シンクタンクとしてのPWPAの特色と当面の研究問題

加藤栄一(筑波大学名誉教授)
Eiichi Kato

はじめに

 世界平和教授アカデミー(PWPA)がシンクタンクとしてしっかり立って行くことは,かねてのわれわれの念願であるが,そのためには,シンクタンクとしてどんな特色を持っているか(性格づけ),また,いわば「資本」として,どんな研究問題を持っているかの二点を十分考えなければならない。それについて,以下に私見を述べ,公論として形成して行きたい。

Ⅰ 特色

 何百もあるシンクタンクの中で競争に耐えて経営して行くためには,独自の性格(特色)を持つことが必要である。特に小さいシンクタンクにとっては,ニッチ(市場の間隙。すきま。大企業に食われない独特の分野)を確保するために必要である。
 もちろん,PWPA本来の使命(ミッション)と矛盾しない性格づけである必要がある。
 このシンクタンクとしてのPWPAの特色が,従来明確でなかったので,次のように提案したい。

<シンクタンクとしてのPWPAの特色>
独立で自由,従って信用され,力強い言論
 (注) いくら立派なことを言っても,「あのシンクタンクはどこそこの政府,政党,企業,団体,宗教に支配されている走狗だから信用できない」と思われては,何の力もない。資金提供者にもはっきり,この点は断って,独立で自由な立場を堅持し,闡明しなければならない(そのためにも経営の独立に努める。あえて株式会社組織にすることもある)。大新聞が経営トップと並んで「主筆」(筆政を司る)を立てるのも,言論の独立のためである。要するに金や権力でなく,真理に仕え,勇気を持って述べることを宣言し,堅持する。
(2)グローバルな視野,グローバルな連携,グローバルな運動
 (注) PWPAは,日本のために尽くすが,同時にグローバルな性格を持っている。それは結局,日本のためにもなると信ずる。
(3)科学的な方法と表現,論理と数字の裏付け
 (注) PWPAの研究方法は,他のシンクタンク同様,科学的,したがって普遍的であるものを目指す。したがって論理と数字の裏付けを期し,検証と信頼が可能なようにする。
(4)霊的な価値観とビジョン。隠さず明示
 (注) 政策は科学的に作られるが,それを選択するのは政治家,国民の価値観である。価値観は科学からは出て来ないから,どこからか(ある人は欲望から出て来る)出して来なくてはならない。霊的な直観からは価値観が出る。例えば,アメリカの建国の父たちの,自由,人権,平等,民主などの価値観は,キリスト教的直観から出たものであって,科学から出たものではない。PWPAは,自分の価値観(「日本のため」「世界平和のため」「自由」「民主」など)とビジョンを隠さず明示して批判に供し,信頼を得る。恐らく多くの日本国民も同意する価値観であろう。
(5)諸政府に助言,目標と政策を提供
 (注) 営利でなく公益を目的とするシンクタンクであるから,その研究成果は公共のために提供する。諸政府(自治体や外国政府や国際機関を含む)は,目標と政策を立てるためにPWPAの提供するものに依拠してよいのである。
(2012年2月11日,世界平和教授アカデミー理事会で述べた「シンクタンクの道」<代表理事 加藤栄一>から引いて敷衍した。)

Ⅱ 当面の研究問題

 企業体としてのシンクタンクの「資本」に当たるものは何か? 建物やコンピュータや研究員や図書資料などもあろうが,何より大切なのは「問題」である。良い問題さえあれば,これを示して資金を集め,研究者を集めて仕事ができ,研究成果(「商品」に当たる)を生み出すことができるからである。
 Questions well put are half solved.(うまく出された問題は半分解けている)
 これは,2012年4月7日に逝去(81歳)された元明治大学学長山田雄一先生が,若い時の私に与えられた教えである。爾来40年,拳拳服膺して来た。
 重要な問題(研究テーマ)を発見する。新鮮な切り口と発想で,余人の思いつかない,大きな解決力のある根本問題を発見し,複雑な錯綜した問題状況から真の問題の所在をつかみ,問題を体系的に形成して行く。それができれば,問題は半分解けたようなもの。
 広く深く調べ考究し,データを集め,仮説を立て論理的に筋を追って行く。ピカッとひらめく解決も生まれる。明晰な叙述,印象的な実例と譬喩で普及する。
 以下に掲げた7つのテーマは,PWPAとして研究するのに値するものとして,2012年3月7日に私の選出したものであり,そののち説明を加え,PWPAの全理事により優先度の評価(アンケート)を行なった。
 優先度の評価は次に記す。
<7つのテーマの目次と優先度>
①対中メタ文明の創出     (14 )
②人口四四時代        ( 9 )
③知的財産権を力に      ( 7 )
④新エリート教育       (16.5 )
⑤スピリチュアル時代     (10 )
⑥ハシズムと憲法改正     ( 3 )
⑦イラン攻撃迫る       ( 1 )
(以上,2012年4月15日記)

Ⅲ 7つのテーマの説明

テーマ1 「対中メタ文明の創出」
 日本は現在「強大化する中国の東アジア共同体に呑みこまれる〈日中韓〉」か「〈日韓米〉の同盟をより強くして中国に対抗する」かの選択を迫られていることを認識しなければならない。
 民主党政権(日本の)はこの点全く当てにならず日本は噴火山上に昼寝している。鳩山・小沢氏は中国に拝跪し「東アジア共同体」の美名に憧れている。野田首相はやっとのことでTPPにとっついて〈日韓米〉に軸足を置いたようだが,もう一つはっきりしない。
 中国は2030年には米国の180%の経済力を持つ世界一の大国になる(参考:The Economist, Sep.10,2011;Subramanian著Eclipseを引用)。この趨勢に伴い,中国の軍事力も急上昇中で対外野心また露わになってきた。鼻息荒い中国の前で早く日本は方向を定めなければならない。
 もはや一国では対抗できない。しかし,団結の基礎はあるか? ここにおいて〈日韓米〉を中核とする新文明「メタ文明」を創出し,その基礎とすることを提唱する。
 ここでいう「文明」とは,抽象的な状態をいうのではない。具体的に地球上にかつて存在し,変化しつつ今も強く存在する,人類集団の単位である。抽象的なものでないから今地球上に10か20と数えられ,英語ではcivilizationsと複数でいう。
 文明は一国や一民族と同等(例: 日本文明,中国文明)か,それより大きな(例: 西洋文明,イスラム文明)規模を持つ。
 おのおのの文明は,それぞれ独自の共通言語と基本宗教を持ち,その力で固く凝集している。
 西洋文明はラテン語という共通言語(今英語に取ってかわられつつある)とキリスト教という基本宗教を持ち,イスラム文明はアラビア語とイスラム教を持つ。日本文明は日本語と「日本教」を持つ(山本七平の発見。日本ではクリスチャンも日本教キリスト派にすぎない)。中国文明は中国語を持つが基本宗教(かつて儒教)を失い(批林批孔,マルクスも放棄),価値が混乱している。
 おのおのの文明の中ではおのおのの宗教の生み出す価値体系があり,国境を超えて人々の行動をコントロールしている。価値体系は,言わば文明の幹線道路であり,そのおかげで人々は自発的に協力し,能率的に事を運ぶ。
 200年来の近代国家と資本主義は今共に病んでいる。それを討議した今年2012年1月のダボス会議では,どうやら資本主義は仕えるべき価値体系を見失っていると指摘された。同会議でSharan Burrow女史曰く―We do need transformation, but the question is, What set of values should capitalism serve? (TIME, Feb. 6, 2012)
 中国の国家資本主義は世界の病める近代国家と資本主義を救うものだろうか?(The Rise of State Capitalism―英誌「エコノミスト」 Jan. 21, 2012 のカバーストーリー)
 No! それは,恐怖とマンモン(金のみの神)の支配する抑圧の文明(「文明」の名にさえ値いしない)である。
 将来近代国家と資本主義が仕えるにふさわしい新しい価値体系を持つ一つの新文明(メタ文明)を〈日韓米〉を中核にして創出しよう。
 すでに〈日韓米〉は共通言語(英語)と基本的宗教了解(信教の自由)を成長させつつある。戦争と植民地化の過去はあるが,「過ぎたこと,兄弟喧嘩のようなもの」にだんだんなって行き,一方共通の価値観は強く育っている。
 この新文明の基本宗教は,キリスト教と仏教の調和したメタ宗教(それぞれの民族宗教も尊重しつつ)となろう。
 新文明の持つ共通の価値は,自由(信教の自由,経済の自由),民主,人権,法の支配,多人種の統合,平和と繁栄などである。これらを高く掲げて,かの抑圧文明の民に見せよう。
 外交,防衛は,この価値に従い,この価値を守るために新文明として結束して行なう。
 新文明は従来の国家や文明を超えたものであるから「メタ文明」とよぶ。 世界平和教授アカデミーは,メタ文明の創出へ向けて,科学的基礎と霊的ビジョン,価値体系を提供するシンクタンクである。 前回の理事会のテーマ「これからの40年」をタテの未来戦略とすれば,このテーマ1はヨコの世界戦略である。現在の政権がタテもヨコも怠っているので民間から止むを得ず,提唱する。乞う,了とせられよ!この研究は,ビジョンの会などと協力して行なう。

テーマ2「人口四四時代」
 2060年には日本の人口は今より4000万人減り,8674万人になる。高齢者(65歳以上)は,その四割(39.9%)を占める(2012年1月30日厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所発表,同日夕刊一面で各紙大きく報道)。
 この空恐ろしい状態へ近づいて行く時代を「人口四四時代」と呼ぼう。
 人口条件は,ゆっくりと,しかし,じわじわと絞め木で絞めるように強く容赦なく社会全体を絞め付けて行くものである。その対策は早くから着々と実行しなければならない。
 しかし,現政権は目の前の政局にあたふたしていて,こういう長期的・総合的・大規模の対策は全く出来ていない。厚生労働省だけでも駄目である。 止むを得ず,本アカデミーが対策を提供する。秘策はある。

テーマ3「知的財産権を力に」
 工業時代から情報時代への大転換に日本はどう対応したら良いか?
 情報産業は工業とどう違うか?
 「知的財産権」から一字漢字を三つ拾って小見出しにしよう。
〈財〉 情報は売れる。工業時代にモノだけが商品だと思い込んでいたのは間違いだった。しかも情報は高く売れる。GEの所得120億ドルに対してAppleの所得は260億ドル(TIME,Feb.20,2012.p12)。前者はモノ作り,後者は情報作りである。アップルのiPadは,モノとしては中国で作っている。設計という情報を米国のアップルが作っているのだ。
〈権〉 その情報は知的財産権として守られている。中国と言えども盗めば罰せられる。
〈知〉 情報を生み出すのは人間の知能とインスピレーションである。その人間を高い報酬で招く。
 日本はこれから,この,情報と情報を生む人間に賭けて行かなければならない。
 工業は比較的簡単な労働者と機械設備とエネルギーに拠っているから新興国に奪われる。日本に残る工業は,「まごころ産業」とも呼ぶべき,手に心をこめて作るもの(日本人の得意の職人仕事)だけになるかもしれない。原料産業に至っては,日本からほとんど消滅するだろう。
 日本が情報産業国として成功するには,どんな政策を取ればよいか?
〈参考〉加藤栄一著『日本の未来』,加藤講義「情報産業論」

テーマ4「新エリート教育」
 「エリート教育」とは少数の特権階級をつくって驕り高ぶらせることではない。
 「ノーブレスオブリージ」率先して先頭に立ち,世のため,人のため,国のため,世界のため,神のために献身する高い価値観をしっかり身に付けているのが真のエリートである。
 残念ながら,戦後旧制中学,旧制高校を失い,高い価値観を育む学校が無いため,高級官僚さえ保身と安楽に汲々としている現状である。これでは日本はあぶないが,「エリート教育」はとかく誤解と反感を生み,叫べども求めるとも,なかなか国民は聞いてくれない。
 次の世代に責任を持つより次の選挙が大事の政治屋どもは全く当てにならない。 この状況下に文部科学省は小手先の改革を試みるが「いじるほど教育制度悪くなり」となっている。
 明治の先人が思い切った素晴らしい学制を創出したのに匹敵する大改革を大政治家が断行すべきである。明治には,在野からも福沢諭吉その他そうそうたる先覚者が教育創出を主唱し,実行もして政府を引っ張った。今本アカデミーも案を立て大政治家(「いるの?」という声もあろうが…)に提供したい。
 明治初期は日本の工業時代の始まりであり,新しい教育はよくその時代にマッチした。今再び大きな時代が始まっている。情報時代にマッチした新しい教育が必要で,まず明確なビジョンと価値観と目標を示さなければならない。政策や制度はそれに従う。
 一案として「ECOLE」と言う新エリート教育案を示そう。Education for Creators, Organizers, Leaders and Educatorsの頭文字で,かつ,フランス語のエコール(学校)はフランスの最高学府エリート校の名ともなっている(エコール・ノルマル・シューペリエール,エコール・ポリテクニク,ENA)。
 東大は,「大学」の名を捨て,正式名称を「エコール東大」(ECOLE Todai)と名乗る。他の少数の新エリート教育校も「エコール京大」(ECOLE Kyodai)などと名乗り,「大学」の名を捨てる。「大学」の名は他の大学にゆずるが,新エリート教育校以外には,「エコール」の名は使わせない。
 新エリート教育では,情報時代にふさわしく,創造者(Creators)を生み出すことを大きな目標とする。日本の強味である組織人(Organizers)も育てる。これは組織の中で創造者を押しつぶさない組織人でなければならない。指導者(Leaders)を鍛えるのも新エリート教育の大きな目標である。若いうちに価値観と体力,胆力をきたえる。
 エコール入学までは暗記教育で選抜するが,エコールに入ってから特待生になるには,次の資質が試される。
〈C〉異常なほどの想像力,発想力,結びつけ力,転換力
〈O〉対人能力
〈L〉価値観,体力,胆力,リーダーシップ
〈E〉説明力,感化力,教えたがり,教祖性
 エリート以外も救う「まごころ教育」を別に展開する。
 この研究は本アカデミーと『圓一』の協力で行ない,世界平和教授アカデミー活動計画との整合をはかりつつ世間へ広めて行く。

テーマ5「スピリチュアル時代」
1.スピリチュアル時代(これからの40年)の展望
 人は体・知・霊の3つから成る。体と知の欲求がほぼ充足した現在,これからは霊の充足が強く求められる世の中になるのではないか? これは宗教にとって一つの「機会」ではないか?
 一方,科学の発達はいちじるしく,宗教の奥の院(見神の秘密)にまでその目は迫っている。若い世代はそれに引きつけられている。この科学の攻勢は宗教にとって一つの「危機」ではないか?
 この時代,伝統的宗教の修行・布教の方法で十分だろうか? 宗教は,この際,科学を学び,「科学と宗教の統一」を図らなければならないのではないか? そして,より高次になった宗教が,人々の霊の充足への欲求に応え得るのではないか?
 団塊の世代が定年に達した現在,広い知識と人生経験,そして余暇と余裕のある世代の大群が出現したのである。しかも,この,人々はコンピュータの管理の下,仕事のストレスに喘ぎ,うつ病が激増した世代である。これは,宗教にとって「危機」でもあり,「機会」でもあるのではないか?
2.悟り・見神への道
 多くの宗教・擬似宗教は,救いの道として,教祖を信仰する他に,教祖自身に倣って悟り・見神を体験しようと努力して来た。その道は,修行,臨死,ドラッグ,精神異常などであった。オウム真理教は,危険な存在だが,その全てを試そうとした。
 ドラッグは,危険であるが,物質であるから,科学実験と同じく,追試・再現が可能である長所を持つのではないか? 座禅は釈迦成道を再現しようとする実験であるが,安座だけして,牛乳粥を飲むという条件を欠くのは科学実験として不十分ではないか?
 これからは精神異常からの悟り・見神が増えるのではないか? うつ病とそれからの回復は,死と復活を味わわせるし,統合失調症(旧名: 精神分裂病)は異次元の不可思議不可説を体験させるからである。
 悟り・見神の体験は,その人の一生を全部変える強い力がある。大きな運動をも生み出す力がある。皆がこれを求める(求道)のも当然ではないか?
 この時代「60からの転職」と共に「60からの求道」も盛んになるのではないか?
 「読書による求道」も盛んであろうが,真師に接しなければ「声聞(しょうもん)」の境地から上がれないのではないか?
 その上の「菩薩(ぼさつ)」の境地へは「為に生きる」ことで入ることができるのではないか?
3.産業としてのスピリチュアル
 スピリチュアル時代のキーワードは「エクスタシー(恍惚たる歓び)」として良いか?
 人々はエクスタシーを求め,諸産業がこれを供給するだろう。既にパチンコ・エクスタシー産業は年間20~30兆円の規模に達している。この時代,スピリチュアル産業乃至エクスタシー産業はGDPの何パーセントを占めるようになるだろうか?
 悟り・見神のエクスタシーを最高として,多くの種類のエクスタシーがある。それらはどういう関係にあるのだろうか?(茂木健一郎監訳『脳はいかにして〈神〉を見るのか』は見神エクスタシーは他のエクスタシーと共にセックスのエクスタシーを生む神経回路が進化して生み出したと推定する。究極の唯物論だが,まだ神罰は下っていない。)
 産業界一般にとってスピリチュアルはどんな積極的意味を持つだろうか?
 社長及び社員の頭脳と行動及びパフォーマンスをそれは良化しないだろうか?
 (加藤「PBMI System」仮説参照)
注: このテーマは世界平和教授アカデミーの前回理事会の討論テーマ「これからの40年の三本の柱」の一つの発展である。

テーマ6「ハシズムと憲法改正」
 ハシズム(大阪市長橋下徹氏率いる大阪維新の会の政治運動)は,「八策」を発表し,憲法改正を提唱し,広い支持を獲得するに至った。
 「参議院の廃止」など耳目を引くものもあるが,最も注意するべき点は,憲法改正の手続きそのものを改正するという案である。今の超硬性憲法とも言うべき改正超困難な憲法を改正し易くすると言うのである。これさえやっておけば,後はいつでももっと重要な憲法改正をどんどんやって行けるからである。
 文学者の直感は,時にはシンクタンクの仕事を助けることがある。『小説フランス革命』『日本の1/2革命』の著者佐藤賢一氏は鹿島茂教授らとの座談会で,橋下徹はロベスピエールかナポレオンか,という怖るべき推論(仮説)へ鹿島氏を導いている。日本の戦後の民主主義革命はフランス革命の前半にあたるのみで,これから強硬派の恐怖政治の後半が始まるかも知れないというのだ(『週刊文春』2012年3月15日号)。
 まさかハシズムは天皇をギロチンにかけるところまでは行くまいが,仮に被差別者のルサンチマン(怨念)の火が民衆の不満の枯草に燃えついた場合,大山火事にならぬとも限らない。第二次,第三次のハシズム憲法改正で「皇室の廃止」「非常大権」(今や1院のみになった国会の同意も無しに法をどしどし作る)などまで視野に入れて,このテーマを熱心かつ冷静に突き詰めて考えたい。
参考: 加藤栄一他著『「新憲法」を提案する』(1984年。国立国会図書館蔵)

テーマ7「イラン攻撃迫る」
1.現在の状況
 イスラエルは,イランからの脅威(大統領が「イスラエルを地図から抹殺する」と公言。核兵器を製造中)に対し,今年2012年4月にもイランを先制攻撃して核兵器製造・展開施設を破壊すると観測されている。対抗して,イランはホルムズ海峡を封鎖するだろう。[差し迫っていて,急展開する問題なので,本アカデミーが取り扱うのに適しないテーマかも知れないが,逆に緊急に検討の必要なテーマかも知れない。防衛大臣があまりにも頼りないので黙視できない。]
 外交・軍事・経済の具体的問題,大戦略,文明論の3つのレベルで論じよう。
2.外交・軍事・経済の具体的問題
 イスラエル単独の爆撃は,可能か,物理的には成功するか?
 米国は,どこまでイスラエルに協力するか? 大戦争に発展するか?
 日本の自衛隊は出動するか? 憲法解釈上可能か? イラン在留邦人の救出,ホルムズ海峡の掃海,米軍への補給,戦闘参加などは?
 米国国防省高官は友人の元大蔵省高官U氏に,「イランにホルムズ海峡封鎖の能力は無い」「もし,封鎖しようとしても米軍は同盟国(日本)のタンカーを護る」と言ったが,これは米国の日本に対する誓約と受け取って良いか?
 日本への石油の80%が通過するホルムズ海峡が封鎖された場合,日本の石油備蓄は十分か?何日分あるのか? 『油断』(堺屋太一著)に描かれたようなパニックになるか? ホルムズ海峡の代わりに紅海へ出る陸上パイプラインは使えるか?
 核施設へのサイバー攻撃やイランの核科学者暗殺は,イスラエルがやったのではないか? 戦争は,既に始まっているのではないか?
3.戦略的評価
 イランのイスラエルに対する脅威が根本であるが,脅威とは,一国を攻撃する意志(意)と攻撃する能力(能)とから成る。
 (脅)=(意)×(能)
 この等式で右辺の(意)か(能)のどちらか1つ又は両方が0になれば左辺の(脅)も0となる。イスラエルはこれを実行しなければならない。
 イスラエルはイランの(能)を0に出来ないのではないか? 爆撃では物理的にも破壊し尽くせないだろう? イランは金の力で北朝鮮から核とミサイル(の技術など)を受け取って再建し(能)は,前以上にも成るのではないか?(参考: 加藤栄一著『オトナの社会科』44ページ以下の「原爆の作り方」)
 イスラエルの攻撃によりイラン人のユダヤ人への反感は爆発し,(意)の増加は(脅)をもっと大きくすることになり,イスラエルの安全はいよいよ危なくなるのではないか?
4.文明論的解決
 イスラエルとイランの対立は根本的にはユダヤ文明とイスラム文明の対立である。宗教と言語と価値観を両方が賭けている深刻な対立である(参考: ハンチントン『文明の衝突』)。従って,この対立は,文明論的に解決するのが,永遠の平和のためにベストではないか?
 ユダヤ文明側は旧約聖書の「ヨシュア記」の一部(ユダヤ民族による現地人殺戮・占領による旧イスラエル建国を神の命令として正当化する部分)を聖典としては放棄したらどうか?(日本文明もマッカーサーの「神道指令」で文明の一部を放棄した前例がある。)
 イスラム文明側は,コーランの中で,ユダヤ人を攻撃している部分をイスラム法学者の「解釈」の力で修正したらどうか? (コーランの他の箇所ではユダヤ人を敵視していないから,この解釈ー聖典と同じ権威があるーは可能ではないか?)
 両方の文明より高次のメタ文明・メタ宗教の体現者が仲介し,ユダヤ人の富で国土の償金を払い,アブラハムの子孫同士の新しい契約をすることにより,永遠の平和が生まれるのではないか?
(2012年3月20日)<初出『世界平和研究』2012年8月夏季号,No.194>