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東日本大震災と原子力発電および
これからの日本のエネルギー・システム
― 脳の情報処理よりみた次期社会の総合システム―
川口 勝之(長崎大学元教授)
Katsuyuki Kawaguchi
1.はじめに
「デザイン」の本質に「想定外」という言葉はない。地震と津波の同時発生と規模は過大だったのかもしれない。しかし,その場合どういう処理を想定しておくかが,「設計・デザイン」の仕事だからである。いかに大きな災害でも自動安全停止できなかったのはなぜか。
東京電力福島第一原子力発電所(110 万kW,沸騰水型原子炉,1 〜5 号機)の事故がいかに救助活動を妨げ,人々を不安に陥れ,どれだけの人命を救えなかったか? 技術者として,日本国民としての無念は計り知れない。
原理的に安全性に優れている「ヘリウム冷却高温ガス炉」がある。ヘリウムは熱的にも核的にも極めて安定しており,反応炉を構成しているグラファイト・カーボンの融点は,2500℃である。この冷却剤が喪失して温度が上昇すれば,反応が低下するという自己制御性を有する。著者は,この「ヘリウム冷却高温ガス炉」の研究開発統括であったが,「東日本大震災の中の原発と今後の日本のエネルギー展望」について,意見具申を要請されている。
複数の原子炉が一斉に機能不全となり,2 カ月経っても安定しない。いつ事態が収まり,どのように終息するのか出口も見えない。これが地球,産業,社会,生産と消費に影響が大きく,最も懸念されることである。このことは,まさに「安全設計」の思想の欠陥を示している。
地域独占に安住してきた準官僚体質の電気事業連合会は,原発の「安全神話」を主張し続けてきた。しかし,それに適応した安全設計と,その後の研究開発成果を施策に取り込んでこなかった。とくに大津波に対する「甘い想定」と福島の危険性は,90年代から指摘されていたものである。
日本では,全電源が失われる想定自体,軽視されてきた。米国では,オークリッジ国立研究所が,出力約110 万kW の福島第一原発1 〜5 号機と同型のGE の沸騰水型「マーク?」で,全ての電源が失われた場合のシミュレーションを実施し,NRC(米原子力規制委員会)に提出している。1981 〜82 年のことである。理論計算で得られた燃料の露出,水素の発生,燃料の溶解(放射性物質が検出されたこ
とは,被露材ジルカロイの燃料棒の金属部分が溶
解して燃料が溶け出た証拠)などのシナリオは,今
回の事故の経過とよく似ている。NRC は,この結果
を安全規制に活用したが,日本は送電線などが早
期に復旧するなどとして,設計配慮しなかったので
ある。
原子力安全委員会は,原発の安全設計審査指針
を決定した90 年に,「長期にわたる全部の交流動
力電源喪失は,電力網送電線の復旧,または非常
用交流電源設備(非常用ディーゼル電源)の修復
が期待できるので,設計的考慮をする必要はない」
という見解を示した。
その結果が,今回の東電大災害に至らしめたこと
は,周知のことである。ここで問題なのは,「長期
にわたる全交流動力源の喪失」は,「非常用電源設
備の修復が期待できるので考慮の必要なし」という
技術的事項である。ところが,5 〜8 時間で外部電
源などが復旧できると想定したものが,実際は数日
間におよぶ長期の全電源喪失となり,致命的な損
失につながっていった。
もともと原子力プラント(原発)の構造設計には,
安全設計の考え方として,「多重防護」という設計
思想があった。原発は巨大で複雑な技術の集約化
されたものだ。利用者から遠いところに建設するか
ら巨大な高圧送電設備が要る。「多重防護」という
のは,何らかの原因で原発の要素技術的コンポー
ネント(単独機械設備)に事故があれば,それを補
完する非常機器類をシステム的に多重に準備してお
くもので,Redundancy Design(余裕,又はムダ設
計)と呼ばれる。Fail Safe Design(壊れても安全
な設計)というのも同じような考え方であるが,こ
れは主として航空機設計に適応された思想で,放射
線源があり,漏洩防止を確実にする原発設計とは多
重防護の間で,厳格性に欠けているように思える。
このために,普通の石炭・石油発電プラント(110
万kW クラスは,建設費約2000 億円)に対して,
放射線源機器の設計・製作を含め,原発では約2
倍の価格となる。それでも,原子力が最も経済的で
発電単価が低いとされている。しかし,実際は,使
用済燃料処理,貯蔵などの費用は,この発電原価
には含まれていないのである。最終的に放射線源
を封じ込めるには,万年単位の貯蔵を要する。原発
の安全性設計を考慮すれば,どうしても建設費が高
くなるのである。安全性を確実にした上でこそ,「温
暖化ガスを出さないクリーンなエネルギー」が約束
される。
このような原発事故の背景を知った上で,冒頭の
課題「いかに大きな災害でも自動安全停止できなか
ったのは何故か」を技術的に検討し,原発の是非と
今後の日本のエネルギー生産の展望を考えてみるこ
とにする。さらに,分散形エネルギー共生技術(エ
ネルギー・マネージメント・システム)による東北地
域の復興計画を提示する。
2.安全設計の基準とその考え方の修正
―巨大技術と分散形技術―
国家形態であれ,何であれ,ある限界を超えて
巨大になると,その規模自体が非効率と不安定性の
要因となる。そして時が経てば,その「バベルの塔」
は,時として原因不明の自己崩壊を引き起こす。デ
ジタル機器の巨大システムも由々しき問題である。
アナログ機器は,自動車のハンドル操作に代表され
るように,行き過ぎたらすぐ元に戻して修正がきく。
しかし,コンピュータのようなデジタル機器において
は,1と2 の数値,桁数が一つ間違えても,その欠
陥がどこに出現するか,皆目分からない。コンピュ
ータの故障を体験した人は,これをすぐ理解できる
であろう。この巨大コンピュータ群が無数に関連す
るデジタル系統巨大システム,この全体系にどんな
影響を与えるのか,誰も予測できない。
これらの自己崩壊の原因は単純ではないが,多重
防護,合併を賞賛する経営,規模を超えた経営と人心,その活動分野における最適な組織,企業の
リスク管理および社会の淘汰圧などを勘案すると,
企業の拡大方針を支持することは得策ではない。規
模の経済・経営は多くの場合証明されていないので
ある。巨大技術は確実にやってくる大災害の下で犠
牲が大きい。
このような巨大技術の“危うさ”は至るところに
存在する。四国,淡路島大橋など,目的と手段を取
り違えた巨大構造物であり,通すべき人・車輌は全
体重量の1%以下の重量であり,橋自体の自重を支
えるのにやっとという感が深い。起工から20 〜30
年も経つと,海水腐食疲労限の低下などで,溶接
部や各強度部材の検証,取り換えなど安全性の維
持が必須である。
このような近代社会が生んだ不確定性の象徴が
原子力で,原発の事故は限界のないリスクを内蔵し,
新しい形のリスクである。気候変動やグローバル化
した金融市場と同様,近代化の生み出した巨大人
工物,巨大システムそのものが,人間の制御できな
い結果を生み出している。
2.1 東電福島第一原発と東北電力女川原発
―巨大技術の事故―
東北電力女川原発は,福島原発の北約120 キロ
メートルに位置し,3 号機まである。福島原発を襲
った津波は高さ14 mを越えたが,女川町を襲った
津波は17 mという調査結果がある。両原発は,い
ずれもGE 沸騰水型110 万kW の原子力タービン発電
所である。東電原発設計の津波の高さは,5.4m に
対し,女川原発は9.1 mの津波に備えており,大き
な被害がなかったことは注目に値する。
福島第一原発は,外部からの送電も鉄塔が倒れ
て停電し,非常用のディーゼル発電機も稼働せず,
全電源喪失となった。また緊急炉心冷却装置など
の二重もの安全設備が起動せず,制御不可能とな
った。
この主な原因は,まず外部電源などの喪失に備
えた電源車を配置していなかったこと。さらに,非
常用ディーゼル発電機がタービン建屋内におかれ冠
水したり,海水ポンプがほぼむき出し状態で設置さ
れていたこと。同じ水位にいくつも設置しても,大
津波に対しては「多重防護」にはならないのである。
つまり,主要非常発電装置が,タービン建屋内に設
置されたり,同系統の主要冷却水ポンプが「雨ざらし」
に設置されているなど,全く同一安全設計基準に至
っていなかったのである。
これに対し,女川原発の1 〜3 号機では,2 号機
の原子炉建屋の地下3 階が浸水したが,炉心冷却
装置用非常電源が失われることにはならなかった。
女川原発の安全審査で想定した津波の高さは9.1 m
で,津波の高さは設計値を大きく上回ったのは,福
島原発と同じだが,3 号機共に被害は小さく,非常
停止することができた。
被害が小さく正常稼働運転・停止のスケジュール
の完遂ができた理由について,東北電力は「余裕を
持った設計製作が大きかったと考えられる」と述べ
ている。つまり,前述のRedundancy の設計である。
この「余裕」設計がかなりよく現れているのは,
原子炉建屋の海面からの高さ標高14.8 mだ。福島
原発の10 m標高よりも高い位置にある。女川原発
は,2 号機の熱交換器室が浸水のため使えなくなっ
た1 系統を除き,非常用電源が正常に稼働した。
同原発の1 号機は,変圧器の故障で外部電源が使
えなくなったが,2,3 号機は正常に維持された。
今回の強制力は,大津波であり,これが致命的とな
っている状態では,主要設備の位置の高さが津波
の被害を防止したとみることができる。
また女川原発では,福島第一原発と異なり,外部
電源が失われなかったことは,発電所の司令塔で
ある「中央制御室」が常時稼働できたことによる。
これにより,原子炉・燃料棒の制御が可能となる。
地震で原子炉を停止した後も,炉心や使用済燃
料を冷却できないと,燃料棒が溶解したり,水素爆発の可能性もあるからである。
先日のテレビ放送で,「東電は標高30 mの高地に
非常用電源設備を新たに設置する」と報道していた
が,これが3.11以前に稼働していたらと悔
く
やまれる。
50 年以上も新機種の開発ばかりに専心してきた
開発設計者が強調したいのは,一度このような事故
が生じると,同種の原動機は全くダメだという烙印
を押されてしまうことである。とくに開発機種の場
合は,たとえ別の要素技術で失敗があったとしても,
その機種全体が否定され,再度立ち上がって二度目
の試作をすることは,極めて困難になる。
福島第一原発は,大津波に対する外部電源およ
び非常用電源の据付位置(標高)が致命的となっ
たが,ここで肝に銘じて再考しなければならないこ
とは,外部電源,非常用電源と幾多の多重防護を
しても,その多重防護の外圧に対するレベルが同
種類であれば,事実上「多重防護」にはならない
ということである。つまり,大津波に対しては,同
じ水位に多重防護設備を複数設置しても,何にもな
らないのである。開発設計者は,要素技術のみで
なく,全体を見通す力が必須であることが理解でき
よう。命綱を「技術コンサルタントの言う通りにした」
では済まされないのである。
むしろ未曾有の東日本大災害にも耐え抜いて正常
な稼働停止をした女川原発の実績を評価すべきであ
る。このように「モノ」として,または「全体」とし
ての価値は,最低の技術で決まるものであり,決し
て「ハイテク技術」で決まるものではないことを肝
に銘じておくことだ。
新聞やマスコミはこの点をしばしば誤解している
ように見える。開発設計者の使命は,あらゆる構成
要素技術を65 点以上に揃えることにある。これが
設計寿命とコストとのバランスを確実にし,洗練さ
れた設計となるのである。
2.2 巨大技術の事故は何故起こるのか
―安全性と経済性―
地震で原子炉が停止したあとでも,炉心や使用済
燃料プールに水を供給して冷却してやらないと,燃
料棒が溶解したり,水素爆発に至ることは,前にも
述べた。
このような天災は,巨大人工システムの欠陥と不
調和をえぐり出す。天災がなくても巨大技術の事故
は発生する。例えば,安全設計と経済性の問題で
組織が経済性を重視して安全性を犠牲にすること
が,どうしても巨大組織には起きやすいのである。
技術が成功するためには,体面よりも現実が優先さ
れなければならない。何故ならば,自然や技術は
裏切らないからである。
政治官僚共同体や企業は,もっと先見性のある
学者の主張や研究成果を「制度設計」に利用しな
ければならない。学識経験者の委員会を自分たちで
選別したメンバーで構成して,その結果を利用する
という形式は,およそ無益である。
神戸大学・石橋克彦名誉教授は,今回の大災害
を予測したような原発の事故に関する論文を97 年
に発表している。福島第一原発は,海底に今回の
地震の原因となったプレートの境界があるとは知ら
れていなかった40 年以前までの設計であり,過去
に設定された原発の安全性を,地震研究の最新の
成果で見通していないと警鐘を鳴らしていた。すな
わち,地震の被害と放射性物質による汚染が広域
に広がり,重なり合い,救援も妨げられることを「原
発震災」と名付けて警告していた。当時,原発建
設の強化のため,耐震設計指針を見直そうとする動
きは90 年代から言及されていた。しかし,当時は
未だ原発の新設が続いており,産業界から「計画が
一段落するまで変えるな」という圧力がかかったと
原子力安全委員元委員長代理,大阪大学名誉教授
の住田健二は証言している。
新指針に準拠すれば,修正,補強,設計変更につながって,運転できなくなったり,多額の費用が
要るからである。安全性よりも経済性が優先され,
結局,耐震指針が全面改訂されたのは06 年のこと
である。かくて,津波よりは地震に対する強化の検
討が優先され,その過程検討の中途で今回の東日
本大震災が起きたのである。
コスト低減のための簡易化や設計変更でしばしば
失敗することがあるので,デザイナーは,“証明され
た設計”(proven desig n)から変更するときは,
細心の注意を要する。
つまり,事故の真の原因が,組織の評価を上げよ
うとして,安全性の基準を緩めてしまう組織体質に
ある。このことを「シャトルの信頼性に関する個人
的見解」で指摘し,事故原因を固体ロケット・ブー
スターの継ぎ目のゴム製品O リングが,低温で硬化
して弾力性を失うことにあったと突き止めたのは,リ
チャード・ファインマン(ノーベル物理学賞受賞)
といわれる。これこそが宇宙船チャレンジャー号事
故の最も本質的な背景を記述した文書として有名で
ある。
3.集中化社会から地域分散化への遷移
―環境適用形安全設計の基本―
3.1 集中形エネルギー生産と分散形エネルギー生産
原子力プラントのみならず,一般の石油・石炭発
電プラントにおいて,発電コストは規模が大きくなる
ほど,スケール効果により安くなるという信仰があっ
た。しかし,規模が大きくなると構成機器とその制
御も複雑になり,故障の原因が多くなり,稼働率が
下がる。100 万kW クラスの発電プラントで一日の稼
働率の低下があると,約1 億円の損失と言われてい
る。季節変化による需用電力量の変動は大きく,
大出力で設計された火力プラントが,部分負荷(出
力低下)で運転されると,原理的に運転効率が激
減し,40%の効率が半分程度まで低下することも稀
ではない。しかも定常負荷運転に比較して,非定常
運転となり,タービン翼列の振動やその他の機械の
不安定現象の原因になる。フランスの電力公社では,
この季節および時間帯の需用電力変動(タービンの
負荷変化)を電力公社,行政,電力需要者間の制
度的,負担費用の間で平準化するやり方を以前から
採用し,中小型の分散化電源により,環境にやさし
い効率のよい運転を実施している。
集中的に大エネルギーを生産する方式は,原子
力プラントもそうであるが,都市圏から遠く離れた
山辺,海浜に設置されるため,高圧鉄塔電力網に
より,電力を分散送電することが必要となる。この
電力を分散する際に多大なエネルギー損失を伴う。
日本国中の高圧送電網による電力損失を総計すると
東京都分の電力をまかなう量になると言われる。
ガス化燃料やバイオマス燃料の廃熱利用コジェネ
レーション(電熱併給)を使うと,小規模発電でも
大出力発電以上の効率を得ることができ,環境調
和型で温暖化ガスも減る。
また,前述の負荷平準化方式は,日本の電力会
社も最近採用するようになっているが,例えば,最
高100 万kW の必要電力量が,50 万kW に平準化さ
れて,一年中一定回転数(交流サイクル)で運転さ
れることになる。50 万kW でも定格出力で運転すれ
ば,最高の効率が得られ,40%以上の熱効率で定
常運転ができる。小規模な地域分散形電源の制御
系によるネットワーク化は,大災害に対しても負荷
変動に対しても,耐抗力や再生力があり,適応性が
よいことは言うまでもない。
3.2 生体システムに準じた分散形エネルギー・システム
本質的に生命の保存と種の伝承を確実にし,あ
らゆる危険,災害からのリスクを分散させる分散形
システム。巨大化,大量生産ではなく,分散形で,
各要素との相関において需要側と供給側のパターンに調和がとれ,同調してムダのないシステムがある。
この調和のとれた仕組みを組織化するのが,情報
制御系であり,おだやかで,安定性に富み,環境依存,
あるいは省資源と両立して,生態系に優しい生命世
界を構築することができる。 分散形の典型的な例
は,生体システムであり,数兆の細胞が各々運動の
位相を合わせて同調し,あらゆる動的な秩序を形
成してエネルギー代謝や物質循環を行なっている。
そのタンパク分子エンジンでは,ラーメン一杯で数
十キロメートルも走ることができる。基本アクチュエ
ータとなるタンパク分子がお互いに協調して運動する
わけだから,まさに情報系であり,コンピュータや
情報処理の世界に対比することができる。
この分散形システムには,その特徴を際立たせる
ものに二つの形態,様式がある。前述したように,
一つは,巨大原子力プラントのような集中形に対し
て,地域分散形の小規模発電プラントとそのネット
ワーク。いま一つは,生命システムに代表されるよ
うな,分散して増殖するシステムとか,情報システム
と精緻に調和されたエネルギー,物質製造循環シ
ステムである。これらはいずれも,これまで説明し
てきたように,いかなる災害にあってもいずれかは
生き残る循環調和形の安全設計の基本理念である
ということができる。再生可能エネルギーは,自然
現象を利用しているエネルギーであるが,分散形エ
ネルギーは,「分散と集中」からも容易に理解でき
るように,「自然エネルギー」や「バイオマス・エネ
ルギー」ももちろん含まれるが,相互関連性をもつ
「分散された」力の意がある。このような分散形エ
ネルギーと集中形エネルギーの主役たちの発電単価
(円/ kWh)を図3.1 に示す。
太陽光発電のコストが最も高く,原子力が最も安
いという結果が示されているが,原子力の場合は,
東電110 万kW 福島プラントの例のように,地震や
津波に対する多重防護の設計製作費や使用済燃料
の保管プールと水槽の設置,冷却水循環装置など,
再構築費を安全設計費用として加算しなければなら
ず,おそらく火力プラントよりは割高になるだろう。
さらに,使用済燃料の再処理,貯蔵のコストはこれ
には含まれていない。
一般家庭の電気代が大体24 円/ kWh 程度だが,
太陽光発電コストは,その倍位になっている。太陽
光発電コストは,90 年代には急激に低下したが,
近年ではコストが下がらない傾向となっている。も
ともと多結晶シリコン系や単結晶シリコン系が主流
であったが,最近では薄膜非結晶シリコン系とか,
化合物系の太陽電池も登場している。結晶型は効
率がよく,住宅の屋根に向いているし,薄膜型は価
格が安いといわれているが,いずれにしろ,技術革
新と量産によるコスト低減が期待される。
3.3 バイオマスによる地産地消自家発電
(長崎方式浮遊・外熱高カロリー・ガス化)
これは,草木などの固体バイオマス利用性の高
いガス燃料,さらに移動体用の液体燃料(メタノー
ル)に変換するものである。3m m 以下に粉砕したバ
イオマスと高温(800 〜900℃)の水蒸気を反応管
内で反応させて化学反応させガス化する。供給さ
れ微粉原料は,灰分を残すだけで,有機分はすべ
てガス化し,クリーンな高カロリー・ガス燃料(約
4000Kcal/N m3,16MJ/N m3)に変換される。ガス組
成は,水素(H2)35 〜50%,一酸化炭素(CO)20
〜30%,メタン(CH 4)7 〜15%,エチレン(C2H4)
1 〜4%,二酸化炭素(CO2,燃えないガス)10 〜
20%で,外部燃焼熱を含めたガス化効率は85%で
ある。供給バイオマス・エネルギーの85%を高カロ
リーのガス燃料に変換できる。このガス燃料は,水
素を多く含み,天然ガスやプロパンの火炎温度より
高く,ガス・エンジンやガス・タービンによる発電
やコジェネレーション(電熱併給)に高効率で適用
される。
図3.2 に分散形エネルギー・システムに代表的
なバイオマスの高効率電熱併給システムを示す。
この方式では,草木,間伐材,木材がれき(本震
災がれきの7割が木質系),おが屑,稲わら,ネピア
グラス,サトウキビ,バガス,すべての植物類が原
料として利用できる。1 日/トンのバイオマス(乾燥
重量)で100kW× 10 時間の出力を安定して供給す
ることができる。家庭用小型システムとして,数kW
から数百kW の小型発電を発電効率15 〜30%で実
現できる。図の如く,エンジンの排熱を利用した
電熱併給方式にすると,総合熱効率は70%にも
なる。
大震災で生じた“木質がれき”を分離主分けして,
図3.2 の方式により高カロリー・ガス化を実施し,「電
熱併給木材がれき発電」を行なう。木材がれきの
半分(重量)は燃料となり,「がれき処理とエネルギ
ー生産」を同時に達成し,しかも,家庭用熱ガス(風
呂,炊事など)を供給することができる。
欧米各国やスウェーデンのように,発電と送電を
分離し,送電線を解放して,熱供給と発電を同時に
行なうコジェネレーションや,小規模発電メーカの
参入を「制度設計」することが肝要である。
本高カロリー・ガス化発電と従来方式ガス燃料の発電端効率を比較したものを図3.3 に示す。本試験
機では,1 時間当たり50kg のバイオマスで50kW の
電力が得られ,発電効率21%に達した。従来ガス
化発電方式と比較すると,大幅に発電効率を向上さ
せ,とくに数kW から数百kW の小型発電の分野では,
世界一の発電効率が得られている。
石油焚きボイラの石油バーナにこの高カロリー・
ガスを導入することにより,石油燃料からバイオマ
ス燃料に切り換えが可能である。草木系バイオマス
の燃料コストは10 円/kg が見込まれるので,石油
価格と比べると発熱量基準で約1/3 に燃料費が低
減される。
また,この高カロリー・ガス燃料は,水素と一酸
化炭素の含有率が高いため,液体燃料メタノールの
合成原料ガスとして利用される。このガス燃料を1
〜4M p a(約10 〜40 気圧)に加圧し,メタノール
合成触媒(銅,亜鉛)を通すとメタノール(CH3OH)
を容易に合成することができる。メタノールは,水
素( 燃焼温度1500℃ )に最も近い液体燃料であり,
自動車,列車,飛行機の移動体に有利に適応する
ことができる。
ここで今一度,図3.1 の各種エネルギー変換機
の発電効率の比較を見ていただきたい。図3.3 の発
電容量1000kW では,従来方式のバイオマス・ガス
化発電と比較すると,高カロリー・ガス化エンジン
の効率は,約3 倍に近い。この比率を図3.1 のバイ
オマスの発電単価(20 円/kWh)でスライドすると,
高カロリー・バイオマス・エンジンでは約7 円/kW h
となり,すべての再生可能エネルギーのうちで最も
安くなる。
化石燃料,ウラン燃料は,使用年数に限度がある。
米国やブラジル方式のエタノール生成は,収益率(製
品重量/原料重量)が悪く,また穀物から燃料をと
ることは食糧の価格をつり上げたり,政治やマネー・
ゲームに利用されやすい。さらに,ドイツのユーン
デ村の糞尿醗酵によるメタン・ガス発電は収益率が
低い。結局,長崎方式の高カロリー・ガス化発電が,
最も地産地消のエネルギー生産に適していることに
なる。
4.これからのエネルギー生産と日本社会
エネルギーを生産する技術ばかり論じてきたが,
社会に貢献する「モノ」として実現するためには,
構成機器材料について概観しておく必要がある。
まず鉄の性質の話をしよう。地球の三分の一は鉄であり,内部は鉄が多い。地球表面に近いところで
は,炭素(C),シリカ(Si),アルミニウム(Al),そ
れから鉄(Fe)で,鉄は4 番目に多い地球の金属で
あるから,化石燃料やウラン燃料よりは格段に豊富
に存在する。ゆえに「鉄」はエネルギー機械の材料
として,安心して長期的に使用できる。
4.1 鉄の性質と七変化
磁性を持つ半導体の研究で知られる東京工業大
学細野秀雄教授は,鉄を使った超電導物質を発明
し研究中である。− 250℃くらいまで冷却すると,
電気抵抗がゼロになるのである。磁性を持った半導
体で,鉄/ランタン,鉄/フッ素の結晶構造をもつ
化合物が重要である。空気中の水分がこの超電導
化に関係し,結晶構造中の酸素がフッ素に置き換わ
る。置き換わる前は,磁石の向きがそろっている。
これでは超電導にならない。フッ素で置き換わると,
N-S の向きがバラバラになる。バラバラになると電気
は発生しない。つまり抵抗がゼロになる。
実は,このような極低温にしないで室温で空気中
の水分と反応すると超電導になる。これは大変な発
見で,世界中の論文引用件数のトップを行くものだ。
なぜ,こういうことを言うかというと,抵抗ゼロなら
送電の損失がなくなり,鉄を使った超電導ケーブル
などが利用できるからである。
つくり方は,鉄の細いチューブに化合物をつめ,押
しつぶして板状に延ばす。真空の室に入れ必要温度
に制御する。このように超電導にしてから板状にする
のではなく,延ばしてから超電導にするのだそうだ。
▲
鉄の純度を高めると性質が変わる。東北大学・
安彦教授による超真空炉中ポンプで徹底的に空気
を引く。鉄は添加物の力で硬くなったりする。クロム
(Cr)を入れ,耐食性を高め強化する。高純度の
鉄(99.9999%純度)に若干クロムを入れると靱性,
粘っこさが増す。このようなクロム入りの超高純度ス
テンレスは,普通のステンレス(13Cr など)が真っ
二つに破断した力でも,超純度ステンレスは粘っこ
く残っている。普通ステンレスでは,溶接部に不純
物が析出するが,超純度ステンレスではこれができ
ない。
▲
梅沢良三の鉄の家:全部鉄製の家を造る。板鉄
溶接し放し,全部造船会社が製作。鉄板の間に断
熱材を入れると,冬,夏,適温となる。屋上は緑化。
サビも安定しており,手で触ってもつかないそうだ。
4.2 これからの日本のエネルギー源とエネルギー・
マネージメント・システム
例えば,室温の超電導鉄チューブなどが製造され
れば,送配電の実体もドラスティックに変わることに
なるだろう。そして,もろもろの電気エネルギー機
器が効率的に利用できるようになる。もう現実にそ
こまできていることが実感でき,しかもわれわれの
“なじみ”の深い「鉄」でできるというのはうれしい
ことである。
さて,本題のエネルギー・マネージメント・シス
テムの話に移ろう。これからの日本のエネルギー・
システムとして何が適切かを考えてみる。
(1)日本のエネルギー事情と計画目標
日本の一次エネルギー供給の状況を図4.1 に示
す。この30 年間,石油依存度は下がっているが,
石炭や天然ガスが増えていて,化石燃料への依存
度は減少していない。新エネルギーが3%とは,技
術立国日本にとって,情けないことである。
図4.2 に分散形/集中形エネルギーの国の目標
値を示す。2010 年では原子力発電が12%程度なの
で,分散形エネルギーをそれと同程度の10%にしよ
うという目論見である。原子力プラントは,2020 年,
2030 年では,計画変更される可能性が高い。
経済産業省は,2030 年に太陽光発電を現在の15
倍に,風力発電を洋上発電方式を開発して「今後
20 年で500 万kW にする」とする「サンライズ計画」をまとめた。将来のエネルギー政策の方向を表現す
る方針で評価できる。
デンマークは2020 年までに国内の分散形エネル
ギーを60%以上,また,50 年までに化石燃料依存
から完全に脱却することを決定している。これは,
環境にやさしい企業の新たな参加を促し,とくに中
小企業の恩恵が大きく,雇用の創出と成長を同時に
達成することができる。
東西統一を自然体で成し遂げた偉大な技術の国ド
イツ。ドイツは2022 年までに原発(電力の23%を
占める)を全廃することを決めた。この「決断」と「ス
ピード感」および「合意形成の知恵」を日本の政治
官僚共同体も学ぶべきだ。
世界の太陽光発電生産状況を図4.3 に示す。ドイツとスペインの導入量増加は目覚しい。日本は世
界第3 位。日本の一般家庭では,平均3 〜4kW の
太陽光電池となるが,1k w 当たりの価格は,およそ
65 万円なので,一家庭当たりおよそ200 〜300 万円
くらいかかることになる。そのうち二分の一くらいが
太陽電池パネルや部品の費用で,残りは地域の販
売店,施工店などの地域の収入となっている。
風力発電の場合は,1 基建てるのに2 〜5 億円
くらいが要るが,その二分の一が建設費となり,取
り付け道路,基礎工事,森林伐採など地域経済も
潤うことになる。このように分散形エネルギーによ
る地域経済への貢献度は,相当に大きいのである。
2020 年までに10%にしたいというのが国の目標で
ある。大震災後には,この計画は大幅に改正されることになる。
太陽光発電の「余剰電力買取制度」が2009 年
11 月に開始され,分散形エネルギーの全量買取制
度も検討されている。また,分散形エネルギーは,
自然現象を使っているので,出力が安定しない。こ
の不安定電力は電気系統に影響を与えるので,系
統対策が必要となる。かくて,分散形エネルギーが
増えると,エネルギー・マネージメントが必要となる
のである。
4.3 エネルギー・マネージメント・システム
(エネルギー生産管理システム)
前述したように,日本は太陽電池とか,蓄電池,
電気自動車のような単体の要素技術は強いが,これ
らを組み合わせたシステム・デザインでは,競争力
が強いとは言えない。今回の東日本大震災にしても,
水処理機器技術はもっていても,安全性を含めた
水循環,浄化系,水プール,冷却ポンプのタービン
建屋,格納容器,据付位置を考慮した多重防護シ
ステム・デザインが全く未熟である。だからこそ,
自衛隊や消防隊の決死隊を要請して,格納容器建
屋の大穴のあいた破損箇所から,高所強力ポンプ
放水冷却となる。地震・津波で破損し,クラックが
入った主要部から,放射線汚染水が流出し,大問
題になることは,自明の理である。かくて最悪の事
態は避けられたが,犠牲が余りにも大きい。その前
に手を打っておくのが,分散形共用技術を利用した
エネルギー・マネージメントである。
外部電源破損および負荷平準化(電力ピーク・カ
ット),省エネ,分散形エネルギーとの協業,蓄電池,
および全体系の情報通信技術を統合連携,個々の
家庭の消費エネルギー・データを収集し,交通整
理し,エネルギー管理するのが,エネルギー・マネ
ージメントである。米国がいっている“スマート・グ
リッド”よりは,もっと広範囲で洗練されたもので
ある(参考文献2 の図18・19 参照)。すなわち,電
力・ガス事業で培った情報通信技術を活用し,エ
ネルギー管理,最適運転維持サービスを行なうネッ
トワークシステムである。この基本的な概念設計を
図4.4 に示す。
風力発電や太陽光発電の出力変動に対して,蓄
電池をおき,余った電力を需要側の蓄電池,系統
側の蓄電池に貯める。地域レベルでは,深夜電力
で蓄電池を充電し,その電気や太陽光発電を昼間
に使用する。こうするとピーク・カットとなり,電力平準化が達成され,また省エネにもなる。パソコン
とか携帯電話などの低圧の直流で働く電子機器(12
ボルトや6 ボルト)には,太陽電池が直流で発電
し,それを蓄電してこれに充てる。最近は,直流の
ままで変圧するD C コンバータも発明されている。
冷蔵庫,エアコン,洗濯機など家庭用電気機器類
は,太陽光発電だけでは稼動できないから,従来
の100 ボルトや200 ボルトの交流を使う。日本の家
庭では,電気のみではなく熱需要も大きいので,太
陽光温水器や燃料電池を組み合わせて使用するこ
ともできる。
このように既存の電力系統と新しい分散形エネル
ギーを組み合わせ,さらに電気自動車やヒート・ポ
ンプの動力系統,LED 照明で連結し,直流と交流を
使い分け,温暖化ガス低減,省エネ,および 低コ
スト社会を実現するのである。
4.4 東北「食糧・エネルギー生産」基地計画
―新しい食糧エネルギー・マネージメント社会
の構築
東日本大震災で被害を受けた各農地,漁村,林地,
地域都市を集約再構築する。日本で最も遅れた産
業,農業,水産業,林業の自前の「分散形共生技
術システム」を適用して規制も緩和し,農業,水産
業(海洋バイオマス利用),生産法人などの新規参
加(所有者の穴のあいた部分など)を促し,東北地
方をエネルギー地産地消,食糧供給基地を目指す。
つまり農地を種類別に,水処理技術,畜産技術,
物流などを設計考慮して,水田,畑など適正規模の
集約し(単に一律に大規模化,機械化するのではな
い),漁業については,現在,参入が制限されてい
るワカメ,ホタテ,カキの養殖を含む漁業権をはじ
めとして,生産・養殖を開放して漁港を拠点ごとに
立て直す。食糧生産とエネルギー生産は,表裏の
関係にあり,林業の伐採,農業,水産業(海洋バ
イオマス利用,文献1 参照),食糧やサービス業か
ら発生する残滓を,前節で述べた高カロリー・ガス
化(水素,一酸化炭素など),さらにメタノール液体
燃料に変換して,食糧・エネルギーの循環形社会
をつくるのである。ドイツの170 戸のユーンデ村の
バイオマス利用によるエネルギー独立循環社会を
見るがよい。
国が構想している食糧基地構造図を,図4.5 に
示す。津波被害では,太平洋沿岸の農地が流され,
岩手,宮城,福島などの6 県で耕作面積の2.6%,
2 万3000ha が被害を受けた。国はそのため「食糧
基地建設のための特別措置法」を提出し,同時に沿岸から遠くにある農地を市街地や住宅地に転用し
やすくし,防災上の設計効果も狙う。
第1 期構想(Phase 1)を政府案の如く,農地,
漁港を集約して,「食糧基地」を狙い,第2 期構想
(Phase 2)として「分散形共生技術マネージメント・
システム」によって,エネルギー生産,管理を実施
する。ここで重要なことは,第1 期計画の中に,長
期計画として第2 期工事の設計余地(例えば,青写
真上の第2 期工事の予定)などを予定計画的に配
慮することである。この設計的配慮の有無によって,
建設費に2 〜3 倍の膨張となることがある。
小さな海辺の集落ごとの漁協に関し,維持費用
が増えるため,漁港ごとに沿岸,沖合い,遠洋,お
よび新たに海洋バイオマス利用(文献1 参照),養
殖生産漁業といった業種別分担して全体を集約し,
かつ加工施設と市場も併設し,漁獲から加工まで一
体化できるようにする。
願わくば,本「食糧エネルギー生産基地構想」
に対して,抵抗勢力や野党も協力して,挙国一致し
て速やかに「実行」に移されることを祈るばかりで
ある。
5.東日本大震災後の日本を構想する
−耐津波構造地域分散形エネルギー利用−
(1)日本が構想すべき国は,幾度天災に遭って
も人的被害はなく,支援の組織がしっかりしていて,
迅速に復興できる国で,耐震性の高い建物を高台
や山手に集約して,コンパクト・タウンを形成する。
天災に弱い地区は,青々として生産的な田園や山林
および海岸にしよう。建築,公園,海岸計画を含め
た,公的なスペース・デザインを考えてもよい。海
岸には,養殖を含めた情報的集約された漁港をデ
ザインする。「天災に強い国」という国際的なブラン
ドが欲しいのである。
今度の大震災でも如実に現れているように,忍耐
強く秩序正しい住民,テレビには何も報道されてい
ない「もの」言わぬ東北電力女川原発。天災が少
ないがゆえに備えもない国より,よほど耐性のある
安全な国をつくることができる。東北の歴史,社会
的背景,土地と結びついた生活に根付いた「もの」,
来るべき東日本の震災に備えた「街」づくりを始めよ
う。「高温ガス炉」のデザイナーからみれば,「東北電力女川原発」に見られるように,まさに免災構造
の国を半ば実現した「地域」といえる。東北をその
先進モデルとして復興し,その体験を全世界に拡大
していこう。例えば,「全復興住宅に太陽光発電パ
ネルを設置する」。空から見ての美観をデザインする
ことができ,何よりも「復興のシンボル」となり得る。
(2)国を治めること(=政治)は,昔から“治山
治水”事業だといわれている。東日本大震災の電
力会社の失敗も,結局,治水対策と水処理循環系
のデザインの失敗である。これが放射線源を漏洩・
拡散させてしまった。「人工物」の価値は,その「最
低技術」で決まるのである。グローバル時代にあっ
ては,政治官僚共同体は,「志」だけではなく,科
学技術をライフルマンのライフル銃のように使いこな
さなければならない。科学技術の前に香を焚いては
ならない。
国の取り組みとしては,低地国として何度も水害
に見舞われたオランダ(国土の1/3 を埋め立て造成)
の経験が参考になる。専門家が閉じた形で,大水
害リスクの許容確率や対策を定めるのではなく,国
会や市民参加で時間をかけて決定している。裁判
員制度のように,市民自ら政治官僚共同体に安全設
計や科学技術の考え方について,体験的学習をさせ
る。裁判員制度よりは,もっと広域で急務を要する。
それは必ずやってくる大震災だからである。
そして政治家もデザイナーも,「これは危ないな」
という,最初の「直観」が最も肝要である。この「身
体知」ともいうべき「感性」を研ぎ澄ましてその価
値を認めないと,次の思考過程「脳の論理的情報
処理系」が自発的に働かないのである(文献1 参
照)。「知らぬが仏」で感知して自覚しないと何も働
かないのである。
(3)地域分散形の再生可能エネルギー産業は,
新たな雇用を生み出す。この中小規模,分散形エ
ネルギー・システムの生産計画,管理,ネットワー
ク化が,前に述べたエネルギー・マネージメントの
手法である。米国ノーチラス研究所は,原発や火
力発電を再稼働,新設するよりも,省エネや小規模,
分散形発電を設計・製作する方が,早期に実現でき,
年間の費用も安く済むという調査報告書を出したこ
とは,それを裏づけている。
いくつかのリーディング産業を育成し,文献3 で
示すように,自由貿易で外需を軸とした経済運営を
目指す高度成長の時代は終わった。多種多様な小
規模,分散形産業を維持することによって,グロー
バル経済の「不確定性」への「抵抗性」を強め,
同時に「自然がちょっと牙をむいただけで,人工シ
ステムはいとも簡単に壊れること」への「耐性」を
強め,人間の文化と文明を伝承していく。生体シス
テムのやり方に習うのである。
新たな基幹産業として,食糧とエネルギーの循環
社会,自給圏の形成を立ち上げよう。何となれば,
食糧とエネルギー生産は,生態系からみれば,表
と裏の関係にあるからである。日本で最も遅れてい
る農業,水産業,林業とそのサービス業から派生
する残滓を,高カロリー粉体水性反応ガス化法(長
崎方式)により,高カロリー・ガスを生産し,さら
に液体燃料を循環生成して,日本で最も遅れている
産業を立て直そう。ドイツでは,糞尿,草類などで
メタン・ガス化発電を自給・売電をやっているが,
水素ガスを多く含む長崎方式バイオマス・ガス化法
が,収益率が高く,ガス・エンジンまたはガス・タ
ービンによる発電端効率が最も優れている。しかも
原料は無限にある。
それから放射線被害に関しては,著者も長崎の
被爆者の一人であり,医学的見地から検討の要があ
るが,日本医学会のJMS(文献8)を参照されたい。
原爆の都・長崎の人々は,長崎大学を中心として,
ただ「祈る」ような気持ちで,「原子力の平和利用」
や「エネルギー,食糧問題」について考えている。
忍耐強く,秩序正しい東北の皆様に敬意を表し,
われわれは常に皆様と共にあることを忘れないで欲
しい。
6.結語
東日本大震災の模様をテレビや新聞で観察しつ
つ,悼みつつ,本稿を書いた。未曾有の大災害の
原発に関する情報は,とくにNHK テレビ,「朝日新聞」
「毎日新聞」などの技術レポートによるものである。
また,日本のエネルギー事情のデータは,経済産
業省・新エネルギー対策課長のご好意によるもので
ある。厚く御礼を申し上げる。
1)東日本大震災・大津波による,東電110 万
kW 福島第一原発破損の主たる原因は,炉心,外部
電源および非常用ディーゼル発電設備が海抜より同
一レベル(標高10m)に設置され,耐津波設計に対
しても,5.4m の波高設計値であり,14m の大津波に
対して破損が運命づけられた設計であったこと。
2)東北電力110 万kW 女川原発1 〜3 号機にお
いて,17m の大津波にも拘わらず,被害は小さく,
非常用電源も緊急時に正常に作動し,安全稼動・
停止することができたことは賞賛に値する。これは,
耐津波設計に対しても9.1m の波高設計値であり,
炉心,外部電源および非常用電源の据付位置も標
高14.8m に設置され,かつ,燃料冷却循環水系が
東電福島原発よりは余裕のある設計であったことな
どが挙げられる。しかし,1 号機の変圧器の故障や,
2 号機の熱交換器室が浸水のため使用不能となった
ことなど,17m の大津波に対しては,ぎりぎりの余
裕のない設計数値であり,設計変更が必要である。
3)110 万kW・GE 沸騰水型原発評価に関しては,
東電福島第一原発は,耐地震および耐津波対策が
きちんと実施されていないために起こった事故で不
合格。これに対し,女川110 万kW 原発は合格となる。
この型の原子炉でもきちんと耐津波・地震対策が採
られると安全性を維持することもでき,「脱原発」を
結論付けることはできない。但し,原発は言われて
いるほど,発電単価が安くないことを理解すべきで
あろう。
4)これまで原発は,「温暖化ガスを出さないク
リーンなエネルギー」と言われてきたし,日本や欧
州では,もっぱら経済性に関する議論ばかりで,安
全性については気にもとめてこなかった。今回,安
全性への疑問符がつきつけられ,エネルギー生産
は多様化し,社会インフラのグリーン化に重点を置
く,分散形エネルギー利用論が大勢となろう。また,
そうでなければならぬ。
5)化石燃料社会からの脱却や生活レベルを守
る上で,「原発,イエスかノーか」を迫るよりも,「原
発を複数のエネルギー生産の選択肢の一つ」とみ
なす。
グランド・デザインとして,環境適応形安全設計
に重点を置き,小さな発電設備を網の目状につくる
社会インフラのグリーン化を確実に実施すれば,送
電コストもなくなり,地球に優しい社会システムに再
生される。生体システムに準拠したものとなり,大
がかりな施設は不要である。原発はこのための「中
継ぎ」とみなしてもよい。ウラン燃料も,早晩なく
なるのだから。
6)具体的に提言すると,風力,太陽光,バイ
オマス・エネルギー,海洋エネルギーなどの分散形
エネルギーの利用系のシステム(参考文献1)があ
る。こうした温暖化ガスやNO xなどを出さないエネ
ルギーに切り換えるまでの過渡期には,「天然ガス」
を使ってもよい。バイオマスから生産した高カロリ
ーガスや水素ガス使用の高温ガス・タービンの排熱
を利用して,高カロリー・バイオ・ガスの生成,冷
暖房や負荷平準化発電を同時に行なうコジェネレー
ション(電熱併給)は,極めて効率的にエネルギー
生産が可能である。
7)日本には風・水と太陽とバイオマスそして地
熱など,無限の資源がある。地球全人類が年間に
使用するエネルギー総量は,熱量換算すると,地
球上の植物(葉緑素)が太陽光を受けて生産する年
間のエネルギー量の1/10 に過ぎない。バイオマス・
エネルギーがいかに膨大であるか,再認識する必要がある。バイオマスを高温蒸気の水質反応ガス化
を応用した水素/一酸化炭素製造法とメタノール生
成は,収益率,発電効率が最も高く,来るべき水素/
一酸化炭素燃料時代の代表燃料となるだろう。
食糧からエタノール燃料を採ることは,神を冒?
することであり,食糧に饗したあとの残滓から効率
的な燃料生産を行なうことが,神意にかなったデザ
インである。ここで要求されるバイオマス原料は,
農業,水産業,林業とそのサービス業から発生す
る残滓である。この方式によって日本の最も遅れた
産業,農業,水産業(海洋バイオマス利用),林業
とそのサービス業を有機的に連携し,日本を立て直
す。東北大震災の地をこのような地産地消の「食糧・
エネルギー生産」の基地としたい。
早急に実施すべき[Phase 1]として, “木材がれき”
利用「長崎方式高カロリー・ガス化発電」により,「が
れき処理」と「エネルギー生産」を両立させる「地
産地消発電併熱供給」を提案する。
8)「日本は,それらを利用する技術にもっと投
資すればよい。有限な資源である石油やウランに頼
らなくて済むエレガントな社会がつくれるはずだ」
と原子力安全性専門家,元英下院環境委アドバイ
ザーのウォルト・パターソンは提言している。原子
力安全性専門家のこの発言の意味は,極めて重い。
また,「日本は社会がしっかりしているから,政治が
貧困のままでいられる。日本の政治家は,国民に
甘えている」とコロンビア大学のジェラルド・カーテ
ィス教授は言っている。
原子力をやるなら,日本はもっと安全性の高い,
しかも効率のよい「ヘリウム冷却高温ガス炉」をや
るべきである。
9)むすび
東日本大震災は,想定を超えた規模の天災が原
因だと経済人や政治家は言うが,そうではない。近
代社会が生み出している巨大人工システム,そのも
のが人間が制御できない結果を生み出しているので
ある。組織化された無責任なシステムが出来上がっ
てしまっている。こんな限界のないリスクの象徴は,
原子力だけではない。グローバル化した金融大変動
や地球の気候変動,およびデジタル・ネットワーク
社会などの巨大な技術も同じような性格を有してい
る。経済を優先するために,政治や管理をおろそ
かにしてきたのである。
では,どうしたらよいのか?このような近代テクノ
ロジーがもたらす問題を見えるような形にするのは,
「ポピュリズムを脱却した国民の主導・参加である」。
国民不在であったために透明性に欠け,産業界と政
府の強い直接的な結びつきができてくる。産業界や
専門家に判断を独占させず,市民社会が関与すれ
ば,政治を開放することができる。
東日本大震災に関与するすべての人々に捧ぐ。
大津波 桜をみても 落つる涙は
(2011 年4 月10 日)
(「世界平和研究」No.190,2011年8月夏季号より)
<参考文献>
1)川口勝之『地球環境システム設計論』(改訂増
補版),九州大学出版会,1996
2)川口勝之『人間の内面的な感性の表現の研
究―脳の情報処理よりみた次期社会の総合シ
ステム』(改訂増補版),創造デザイン学会,
2010
3)広井良典『グローバル定常型社会―地球社会
の理論のために』岩波書店,2009
4)川口勝之「集中から分散化へ,量の生産から
質の生産へ(?)(?)(?)−脳の情報処理
よりみた次期社会の総合システム」,『世界平
和研究』,2009 年春季号No.181,2010 年秋季
号No.187,2011 年冬季号No.188,世界平和
教授アカデミー
5)渡邊昇治「スマートグリッドと電気自動車」,
東大機械同窓会特別講演録,2010
6)坂井正康「草木バイオマスの熱化学的ガス化
とメタノール合成技術」,『燃料電池』7 巻4 号,
2008
7)中野剛志編『成長なき時代の国家を構想する』
ナカニシヤ出版,2011
8)JMS(Japan Medical Society)「1000 年に一
度の大震災,3.11 東日本大震災」,vol.172,
April,2011
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