北朝鮮の核・ミサイル開発と対応策の模索

遠藤哲也 (元日朝国交正常化交渉日本政府代表)

<梗概>

 北朝鮮は最近ミサイル発射と核実験を頻繁に繰り返している。それに対して日米韓をはじめ国際社会から強い非難を浴びるとともに,国連および日米韓による制裁も実施されてはいるものの,思うように所期の効果が上げられず膠着状態にある。トランプ政権は,全ての選択肢がテーブルにあると繰り返し述べているが,その具体的な内容は明らかではない。そこで北朝鮮に対する選択肢を検討しながら,今後の現実的な対応策を考えてみる。

はじめに

 北朝鮮は核実験(2006年以降6回)と頻繁に各種弾道ミサイルの発射実験を重ね,核・ミサイルの技術を着実に向上させている。これに対し,国際社会は激しく反発し国連を通じ,また各国それぞれが非難,抗議し,経済制裁を強めているが,北朝鮮は強硬な態度を続け,今までのところ,さしたる効果は上がっていない。
 このような状況を内外のメディアは大きく報じているが,その多くは事実の報道に終始し,対応策については問題の難しさからか,タカ派的あるいはハト派的な断片的なコメントが多く,米国政府筋でさえ,すべての選択肢はテーブルにあると繰り返し述べているが,選択肢の全貌は明らかにしていない。
 本稿では,事実分析はなるべく少なくし,対応策について,選択肢を取り上げ,功罪得失および問題点を論じ,最も現実的な施策を考えてみたい。

1.ミサイル開発の現状と見通し

 北朝鮮の最大の目標は,米国本土に確実に到達できる核搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発,完成と実戦配備で,一両年中には達成できるのではないかというのが大方の見方である。
 そこで,まず核弾頭およびミサイルの開発につき,現状,今後の見通しについて以下に取りまとめてみる。

(1)核弾頭について
 これまで合計6回の実験を通して,ウラン型,プルトニウム型,核融合を一部利用したブースト型原爆,水爆型の各種核弾頭の開発に成功したとみられる。爆発も格段に大きくなっている。第6回目の核実験は水爆と言われており,爆発力は120キロトンから200キロトン以上との諸説があるが,広島に投下された原爆が20キロトンとすれば,決定的に強い威力である。
 核弾頭の小型化,軽量化は焦眉の急である。短・中距離ミサイルに搭載可能な核爆弾の小型化には,すでに成功しているとみられている。ICBMについては諸説があるが,いずれにせよ,時間の問題である。
 現在の保有弾頭数は20~60個との推測がある。だが,再処理施設,ウラン濃縮施設が稼働しているので,今後保有数は確実に増加しよう。

(2)弾道ミサイルについて
 頻繁な発射実験によって,各種の中距離ミサイルおよび長距離弾道ミサイルの開発に取り組んでいる。
 韓国全域は短距離ミサイル「スカッド」の射程に入っているし,日本もすでに中距離ミサイル「ノドン」の射程距離に入っているが,次いで,米国領土のグアムも中距離ミサイル「火星12号」の射程に入ることになった。
 前述の通り,ICBMの完成も時間の問題であろう。
 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験にも成功したとのことであるが,今後SLBMの一層の開発と,そのための潜水艦の開発に,積極的に取り組んでいくものと思われる。
 その他,北朝鮮が開発に重点を置いている次のような分野がある
・大気圏再突入技術
・飛しょうの長距離化
・ミサイル燃料の固体燃料化(発射準備時間を短くし,かつ秘匿化に役立つ)
・命中精度の向上(北朝鮮の核攻撃の目標は都市と思われ,核基地攻撃のための精度は必ずしも必要とされないだろう)

(3)核・ミサイル開発への評価
 北朝鮮の核・ミサイルの開発は,着実に進んでおり,目標到達までの時間は切迫している。開発には,外国からの秘密裡の技術や部品の導入によるところも多いと思われるが,その中心は自主開発で,この分野での北朝鮮の技術力を過小評価してはいないか。

2.北朝鮮は,なぜ核・ミサイルに固執するのか,放棄する可能性はあるのか

 北朝鮮が核・ミサイルに本格的に着手したのは,1970年代頃からであったと思うが,80年代になって拍車がかかり,現在も急ピッチで進められている。少なくとも米国本土に核・ミサイルが到達することについて確信を持ち,それを内外に誇示できるまでは開発が続けられるだろう。北朝鮮がおいそれと,核・ミサイルを放棄するとの幻想は抱くべきではない。
 それでは,なぜ北朝鮮は核・ミサイルに固執するのだろうか。1つは南北両朝鮮の軍事力の格差拡大に起因する。1970年代から南北の経済格差が拡大し,それが軍事力にも影響するようになった。さらに冷戦終焉後は,中ソという後ろ盾を失い,南北軍事バランスは質的に北朝鮮に不利になってきている。その挽回手段として,核・ミサイル,化学兵器は極めて有効である(ちなみに,北朝鮮は2500~5000トンの化学兵器を持っている可能性がある)。また,北朝鮮主導の南北統一は北朝鮮の至高の国家目標で,そのためには北朝鮮の韓国に対する軍事的優位は不可欠である。北朝鮮が米国に対し,執拗に平和協定の締結を求めるのも,それによって在韓米軍を撤退させ,北主導の南北統一を狙っているからと見られる。
 2つ目は(今やこれが核・ミサイル開発の主目的になってきているが),対米抑止の手段である。金正恩政権の念頭には,リビアのカダフィおよびイラクのフセイン政権崩壊の様子が鮮明に焼き付いている。一片の口約束や紙の上の合意は何の役にも立たず,核による抑止力が生存のために不可欠との思いである。日本や韓国(在日,在韓米軍の基地も含む)を人質に取るだけでは足らず,グアム,ハワイなど米国の海外領土,そして最終的にはICBMによる米国本土への核・ミサイル攻撃の可能性を備えることが対米抑止のために必要不可欠と考えている。さらにそれによって,米国と同盟国である日韓を分離させる(de-coupling)ことができると考えているようだ。
 3つ目は国内政治的な問題である。金政権の体制維持のためには,軍部の支持を固めることが必要であり,核・ミサイルはそのための有効な手段と考えているようである。また,国民に対しても感情的に訴えるところがあるとみている。
 このような動機に基づく北朝鮮が核・ミサイルを放棄する可能性はあるのだろうか。これまでの歴史を見てみると,一旦核を持った国が核を放棄したのは,南アフリカのみで,これは白人政権から黒人政権への歴史的な移行という特殊な事例であった。ここまで開発が進んで来た北朝鮮に「虎の子」である核・ミサイルを断念させることは至難の業であろう。北朝鮮に核・ミサイルを放棄させるのは,おそらくレジーム・チェンジか,外交的,政治的,経済的に金政権(金王朝)の存亡がかかった極限状況の場合のみではないかと思うが,この点については後述する。

3.対応策の模索(選択肢の検討)

 北朝鮮の核・ミサイルの開発に,これまで国際社会が手を拱いていたわけではない。国連安保理による累次の非難声明,決議の発出,経済制裁の漸次強化,日米韓などの独自の経済制裁,米朝枠組み合意とそれに基づく朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の設立(筆者も関与した),日米韓中露および北朝鮮の六者協議など有志国による枠組みである。しかし,結果的には功を奏さず,北朝鮮は開発の手を緩めていないばかりか,開発の速度を上げている。
 既述の通り,核・ミサイルが米国本土に届くのは時間の問題と思われ,脅威は新しい局面に入りつつあると言える。内容は明らかにされていないが,米国はすべての選択肢は机上にあると繰り返し述べているが,どのような選択肢が考えられるのか,以下に順不同で列挙し,得失,問題点を考えてみたい。

(1)軍事行動
 軍事力行使には大きなリスクが伴う。軍事行動には様々の形があるが,仮にミサイル基地や核関連施設,政権中枢部を通常兵器で攻撃する限定攻撃であっても,全面戦争に拡大していく可能性が大きい。また,限定攻撃といっても,地下要塞化された北朝鮮のサイトを完全に把握しているのか,確実ではない。
 他方,北朝鮮は報復措置として,人口1,000万人を抱える軍事境界線から,わずか50kmにあるソウルを「火の海」にする恐れがあり,韓国には20万人を超える米国市民が住んでいる。マティス国防長官はソウルを重大な脅威にさらさない軍事行動の選択肢があると言っているが,具体的な手段は明らかにされていない。サイバー攻撃によって,北朝鮮の指揮命令系統を破壊することなどを考えているのだろうか。
 北朝鮮による報復攻撃は日本にも及ぶ。日本(在日米軍基地を含む)は,すでにノドンの射程距離に入っているので,核攻撃あるいは化学兵器による大きな被害を被ることは必至であり,PAC3やSM3のミサイル防衛によっても,相当の被害は免れないであろう。
 米国は1994年の核危機の際に,当時のクリントン政権(ペリー国防長官)は,核関連施設への先制攻撃を検討したことがあるが,韓国への被害が甚大との韓国側の反対によって,断念したことがあり,北朝鮮の核・ミサイルの能力がはるかに進んだ現在では,被害ははるかに大きいであろう。
 北朝鮮からの先制攻撃の可能性も否定できない。しかし,金政権は米国の圧倒的な軍事力を認識しており,北朝鮮が先に手を出せば,北朝鮮が滅亡することを知っている。北朝鮮はレトリックは激しいが,決定的な行動には慎重であることは,これまでの経緯が示している。北朝鮮が公言している通り,太平洋上で水爆実験を行ったりすると,これは北朝鮮の軍事行動ととられる可能性がある。
 しかし,誤情報や誤判断に基づく偶発的な行動はあり得るし,特に緊張が高まっているときは,その恐れが大きい。また,北朝鮮が極限まで追い詰められたと金正恩が考えたときは,自殺行為もないわけではない。
 いずれにせよ,レトリック,心理戦はともかくとして,軍事行動の可能性は,とりあえず低いと思われるが,万が一に備え,準備しておくことは必要不可欠である。

(2)レジーム・チェンジ
 もし平和裡に改革路線,穏健路線へのレジーム・チェンジが行われれば,最善のシナリオである。しかし,金王朝下では国民大衆による下からの革命,側近による宮廷革命,軍の不満分子による軍事革命の可能性が大きいとは思われない。いわゆる,「斬首作戦」も容易なことではない。
 世界最強の閉鎖国家であり,国内の内部監視も非常に厳しく,大衆レベルからの革命の可能性は少なく,軍部の,特に上層部は「アメとムチ」で手なづけているし,金正恩の身辺警護は極めて厳しく,宮廷革命や外部からの暗殺行為も,なかなか難しい。
 レジーム・チェンジが偶発的に起こり得ることは否定できないが,これが生ずる可能性は低いと考えられる。ただし,強力な閉鎖国家とはいえ,外部からの情報の流入は増えており,大衆も外の状況を次第に知るようになってきている。しかるがゆえに,政権側も経済を少しでも良くして,国民の不満を和らげる努力をしている。
 しかし,中・長期的に見ると,金政権の経済と核の「並進路線」が順調に進むはずはなく,外部情報の流入増と相まって,いつまでも現状が続くとも思われず,レジーム・チェンジの可能性はある。国際社会としては,情報流入に一層努力すべきである。
 このように北朝鮮のレジーム・チェンジが望ましいが,金王朝の後継政権が核・ミサイル路線,人権抑圧政策を相変わらず,放棄しないこともあり得るので,手放しの楽観は危険である。

(3)圧力強化と国際社会での孤立化
 北朝鮮の核・ミサイル開発を抑えるためには,現実的かつ有効な手段である。これまでも国際社会は国連安保理決議を通じ,また日米韓は個別の制裁を課し,次第に強化して厳しいものになってきている。北朝鮮の隣国で,北朝鮮の対外貿易の9割を占める中国と,これまた隣国で関係の深いロシアも国連決議に加わっている。石炭,鉄,鉛,繊維製品,海産物など北朝鮮にとっての有力輸出品が,また輸入面では原油,ガソリンなど石油精製品が制限され,貿易が大きく禁止されることになった。北朝鮮は中露を中心に,50数カ国にビザを取得していない者を含め,20万人の労働者を海外派遣していると言われる。労働者の新規派遣の禁止が国連安保理決議に認められた。
 さらに,第二次制裁(secondary sanctions)として,米国は北朝鮮と取引のある第三国企業,金融機関(中国が主要な対象国となる)に対して,米国から締め出す,追加措置を講ずることとなった。非常に厳しい経済措置である。
 しかし,もともと経済的にも孤立していた北朝鮮にとって,対イランの場合とは異なり,圧力がすぐに効果を出さないかもしれず,今後注意深く見守り,不十分とあれば,原油の全面禁輸など,さらなる制裁の強化を検討していく必要がある。とりあえず,必要なことは国際社会全体として,制裁の忠実な履行である。
 北朝鮮は約160ヵ国と外交関係があるが,それらの諸国に対して,北朝鮮との経済関係,外交関係の見直しを勧奨することである。多くの場合,それはシンボリックな効果しかないかもしれないが,北朝鮮に一層の国際的孤立感を与えよう。すでにいくつかの国が北朝鮮の駐在大使に「ペルソナ・ノン・グラータ」として,国外退出を求めている。
 制裁は現時点での現実的な手段であるが,北朝鮮を追い詰めて,北朝鮮を爆発させるリスクがあるので,この点を念頭に入れて,準備をしておくことも必要である。

(4)対話路線
 今は少なくとも公式には対話,交渉の時期ではない。米朝対話で北朝鮮が求めるのは,米国の対北朝鮮敵視政策の放棄,その証として,休戦協定に代えて,平和協定の締結,在韓米軍の撤退,米韓軍事演習の中止,制裁の解除などであろう。
 そして,その要求を貫徹するには,米国本土を直接攻撃できる核・ミサイル能力を持つことが前提であると考えている。他方,米国側は必ずしも対話に否定的ではないが,過去の北朝鮮との対話は失うものばかりで,得るところがなかったとし,対話には北朝鮮の核・ミサイル開発の放棄を前提としている。
 このような状況で,米朝が折り合う見通しは乏しく,対話の可能性は少ないとみられる。むしろ対話云々は弱みと,とられかねない。
 短期的には,対話路線は望ましくないが,中期的には必ずしもそうではない。軍事路線はハードルが高く,レジーム・チェンジは予測不可能なところが多く,圧力(制裁)路線が所期の効果を生まず,北朝鮮が相変わらず,核・ミサイル開発を続けるとなれば,米朝間の交渉が浮かび上がってくる可能性がある。現に,米国の識者の中には,対話を模索する動きがある。現実問題として,リスク管理が必要であるとの考えである。すなわち,長期目標としては核・ミサイルの完全放棄(非核化)を求めつつも,とりあえずは何らかの現状凍結であり,北朝鮮の核との共存である。これには合意の厳格な検証が必要であり,特にこれまで往々にして,国際合意を破ってきた北朝鮮のことだから,なおさらそうであり,米国側として,どのくらいの代償が出せるかにかかっている。米国の同盟国である日・韓の国益が守られなければならないのは言うまでもない。

4.日本の対応

 日本は北朝鮮の核・ミサイルの開発阻止,破棄に向けて何をすることができるだろうか。この問題の主役は米国であり,日本はできる限り,常に国益に配慮しつつ,米国の行動を支援すべきである。
 現在は圧力路線の段階であり,国連安保理決議が完全に履行されるよう,国際社会,特に鍵を握る中国,そしてロシアにも米国と協力して働きかけることが必要である。米国の個別制裁にも,できる限り協力していくことが望ましい。
 圧力路線が十分に効果を現わさない場合には,時間が切迫しているので,いつまでも待つわけにもいかず,軍事路線あるいは対話路線を検討せざるを得なくなる。両路線とも,すでに触れたように,日本にとって,大きなリスクを伴うものである。
 軍事行動については,前述の通り,マティス国防長官は韓国の被害を最小限に抑えられるとは言うものの,韓国,ソウルは相当の被害を被ることは必至であろう。北朝鮮の弾道ミサイルの射程領域にある日本も大きな被害を免れない。したがって,米国が軍事行動に舵を切る場合には,韓国,日本とも十分の事前協議が必要であり,非常事態に対して,事前協議を行っておくことが必要である。日米両首脳間の信頼関係をベースに秘密裡の話し合いが必要である。
 対話路線は履行する場合,どのようなシナリオが選ばれるかは日本に大きな影響を与える。北朝鮮がICBMの開発を断念する代わりに,米国が核兵器と中距離までの弾道ミサイルの保有を認めるという妥協は,日本とって,安全保障上の深刻な影響を与える。対話路線について,日米・日米韓で仮想のシナリオとしてでも,あらかじめ極秘裡に協議を行っておくことが必要である。
 政府間協議があまりにもセンシティブであるのであれば,有識者間でのセカンド・トラックの協議が現実的かもしれない。
 今一つは言うまでもないことだが,イージス・アショアの配備も含め,ミサイル防衛のさらなる強化である。
 なお,北朝鮮対応に当たっては,米国を中心に日米韓の固い結束は必要不可欠であり,それを妨げるとの印象を与えかねないような行動,特に韓国の対北朝鮮行動が慎重であってほしい。
 日韓関係には,歴史認識を巡る微妙な問題を抱えているが,いわゆるツー・トラック・アプローチに従い,安全保障面では意思疎通を図り,協力していくことが必要である。
(2017年10月1日)

プロフィール えんどう・てつや
1958年東京大学法学部卒。同年外務省入省。77-78年在ロンドン国際戦略問題研究所研究員,89年ウィーン国際機関日本政府代表部初代大使。93年日朝国交正常化交渉日本政府代表,95年朝鮮半島エネルギー開発(KEDO)担当大使,96年駐ニュージーランド大使等を歴任。その後,原子力委員会委員長代理,福島原発事故独立検証委員会委員等を経て,現在,日本国際問題研究所特別研究員。専攻は,国際政治,外交,原子力。名誉法学博士(米国デポー大学)。主な著書に『北朝鮮問題をどう解くか』など。