,思い切った補助金で農家を支えてやる必要がある。
7)耕作放棄か,農業企業化か
 耕作放棄か,農業企業化かという問題が,次に続く課題である。
8)雇用増加は介護医療でか,企業引き留めによってか
 菅首相は雇用を重視し,介護医療の増員でといっているが心細いものである。企業の海外追い出しを止めて,国内投資を増加して雇用増加を図るのが正道である。
9)法人税減,消費税増か,企業負担据え置きか
 企業の海外追い出しを防ぐためには,その主原因である高い法人税率の引き下げが不可欠だ。現政府は5%減税を閣議決定したが,まだ国会承認を得ていないし,財務省は細かい増税(対企業)積み重ねの策を弄して結局企業負担を据え置こうとしている。また消費税の増税はどうするのか。
10)財政か,景気か
 財政か景気かという選択は,世界共通の大問題であるが,どちらを先にやるかの違いだ。その国のそのときの状況を見ながら,どちらかの道筋で両方とも用意しなければならないのだが,その判断をどうするのか。
11)国債増発か,国債減額か
 国債残高の累増問題も懸念材料である。国債残高は減らさなければならないが,そのために消費税を上げる必要がある。果たして,その覚悟はあるのか。菅首相は,消費税の増税を言うと選挙に負けるからといって怖気づき,衆議院の任期後に消費税の議論をやると言っている。それは全く愚かな判断だ。今衆議院の多数を持っているときにこそ,消費税を上げてしまわなければならない。
 ある政治家は,「日本一の悪人=小沢一郎,日本一のバカ=鳩山由紀夫,日本一ずるい菅直人」と言った。「ずるい」というのは,他人に罪を擦り付けて,自分は逃亡してしまうという意味だ。
12)高福祉高負担か,低福祉低負担か
 北欧諸国は高福祉高負担でやっているが,この問題に対して菅首相はうまく答えた。中福祉中負担というのも,一つの選択だろう。
13)高齢者資産は投資へ向けるか,消費へか
 高齢者は資産を持っている。世界の金融界は,それを投資に向けようと宣言したが,リスクがあって,高齢者はなかなか動かない。社会保障費を増加させないためにも,高齢者の資産をぼつぼつ使って彼らの生活を支えるという具合に使うのが賢明な判断ではないか。
14)核を持つか,持たないか
 北朝鮮などの脅威の前に,核兵器を持ちたいという国民が増えている。米国も「日本の核」の容認に傾いている。
 以上の諸課題に対して断案を下すことができれる人物は,本当に大政治家となれる。しかし菅首相は一つも答えていない。

(2011年2月19日)
(「世界平和研究」No.189,2011年5月春季号より)