北朝鮮の動向と日米韓防衛協力

太田文雄 (元防衛大学校教授)

<梗概>

 北朝鮮は長年核・ミサイル開発を進めてきたが,今年に入り立て続けに核実験・ミサイル発射を行った。北朝鮮の核・ミサイル開発は,米国を交渉の場に引き出すための交渉材料だとの見方もあるが,国家存亡のための軍事的抑止力を保持するところに本音があると見られる。朝鮮半島有事および中国の海洋進出に伴う国際安全保障の危険性が高まる中で,資源を海外に依存し似たような環境にある日本と韓国は,歴史問題を超えて米国との連携を図りつつ緊密な防衛協力関係を築いていくことは,喫緊の課題である。

1.激動する朝鮮半島情勢

(1)北朝鮮の核開発の目的
 北朝鮮は今年2016年に入り核実験を行い,「水爆実験」と称しているが,実際のところは恐らく核兵器の小型化を狙った核実験の一環と見るのが正しいのではないかと思う。その後,2月には「弾道ミサイル発射」も行った。こうした一連の北朝鮮の行動について,日本の主なマスコミは,概ね次のようなコメントをしている。「米国を対話の場に引き出すための交渉材料(bargaining chip)として核・弾道ミサイル実験をやっている」と。しかし私は,北朝鮮は(建国直後から)米国の核の恐怖におののかされてきたので,国の存亡のために核兵器を持ちたいという確固たる考えをもってやってきたと思う。単なる(米国との)交渉材料というレベルの問題ではないと考えている。
 以前,私が防衛庁の情報本部長を務めていた2004年,自民党の国防部会に招かれて話をしたことがあり,そのことがNHKのニュースでも報じられた。そのとき私は,「北朝鮮の核開発は核兵器の保有,軍事的抑止力をもつことが目的であって,交渉材料ではない」と述べた。
 かつて北朝鮮は,朝鮮戦争のときに米国の核使用計画を知って以来,米国の「核の脅し」を潜在的に感じてきた。そして最近は通常兵器について言えば,歩兵や装甲車など兵力の量的面では,北朝鮮が韓国よりも上回っているだろうが,ネットワーク型兵力の観点から比較すると米韓側が北朝鮮を大きく上回っている。その不均衡を覆す目的で北朝鮮は,核開発を追求していると見られる。それに加えて,核兵器を搭載する弾道ミサイル開発,そして特殊部隊,サイバー攻撃に重点をおいている。
(2)韓国の「核武装論」
 最近,韓国では「核武装論」が高まっている。例えば,産経新聞の「正論」で趙甲済氏(『月刊朝鮮』前編集長)は,次のように述べた(2016年2月5日付)。
――北朝鮮の核ミサイルの脅威にさらされる韓国と日本が「自衛的な核武装」を試みることができないのは,正常ではない。・・・
 韓国の立場から見れば,北朝鮮の核武装を防げない米国の「核の傘」は半分,破れているのも同然である。韓国は北朝鮮に対する米国の生ぬるい対応を信じられなくなっている。・・・
 過去30年間,北朝鮮が主導して中国が事実上,進めさせた「朝鮮半島の核ゲーム」は,北の核武装を招き,韓日の対抗力が後退した。ゲームの規則を変えねばならない時が来ている。韓日が“ゲーム・チェンジャー”にならなければならない。・・・
 また国家基本問題研究所の「今週の直言」(2016年2月15日付)で,元韓国駐日公使・洪熒氏は次のように述べた。
――韓国が米日と協力して北側の核戦略を無力化し,「韓半島の核のゲーム」の主導権を中国・北側から奪うにはどうすれば良いか。それは,韓国が核拡散防止条約(NPT)から脱退を宣言することだ。NPT第10条は脱退の権利を認めている。尋常でない時代には尋常でない決断が避けられない。・・・
 米国は憲法で銃器の所持を保障する国だ。同盟国の自衛のための核武装を止められるはずがない。日本も韓国の努力を支援すべきだ。そうしてこそ中国・北側からの「東アジアの核ゲーム」の主導権を奪うことができる。・・・
 とくに最後の「日本も韓国の努力を支援すべきだ」の部分は,これまで韓国が実施して来たジャパン・ディスカウント作戦から納得しかねる部分だ。現実問題として韓国の核武装は非常に難しい選択だと思う。かつて朴正煕大統領のとき核開発をしようとしたが米国の圧力で断念したことがあった。カーター政権の地域計画担当国防次官補代理を務めたポール・ウォルフォウィッツ氏は,「(韓国の選択は)米国との同盟を死守するか,核武装をするかの二者択一だ。両方を持つことはできないと言って,当時朴正煕大統領に諦めさせた」と述べている。現実問題として,米国の意向を無視して韓国が核武装を進めることは難しいのではないか。
 そしてNTP脱退は国際的孤立を意味する行動であって,例えば,原子力発電に使うウランの輸入ができなくなるなど,国際社会から何らかの制裁を受けることになる。韓国のエネルギー源は原発が約3割を占めており,NPT脱退によってそれが稼動不可能となる。その意味で,NPT脱退論は,そうした現実を考えない議論と思われる。

2.北朝鮮のミサイル開発と技術拡散問題

(1)ミサイル発射と日韓の情報協力
 今回(2016年2月)とほぼ同じような北朝鮮による弾道ミサイル発射は(テポドン2号改良型),直近でいうと2012年4月に行われた。このときは,平安北道にある東倉里付近から発射されたが,打ち上げ後に空中分解して失敗したと見られる(同年12月には成功)。
 当時,韓国のイージス艦が黄海に展開しておりミサイル発射をキャッチした。日本のイージス艦は日本海と沖縄周辺海域に配置され待機していたが,レーダー水平線上にミサイルが到達する前に落ちてしまったために探知できず,弾道ミサイル発射情報に関して,日本政府の発表が数時間遅れることになった。
 仮に,日本のイージス艦と韓国のイージス艦がデータリンクで結ばれていれば,韓国のミサイル発射直後の情報がリアルタイムで日本側も共有することができ,そういうことにはならなかっただろう。
 日米韓の防衛協力について言うと,日米間には日米同盟があり,韓米間には韓米同盟があってそれぞれ二国間の緊密な防衛協力が行われているが,日韓間にはそうしたものがない。そこで以前から日韓の防衛関係者はそれを改善する必要性を感じていて,軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結を推進しようとしていた。実際,2012年には締結寸前までいったが,調印直前になって韓国側から断ってきたという苦い経緯がある。そのため現在でも,日韓の間では直接軍事情報の交換ができない。今回の場合も,直接韓国と日本がリアルタイムでの情報交換ができていれば北朝鮮の動きに対する対応力がかなり向上することは間違いない。
 もうひとつは,終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備問題である。THAADの韓国配備は,西側全体の弾道ミサイル防衛において有意義なステップであるが,日韓間の情報交換ができる体制があれば,日本の安全保障にとっても有効なものとなりうる。この意味でもGSOMIAの締結は,喫緊の課題であると考えている。

(2)弾道ミサイルの種類と狙い
 北朝鮮の弾道ミサイルには5種類ほどあり,射程距離の短い方から,スカッド,ノドン,テポドン1号,ムスダン,テポドン2号である。さらに最近ではKN-08というのも登場している。それぞれに目的がある。

• スカッド:射程距離300-500キロ。韓国および在韓米軍を狙う。
• ノドン:日本のほぼ全域をカバーする。ノドン開発の目的は,とくに在日米軍を叩くためだ。朝鮮戦争のときに北朝鮮が勝てなかった最大の原因は,日本の在日米軍による戦力投射だったと北朝鮮からの亡命軍人が証言している。
• テポドン1号:射程距離約1500キロ。現在のところ,その後開発生産している兆しは見られない。改良型であるテポドン2号の一ステップと見られる。
• ムスダン:おそらくグアム島を狙っている(射程距離は約4000キロ)。米軍爆撃機B52やB1などは,グアムに展開しており,そこを最初に叩くことが北朝鮮として最大の目標となる。
• テポドン2号:射程距離が1万から1万5千キロといわれている。最近,テポドン2号がようやく米本土まで届くかのように表現するメディアがあるが,実際には既に2001年12月の段階で,National Intelligence Estimates(米国家情報会議が作成する「国際情報評価」)に「数百キログラムのペイロード搭載で北米大陸を収めるのに十分な距離1万5千キロの射程を持つ」と述べられている。
• KN-08:2012年4月の軍事パレードでお目見えしているが,この発射車両は中国製である。この弾道ミサイルの狙いはよくわからないが,ムスダンよりも射程距離が長く,大陸間弾道弾ミサイルであることは間違いない。ハワイの米太平洋軍司令部などを狙っているのではないか。
 ムスダン,テポドン1号,テポドン2号は,すべて燃料は液体燃料を使っている。ムスダンは1962年に開発された旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイルであるR-27(識別番号SS-N-6)の燃料「非対称ジメチルヒドラジン」という液体燃料を使っている。
 弾道ミサイルの燃料として液体燃料と固体燃料では,どちらが脅威と言えるか。実は,固体燃料の方が脅威だ。液体燃料は有毒性を持ち,予め注入しておくと腐食する可能性があるので,発射直前に注入することになる。そのためミサイル発射に際しては,まず弾道ミサイルをサイロから出して起立させ,液体燃料と酸化剤を注入する。ところが,燃料注入には相応の時間がかかる。例えば,テポドン1号の場合は数時間,テポドン2号改良型となると十数時間を要するので,その間に偵察衛星によって察知できれば,われわれとして警戒態勢をとることができる。
 ところが,固体燃料の場合は,サイロから出して即座に発射することが可能だ。そのためにわれわれが警戒態勢を整える前に奇襲攻撃を受けてしまいかねない。その意味でも,固体燃料の方が脅威なのである。ちなみに,中国の弾道ミサイルDF-21,DF-15,DF-11などは,すべて固体燃料を使っている。

(3)核・ミサイル技術の拡散
 先述のように,北朝鮮の弾道ミサイルの燃料技術に関しては,中国や先進諸国と比べると遅れてはいるが,第三国との技術交流によってあっという間に遅れを取り戻すことが可能だ(核・ミサイル技術の拡散)。
 イラン政府は公式的に否定しているが,事実上,弾道ミサイル技術を北朝鮮から導入している。ノドンをベースに開発されたミサイルは,イランでは「シャハブ-3」,パキスタンでは「ガウリ」と名前を変えている。2008年にイランは地対地中距離ミサイル「セジル」を試験発射したが,これは固体燃料を推進剤とするミサイルだ。
 2011年11月にイランのミサイル基地で大爆発があったが,そのとき北朝鮮技術者5人が死亡した。逆に,北朝鮮がミサイルを発射するときにはイランの技術者も視察に来ているほか,2012年の時点でイラン軍事代表団が北朝鮮に常駐していたことが確認されている。
 学会等で北朝鮮とイランの軍事協力関係について述べると,イラン大使館関係者が,「イランは北朝鮮と軍事技術協力は絶対にやっていない」と強く発言する。それだけ強く否定するということから推測すると,恐らく協力関係があると思われる。
 シリアの核関連施設をイスラエルが空爆で破壊したことがあったが(2007年),その核関連施設は北朝鮮が支援して作られたとされる。イエメン沖で摘発された北朝鮮カーゴからスカッドミサイルが発見されたこともあった(2002年)。
 このように核およびミサイル技術が国際的に拡散していくことによって,国際安全保障環境がどんどん悪化している。北朝鮮にとっては,イラン,パキスタン,シリアなどに核・弾道ミサイル技術を輸出することで外貨獲得戦略に結びついているとみられる。
 こうした核・ミサイルなどの技術拡散をなんとか防止して国際的な安全保障環境を良くしていくとともに,北朝鮮の軍事資金を断ち切るという目的をもって米国を中心にできたのが「拡散に対する安全保障構想(あるいは大量破壊兵器拡散防止構想)」(PSI=Proliferation Security Initiative)である。現在,約100カ国が加盟している。2009年に韓国・ソウルで行われた北朝鮮の大量破壊兵器に関する国際会議で中国の代表は,PSIには絶対に加わらないと言っていた。
 このPSIを効果的に遂行するためには,日米韓の協力が不可欠だ。例えば,ある北朝鮮の船舶について怪しい(大量破壊兵器,弾道ミサイルを積載しているのではないか)と日本の情報機関が察知した場合,軍事情報の交換協定がないと韓国に対して情報提供はできない。逆の場合もあるだろう。こうしたことを可能にするためには,日韓間の防衛協力が欠かせない。

3.海上交通路の安全確保

(1)南シナ海の支配を狙う中国
 中国は南シナ海に人工島を作り,そこに船舶が入れる港および航空機が発着できる滑走路を整備している。中東地域からエネルギーを運搬してくる日本や韓国の船舶は,インド洋を経由して,シンガポールのマラッカ海峡を通過した後,必ず南シナ海の南沙諸島付近を通過している。エネルギーシーレーンの8割がこの地域を通っている日本にとって安全保障上重要な問題であるが,事情が似ている韓国にとっても,当然海上交通路の防護という問題は懸念事項であるはずだ。
 中国が積極的に軍事拠点化を進めている箇所として,南沙諸島,そしてその北側にあるスカボロ礁(中沙諸島の一部),西沙諸島の北東部にある永興島がある。最近,永興島(英語名Woody Island)に中国の地対空ミサイル「紅旗9」(HQ-9)が配備されたことが確認された。
中国の狙いは何か。南沙諸島,スカボロ礁,永興島の三箇所に囲まれた三角形の中に,中国のSLBM搭載の潜水艦を配備しようとしていると思われる。かつて冷戦時代に,旧ソ連がオホーツク海に潜水艦を遊弋させて「聖域化」したのと同じ考えである。
 事実,海南島の南端にある三亜という海軍基地には,最新のSLBMを搭載した晋級原潜が既に3隻配備されている。3隻あれば,1隻は整備,1隻は訓練と移動,そして残りの1隻で常時パトロールすることができる。最新型の晋級戦略ミサイル原潜が搭載しているJL-2という水中発射型弾道ミサイルは,射程距離が約8000マイルであり,南シナ海から米本土までは届かない。しかし1万マイルを超える弾道ミサイルに更新されると米本土まで到達できるようになる。
 重要なシーレーン,海上交通路は,日本だけではなく韓国にとっても非常に重要であるはずだ。現在,米国は「航行の自由作戦」を南沙諸島や西沙諸島に展開している。2015年10月末,米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」が南シナ海の南沙諸島で中国が建設している人工島の12カイリ内を通過した。その後,豪空軍の監視偵察機がこれに同調する形で,南沙諸島をパトロールした。最近は,インドもそれに参加するという話が,米印防衛当局者の間で出てきている。
 日本は2015年6月に,南シナ海の南沙諸島近くのパラワン島を拠点に,日比合同演習を行い,海上自衛隊のP3Cが参加,公海上空をフィリピン海軍の小型哨戒機とともに飛行した。やろうとすればできるのだが,常時警戒態勢をとるには,日本近海の警戒監視や人員・予算の問題もあり,現状は極めて厳しい状況だ。もしやるとすれば,アデン湾に向かう途中,あるいは帰ってくるときに,南シナ海を米軍と共にパトロールすることは可能だろう。
 ただ,こうしたことに関して韓国の積極的発言はない。恐らく中国に対する遠慮から来ているのかもしれないが,最近の北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射などの情勢変化で朴槿恵政権の外交安保政策にも若干変化が出てくる可能性もある。

(2)対馬海峡防衛の意義
 中国は香港からポートスーダンまで延びる「真珠の首飾り」という海上交通路戦略を持っている。この東側の延長として2013年春に中国は,韓国の巨済島の港湾施設の長期借用を提案してきた。さすがに韓国も,国防省が反対して計画は頓挫したようだが,巨済島は釜山の南西に位置する韓国で2番目に大きな島で,現在では釜山との間に巨加大橋が開通している。しかも韓国海軍士官学校の目の前にある島で,そこに中国の基地ができた場合は,韓国海軍にとって脅威に他ならない。さらに巨済島は対馬海峡に面しており,そこを中国海軍がコントロールすることになると,日本にとっても安全保障上やっかいなことになる。
 2016年2月に防衛省は,対馬の南東沖の接続海域内を外国潜水艦が潜航しているのを確認したと発表した。対馬海峡には,東水道と西水道がある。東水道は日本の対馬と九州の間であるから日本がコントロールできるが,西水道は日韓の間に位置するので日本が一元的に管理することはできない。対馬には海上自衛隊の対馬防備隊があり,対馬近海および対馬海峡を航行する船舶の監視を行っている。いずれにしても,日韓の防衛協力がきっちりできていれば,外国潜水艦が西水道を通ろうが,東水道を通ろうが,探知して対応することできる。
 それではなぜ,対馬海峡の防衛が重要なのか。地球温暖化の影響で,北極海の氷が解けて北極海航路への期待が高まる中,これまで中国は欧州や中東地域との貿易においてマラッカ海峡を経ているが,北極海航路ができると,北極海から津軽・宗谷海峡,対馬海峡を経るルートが開かれてくる。その意味でも対馬海峡の戦略的重要性は高まることになる。中国海軍艦艇の対馬通峡について日韓がいかに連携・協力してコントロールするかが重要課題になってくる。

(3)朝鮮半島有事に重要な日本
 朝鮮半島有事の場合,日本は米軍の戦略投射においてきわめて重要な役割を果たすことになる。韓国にとって見れば,生存に関わる問題だ。
 1950年6月に北朝鮮の南進によって勃発した朝鮮戦争で,韓国は北朝鮮軍に一気に攻められて,半島の最南端を残すところまで追い詰められた。それを巻き返したのがマッカーサー将軍による仁川上陸作戦だった。その記念館(仁川上陸作戦記念館)が仁川にあり,そこには作戦展開図が矢印で描かれているが,その矢印の根っこが日本になっている。つまり日本という後方支援母体がなかったら,あの作戦は展開できなかったのである。
 従って,今後,朝鮮半島有事の場合に,米軍は日本の港湾や空港から戦力投射をしないと朝鮮半島に対する戦力展開ができない。しかしこの事項は,1960年の岸・ハーター交換公文で定められた日米安保条約の事前協議の対象となっている。もし仮に事前協議で日本が「ノー」といえば,米軍を主体とする国連軍は朝鮮半島に戦力を投射することができなくなってしまう。従って,韓国としては死活的問題である。
 また北朝鮮は,戦争状態になったときに港湾に機雷を撒く作戦をすることが予想される。韓国海軍にも掃海能力はあるが,日本の掃海能力は,見方によっては世界でも最高水準だといわれている。
 朝鮮戦争のとき,米軍を主力とする国連軍は朝鮮半島の東岸からも上陸作戦を敢行しようとしたが,北朝鮮軍が撒いた機雷が元山付近に敷設されていたために履行できなかった。そこで国連軍は日本政府(海上保安庁)に掃海作業を要請し(当時は,まだ自衛隊はなかった),日本は特別掃海隊を派遣して掃海作業を行った。その掃海作業の際に殉職者が出ている。
 それは,かつて先の大戦中に米軍が瀬戸内海に敷設した機雷を戦後一貫して,平時にありながら掃海作業を行ってきた実戦的経験からノウハウの蓄積があったためだ。さらに日本の対潜能力も優れており,この面でも貢献できると思う。

4.日韓防衛協力の難しさ

 しかし現状では,日韓の防衛協力はなかなか容易ではない。
 今まで,中国は日米韓の分断を戦略の大きな柱の一つとして行ってきた。その典型例が,孫子の兵法にいう「交わりを断つ(伐交)」(謀攻篇第三),すなわち同盟を断つという戦略である。日韓,あるいは日米間に楔を打ち込む目的で,慰安婦問題や歴史問題などを利用した中国の分断作戦が展開されてきた。例えば,朴槿恵大統領が訪中して安重根の石碑建立を習近平国家主席に提案したが,翌年中国側はさっそくハルビンに記念館を開館させた。それは中国が歴史問題を日韓分断の有効な手段と考えたからだ。とくに歴史問題を中心とする日韓関係の難しさの前で,ある識者は「距離を置いた方が良い」と主張するが,私は放っておいて良いものかと思う。
 例えば,朝鮮半島有事の場合,韓国にいる数万人の日本人を迅速かつ無事に退避させるには,日韓の緊密な連携や事前のシミュレーションが不可欠である。これは「非戦闘員救出活動」(NEO=Non-combatant Evacuation Operation)と言われるものだが,民間航空機を利用することもあるかもしれないが,それが困難な場合は,自衛隊を出動させる救出作戦を展開しなければならない。しかし自衛隊の艦船および自衛隊員が韓国に入ることに対して韓国は(感情問題も絡んで)拒否するであろうから,韓国内は米軍ないし韓国軍によってどこかの港湾まで在留邦人を輸送してもらい,その後自衛艦や民間船で日本に退避させることになるだろう。しかし実際には作戦計画を立て,それをシミュレーションして準備することすらできていない。もし北朝鮮による南進など有事の場合には,大混乱に陥るだろうと思われる。そういう意味でも,韓国とは緊密な関係を築いておくことは重要なことである。
 こうした問題は,有事になってからでは間に合わないわけで,事前に日韓間で計画を練りシミュレーションをしておく必要がある。歴史問題などを理由に,韓国と距離を置いて放っておくとの考え方は,安全保障上決して得策とはいえないと思う。
(2016年2月18日,IPP/PWPA共催「政策研究会」における発題を整理した)
(『世界平和研究』2016年春季号,No.109)