世界平和と宗教の役割

林 正寿(平和政策研究所代表/早稲田大学名誉教授)

1648年に締結されたウェストファリア条約により,普遍的,超国家的な権力による単一のヨーロッパの統治は断念され,対等な主権を有する国民国家が国益を追求する国際秩序が形成された。またその後の啓蒙思想は,人間本来の理性の自立を提唱し,宗教の重要性を否定した。現代の先進諸国において政教分離が基本原則とされ,国政術において宗教は軽視され失われた次元と化している。

 しかし,冷戦後の世界において,地域主義と宗教の再台頭は顕著である。宗教に対する新しい態度と宗教復興運動が,あらゆる文明圏で発生している。多くの政治家や知識人は,近代化や経済発展により宗教の役割はますます縮小すると考えているが,現実には西洋化と産業化により疎外され自分が分からなくなった大衆は,アイデンティティの復活と救済を求め宗教に強く惹きつけられている。冷戦後に出現した新たな世界秩序において,最も深刻な脅威は,主要文明の相互作用によって生ずる文明の衝突であるが,文明を規定する主要因は宗教である。

 人類史上,宗教は諸刃の剣であり,一方では紛争の原因となり,民族浄化も含む大量虐殺などの惨事を生み出してきた。しかし,他方では宗教は,紛争の仲介者として和解をもたらす大きな潜在能力を有しており,第二次世界大戦後の現代史においても,激しい憎悪と敵対関係にある当事者間に和解をもたらす多くの実績を上げている。仏独間の和解,フィリピンの1986年革命における平和的政権移譲,南アフリカの人種隔離政策の終焉,ナイジェリアの内戦の回避においても,宗教指導者が活躍し宗教が重要な役割を果たした。

 宗教は道徳の基礎であり,真実を語り平和を推進する力であると人々は信じている。世界にはさまざまな宗教が存在するが,『世界経典』が示すように,どの宗教も基本的には愛と平和をはじめとして同じ内容の教えを説いている。国連に超宗教議会を設立して世界平和への貢献度を高めようという文鮮明師の国連改革案は,時代遅れの荒唐無稽なものではなく,現代世界において適切で効果的な提案であると思われる。
(『世界平和研究』No.199,2013年11月1日号より)