トランプ政権スタート
―全ての米国民のための大統領になる

浅川公紀 (筑波学院大学名誉教授)

<梗概>

 2016年11月の米大統領選挙ではおおかたの予想に反してトランプ候補が当選した。その背景については政治・社会面からさまざまな分析があるが,キリスト教に基づく伝統的価値観を重視する保守的なサイレント・マジョリティの影響も小さくなかった。また全米国民のための大統領になると宣言したトランプ次期大統領だが,国内の分裂は簡単には収まりそうもない。アジアや欧州をはじめ世界にとって影響の大きい米国政治の動向だけに,今後のトランプ政権の行方に大きな関心が注がれている。

大番狂わせの大統領選結果

 2017年1月20日,トランプ政権がスタートした。これに先立ち11月8日に実施された2016年米大統領選挙投票の即日開票結果は,大方の予想に反して,共和党候補ドナルド・トランプ(70)が当選に必要な選挙人票270人を大幅に上回る少なくとも306人を獲得,投票日直前の予想を覆し,民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(68)に勝利した。同時に実施された連邦議会選挙でも,共和党が予想以上に善戦し,上院(定数100)は共和党52議席,民主党46議席,無所属2議席,下院(定数435)は共和党241議席,民主党194議席となり,共和党が上下両院で過半数を維持した。これにより,2017年1月には,共和党がホワイトハウス,議会上下両院を支配する構図となった。
 一般投票における得票数は,トランプ,クリントンとも約6000万票だったが,クリントンの方が約200万人上回った。しかし人口が多く,したがって選挙人票が多い激戦州でトランプが勝利したため,選挙の勝敗を決する選挙人票ではトランプが勝る結果になった。

沈黙する多数派の存在

 世論調査の予測とは正反対の結果になったのは,グローバリゼーションの恩恵から取り残され,2008年のリーマン・ショックでさらに経済的に追い詰められて希望のない状態に陥っている大卒未満の白人中低所得層,いわゆる「怒れる白人」が予想以上に投票所に押し寄せ,トランプに投票したことだ。激戦区とされた州の多くは,オハイオ,ミシガン,ウィスコンシン,ペンシルバニアなどグローバリゼーションの国際競争で敗退した自動車産業や鉄鋼業などの製造業が位置していたラストベルト(さびついた製造業地域)で,大卒未満の白人中低所得層が多く住む地域だった。
 またこれらの地域で,事前の世論調査結果と実際の開票結果の間のギャップが最も大きかった。8割以上がリベラル派とされる米国のテレビ,新聞などのマスコミは連日,トランプに批判的な報道や論評を繰り返し,トランプ支持を公言しにくい社会的雰囲気を作り出した。こうした「怒れる白人」は,世論調査で誰を支持するかを聞かれても本音を言わない「隠れトランプ票」だった。トランプが選挙戦で,イスラーム教徒排斥,メキシコ系など外国人への偏見・差別,他国の政治体制や宗教への誹謗,女性への蔑視など過激な言動を繰り返し,国内外のマスコミから激しい批判を受け,共和党内部からも攻撃される中で,トランプ支持を公言することを憚(はばか)ったとも見られている。これらの州では,白人のトランプ支持の数が2012年大統領選挙当時の白人のミット・ロムニー共和党大統領候補支持の数を大きく上回った。
 世論調査と現実の乖離のもう一つの要因は,一般大衆のクリントンへの反感が予想以上に強かったことだ。クリントンが頼みにした女性,マイノリティのクリントン支持票が思いのほか伸びなかった。その理由は,ホワイトウォーター疑惑など過去の不祥事に加えて,クリントン国務長官時代の私用メール・サーバ使用をめぐる国家安全保障を軽視した公私混同の不祥事,さらに国務長官の地位をクリントン財団の利益誘導に利用した利益相反疑惑などで,大衆の多くがクリントンに不信感を募らせ,その不信感が投票日まで解消されなかったことだ。
 しかしそれ以上に重要な要因は,マスコミや世論調査が,民主党のクリントン,オバマ政権下で進んできた同性婚普及,マリファナ(大麻)解禁などに象徴される米国社会の世俗化,伝統的価値観の崩壊を憂慮する保守的な沈黙の大衆の存在を過小評価したことだ。
 世論調査では,米国民の60%から70%が,米国社会は悪い方向に向かっていると考えており強い不安を抱いているが,その多くが保守派である。この米国の先行きに不安を感じる大衆は「サイレント・マジョリティ(沈黙する多数派)」を形成しており,オバマ政権2期8年に続いて,オバマ路線を継承するクリントンと3期にもわたってリベラル政権が続くことに強い懸念を抱いた。こうした沈黙の大衆の多くは,伝統的なキリスト教的倫理観,価値観を持ち続ける宗教的,社会的保守派で,米国では文化の戦争が行われていると考える人々である。
 共和党の中で隠然たる影響力をもつ福音派(エバンジェリカル)もこうした人々に含まれる。福音派は,トランプが昔は女性の妊娠中絶を支持する立場を表明していたが予備選で中絶反対に態度を変えたことなどを問題視し,必ずしもトランプを心から支持していたわけではない。全米の福音派指導者がトランプが共和党候補指名を獲得した後に,ワシントンに集まって選挙対策を議論したことがある。福音派はトランプのイスラーム教徒排斥や女性差別の暴言など一連の問題点を挙げた後,それでもクリントンよりはるかにましであると結論し,トランプ支持を表明した。
 次期副大統領のマイク・ペンス・インディアナ州知事も「自分はまずキリスト教徒であり,保守派であり,共和党員だ。その順番だ」と語っており,カトリック教徒として育った福音派である。ペンスはトランプから副大統領候補になるよう打診された時,トランプとは多くの点で意見を異にしていたが,クリントンが大統領になることだけは絶対に阻止しなければならないと考えて,その申し出を受け入れた。米国にはペンスのような人々は多くいる。
 トランプは11月11日,政権移行チームの新しい体制を発表した。それまで政権引き継ぎの実務責任を担っていたニュージャージー州知事クリス・クリスティーを降格させ,マイク・ペンス次期副大統領を政権移行委員会の委員長に据えた。ペンスは議員歴もあり共和党内外に幅広い人脈を持っており,ホワイトハウスと議会との繋ぎ役を含め,トランプ政権で大きな役割を果たすことが予想される。
 ペンスは熱心なキリスト教徒として国のために奉仕する無私の精神をもつ政治家として共和党内外で尊敬されていた。また共和党全国大会を前に宗教保守派,社会保守派を代表するテッド・クルーズと対立していたトランプには,宗教保守派であるペンスを副大統領候補にすることにより,クルーズを支持する保守派有権者を取り込み,共和党内を団結させたいという思惑があった。
 米国社会では現在,同性愛者など性的少数者(LGBT)などを批判するのをタブーとするPC=ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の考え方が深く浸透しており,自分のキリスト教信仰を公然と発言できないような風潮がある。この風潮は,マイノリティの人権擁護という名目でオバマ大統領のもとで助長されてきた。宗教的,社会的保守派はこの風潮のもとで沈黙を余儀なくされてきたが,社会の現状に対する不満を鬱積(うっせき)させてきた。この沈黙の大衆にとって,クリントンはオバマの継承者であり,オバマ以上の宗教的,社会的リベラル派である。彼らはクリントンを阻止するために,多少の欠点には目をつぶってトランプに投票した。
 トランプとペンスのコンビは,米国の経済,社会の現状に強い不満や不安を抱く白人低所得層,宗教的・社会的保守派をそれぞれ代弁した。クリントンがオバマにより作り出されてきた経済と社会の現状維持を意味したのに対して,トランプとペンスのコンビは現状の抜本的な方向転換,変革を意味した。トランプの得票は西部を除く全米の殆どの地域で2012年選挙時のロムニー候補を上回った。しかしクリントンの得票は全米のほぼ全域で2012年選挙時のオバマを下回った。
 トランプは自分の大統領選挙キャンペーンを選挙活動ではなく「運動」であると呼んだが,それは怒れる大衆,沈黙の大衆が生み出した「変革の運動」だった。トランプは政治経験はなく,選挙で公職に就いた経験も軍人の経験もない初めての大統領である。選挙による公職を経験したことがない大統領としては,軍人であったアイゼンハワー以来となる。トランプの不動産開発やテレビのリアリティ番組での経験は,米軍における英雄だったアイゼンハワーとは大きく異なっている。大衆はこの究極のアウトサイダーに,ワシントン政治の変革を通しての米国の政治,経済,社会の変革を託したのだ。

米国内の分裂

 トランプが第45代大統領に当選して,今後どのような政策を打ち出してゆくかについて,さまざまな憶測が広がった。トランプが11月9日未明,選挙で勝利を確定した時,世界の金融市場は即座に反応し,アジア,欧州の市場は軒並み大幅に下落した。しかし,その後,アジア,欧州の市場は反転し,安定を取り戻した。ニューヨークの株式市場も当初,先物が急激な下落をしたが,その後9日,10日と続伸し,3カ月ぶりに最高値を更新した。トランプの勝利演説が選挙キャンペーン中の過激な暴言とはトーンを大きく異にする団結と協力を訴える宥和的なものだったことが,市場の回復を助けた。
 トランプは,クリントンから勝利を祝う電話を受けたとし,「全ての米国民のための大統領になる」,「米国でこれまで忘れ去られてきた人々はもう忘れられることはない」と語りかけた。さらにトランプは,「米国は分裂の傷を乗り越え,団結すべき時だ」と訴えた。また「この国は,人々のために奉仕することを願っている宗教,信念や人種の違う様々なバックグラウンドをもつすべての米国人により構成されている。全員が一丸となって行動し,アメリカンドリームを取り戻すという喫緊の課題に着手する」と述べた。
 さらに市場は,トランプが大幅減税,規制緩和,インフレ再建などの公共投資の拡大を経済政策として掲げてきたこと,さらに勝利演説で「まずわれわれの都市を再生する。高速道路や橋,トンネル,空港,学校,病院などインフラを再整備するために,数百万人の人々を再生の立役者として投入する」,「経済成長を倍にし世界一の経済大国にするとともに,米国と進んでいい関係を築こうとする国々と協力してゆく」とし,国家成長のインフラ再建プロジェクトを約束したことに好感をもって反応した。
 さらにトランプは,これまで選挙キャンペーン中にした暴言の数々で極端な政策を打ち出してきたが,それを現実路線に修正する柔軟姿勢を見せ始めている。これは,トランプの大統領としての行政が,選挙キャンペーンとは異なったものになってほしいという多くの米国民にかすかな希望を与え始めている。
 トランプは選挙勝利宣言で全ての米国民の大統領になることを約束し,国民の結束を呼び掛けたが,しかしながら米国社会は分裂の様相を深めている。
 米大統領選挙で共和党のドナルド・トランプが勝利した結果,11月9日以降1週間にわたって連日,全米各地で都市部を中心にトランプ当選に抗議するデモが起こり,拡大した。11月11日には,少なくとも全米25都市で抗議デモが行われ,数万人が参加した。一部のデモ参加者は暴徒化し,店舗の窓ガラスを割ったりゴミ箱に火をつけたりし,多数の逮捕者も出た。交流サイトなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて,抗議参加者は膨れ上がる傾向にあり,抗議デモが継続している。トランプが選挙期間中に主張した政策により大きな影響を受けるマイノリティもデモに参加している。13日までに,トランプ当選に反発する抗議デモは全米82の都市に広がり,マイノリティへの差別的言動や嫌がらせなどヘイトクライム事件が300件以上発生した。ニューヨークではナチスドイツのカギ十字の落書きが見つかり,リンチのように首にひもを巻いた黒地肌の人形が置かれる嫌がらせが発生している。南部貧困法律センター,在米イスラーム改善協会は,ヘイトクライムの件数が大統領選挙後,2001年9月11日同時多発テロ直後より上回る可能性があると警告した。
 11月9日には,民主党支持者が多いニューヨークやカリフォルニア州オークランドなどで,授業をボイコットした学生など数百人の若者を中心に大規模な抗議デモが起き,トランプ大統領当選反対運動を繰り広げた。カリフォルニア州サンフランシスコ近郊のバークレー高校では,生徒,教員ら1500人が校庭からカリフォルニア大学バークレー校に向けてデモ行進を行った。
 11月10日にも,反対運動が再開し,西部のワシントン州シアトル,南部のテキサス州ダラス,東部のペンシルバニア州フィラデルフィアなどでデモが行われ,デモ参加者は「私の大統領ではない」,「人種差別と闘う」などと書いたプラカードを掲げて気勢をあげた。
 ニューヨーク中心街にあるトランプタワー周辺では,集まった抗議者が警官に囲まれながらプラカードを掲げて行進し,警官が警備を強化して通行止めになるなど,厳戒態勢が敷かれた。トランプタワー周辺では連日デモが繰り広げられている。オレゴン州ポートランドでは,10日,数千人がデモに参加し,当初は平和的なデモ行進だったが,一部が煉瓦を投げたり商店のガラスを割ったりして暴徒化した。デモ参加者の一部は,公共の建物に「くたばれトランプ」などと落書きしたり,路上に駐車された車両を叩き壊すなどの破壊行為にエスカレートした。警察は「暴動」として取締を厳しくし,暴力化したデモ参加者を逮捕した。
 西部のカリフォルニア州ロサンゼルスでは,警察とデモ隊が衝突して,警官が負傷し,200人近くが逮捕された。同州サンノゼでは,デモ参加者がトランプ支持者を殴ったり,卵を投げつけたりした。サンフランシスコでは,トランプに反発する高校生らが,LGBTを象徴する虹色の旗やメキシコ国旗を掲げ,トランプは「私の大統領ではない」と叫んで町中を行進した。
 11月15日には,首都ワシントンで高校生など数千人が学校の授業を放棄し,10月にオープンしたばかりのトランプ・ホテルの前から議会や最高裁判所に向けて大通りをデモ行進し,トランプに移民,女性などへの差別的言動を止めるよう気勢をあげた。
トランプは抗議デモについて,ツイッターで「とてもオープンで成功した大統領選挙だったのに,メディアに先導されたプロの活動家が抗議デモを起こしている」とし,「とても不公平だ」とコメントした。しかしトランプはその翌日,ツイッターのトーンを変え,「偉大な国をつくるエネルギーだ」と抗議デモのエネルギーを称賛しつつ融和と団結を訴えた。トランプは13日には,メディアがヘイトクライムを煽っていると非難し,ヘイトクライムのような行動はやめるよう呼びかけた。
 全米各地の抗議デモは,選挙結果への不満のはけ口のような抗議活動で,抗議したからといって選挙結果が変わるはずもない。建設的目的のない抗議活動である。抗議の声をあげるのは憲法で保障された言論の自由として支持する声がある半面,抗議活動が長引くにつれ,選挙結果は尊重すべきで4年間トランプに大統領職を任せるべきだと抗議そのものへの批判的見方や意見も強まっている。
 トランプの予想される政策に対する米国内における反発も広がっている。トランプは犯罪者あるいは犯罪歴をもつ不法移民200万人から300万人を国外追放あるいは収監するとしているが,地方自治体でこの政策に対抗する動きが拡大している。具体的には,トランプ政権発足後も,移民を保護する「聖域都市」であり続けると宣言する大都市が相次いでいる。
 9日のトランプ当選確定以来,ニューヨーク,ロサンゼルス,シアトル,サンフランシスコが「サンクチュアリ・シティ(聖域都市)」継続の方針を発表し,11月14日にはシカゴも同様の方針を発表した。これらの都市は,強制送還を前提にした不法移民の拘留を断固拒否し,正規の滞在許可の有無にかかわらず移民に対する公共サービスを継続すると約束している。これは地方自治体の人道的配慮からのスタンスだ。
 シカゴのラーム・エマニュエル市長は,オバマ政権1期目で首席補佐官を務めた経歴をもつが,「8日に起こったことが原因で,今後自分がどうなるのか不安を覚えている子供たちと家族ら全員に伝えたい」と前置き。「シカゴ市にいれば,安全で,安心して支援が受けられる」と語りかけた。とくに若者は,正規の滞在許可なしでも通学を継続し,無料のコミュニティーカレッジの教育も受けられると述べた。
 さらにロサンゼルスのチャーリー・ベック警察本部長は11月14日,市警の活動は不法移民に関する限り「同じ姿勢」だと強調し,トランプの不法移民強制送還に協力することを拒否することを明言した。同本部長は,「もし連邦政府が(不法移民の)国外追放にもっと攻撃的役割を果たすのなら,政府は自力でやったらいい」と述べた。同本部長は,ロサンゼルスだけで不法移民は50万人以上おり,それを逮捕し強制送還することは途轍もない努力を要すると指摘した。
 トランプにとって,敵意に満ちた激しい選挙戦で一層深まった米国民の分断をいかに癒し,融合へと向かわせるかが喫緊の課題になる。トランプはアウトサイダーとして,ワシントンの政治を変革し,社会に変化を起こすことを目指しているが,政策を実行に移すためには議会との連携が不可欠。議会の主導権をもつ議会共和党指導部とは選挙キャンペーンを通じて深い溝ができた。それを埋め,ホワイトハウスと議会の協力体制を構築することが急がれる。

分裂政治脱却の道

 大統領,議会が共和党支配となる「統一された政府」は,「分裂政治」を克服しプラスの実績を出す追い風になっている。さらに司法府である連邦最高裁判所の判事指名を通じて最高裁の思想的傾向に影響を与え,米国社会の方向性を決める大きな力を持つことになる。さらに州レベルにおいても共和党が過去100年近くで最も多くの知事をもち,共和党史上で最も多くの州議会を支配することになった。共和党がこれほどの連邦,州レベルの政府支配を達成したのは1920年代以来である。
 もちろん,分裂政治脱却の道は容易ではない。大統領選挙キャンペーン中に,共和党の主流派,保守派を代表するジョン・マケイン,ミット・ロムニー,テッド・クルーズなど多くの共和党政治家がトランプを批判し,距離を置いた。まず共和党内の分裂を解消し,党内結束を図らなければならない。そのうえで民主党との協力が必要だ。行政府,議会とも共和党主導の統一政府になったということは,国民が評価できる内政,外交の実績を出せなければ,国民の批判は共和党に向かうことになる。
 これまでのように,反対政党を批判しあうことが許された分裂政治の時代とは異なる。共和党には政権与党としての責任と国民に対する説明責任が重くのしかかる。国民の審判は2年後の中間選挙で即下されることになる。この状況もトランプにとっては追い風であり,トランプを揶揄していた共和党政治家も党の将来を思えば,トランプとの関係を修復し,トランプを中心に結束せざるをえない。
 トランプは,部分的には1980年代のレーガン大統領を手本にしていると見られる。補佐官や閣僚に優秀な実務者,専門家を配置し,自らはオーガナイザーの役割を果たす。国内の対立勢力とも交渉して団結を求め,諸外国に対しても経済的利害だけでなく軍事,外交,政治など多角的な視点からアプローチする。それにより,国内,国際において全体に利益になるような実績を追求する。トランプが鍵になる閣僚,補佐官の知見,経験を引き出し,彼らに責任を与え,それを管理するレーガン型の政権運営方式を取るとすれば,閣僚の人選が極めて重要になる。優秀な人材に責任を与え,自らはまとめ役に徹するレーガン型指導者にとって,不可欠な資質だ。
 レーガンの場合,民主党が強かった議会と政策をめぐり対立した時に,全米向けテレビ演説などで国民の支持を直接取り付け,世論を動かして議会の態度を変化させた。レーガンが「偉大な意思疎通者」と呼ばれたのはそのためだが,トランプの場合も国民からどれだけ支援されるかが,大統領として成功するかどうかの無視できない要因になる。このためにも,米国民の分断をできるだけ早く解消し,大統領への支持率を引き上げなければならない。
(2016年11月27日)
(初出:『世界平和研究』2017年冬季号,No.212)